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第15話

俺達は束の間の休息を取り、またすぐにダンジョン攻略に移った。

ダンジョン攻略と言っても、ナナの道案内に従いダンジョンをただ下っていくだけ。道中で魔物に会いもするが、特に苦戦などはせずにどんどんと下層に降りていった。


「今どのくらいだ?」

「今は三十八階層であります。そろそろ構造が変化する頃でありますから、注意して着いてくるでありますよ」

「あぁ、分かった」


ナナがそう言って立ち止まる。


「おかしいであります、予想と違うであります」

「どうした?」

「旦那様、ここより先何かあるかもしれないであります。気を付けて進むでありますよ」


ナナはそう言ってまた進み始める。数歩進んで俺はナナの言っていた意味を理解した。

ナナの言う通り、俺達の進む空間には円柱状に開放された空間が広がっていた。

その空間の中央に、大きな黒い物体が蠢いていた。


「あれは、なんだ?」

「・・・魔物であります!」

「ひひ、デカイな!」


黒く蠢いている物体が立ち上がる。四足で大地を踏み鳴らし、突出した部分に目と口が現れる。

四足獣の様な見た目のその魔物は、巨大な二本の角を持つ牛の様な魔物だった。


「ベヒーモスだぞ!」

「ダンジョンのボスって雰囲気だな・・・!」

「角に気を付けるでありますよ!」


ナナは先陣を切ってベヒーモスに突進する。ベヒーモスもこちらを敵と認識したのか鼻を鳴らし、重々しい足で突進を開始した。

ナナは盾の様に大剣を構え、ベヒーモスの突進を正面から受け止める。


「お、重い・・・!」

「いい活躍だ!」


ベヒーモスの動きが止まった隙に、サクラがベヒーモスの背中に飛び乗る。爪を突き刺し、背中を開く。そこに腕を突っ込み、内蔵を引きずり出す。


「我に掛かればベヒーモスの一匹や二匹、こんなもんよ!」

「うへぇ・・・」

「うげぇであります・・・」


ベヒーモスは体を大きく震わせ、その場に倒れて動かなくなった。

その瞬間、部屋の入口が閉じられた。


「なに!?」

「なんだ!」

「なんでありますか!?」


重々しい岩石の様な物ではなく、どこにあったのかブヨブヨとした弾性のある物体が部屋の入口を塞いでいる。

部屋の上部の方で、何かが動く様な音がした。


「危ないであります!」


ナナが俺に覆い被さる様に飛び掛る。大剣を傘の様に構えると、何かが落下してきて大剣に弾かれ地面に落ちた。


「よ、溶解液!」

「高い所に避難しろお前様!」


サクラの叫び声と共に、天井から大量の溶解液が降り注いでくる。俺とナナは壁際に追い込まれ、溶解液から逃れようと壁を登る。

サクラは爪を突き立て壁をスルスル登るが、俺にはナナの様な大剣も無く壁を登る速度は遅い。すぐ足元にまで溶解液は迫っていた。


「こ、これは!?」


俺は壁に小さなくぼみを見つけた。それは牛の蹄の様な跡で、天井付近まで続いていた。

俺はそれに手を掛け足を掛け、壁を登った。

溶解液は部屋の半分を満たし、ベヒーモスの死体はすっかりと溶解液に包まれてしまった。

また何かが動く様な音が聞こえると、俺達が入って来た方向とは逆方向の壁が開く。溶解液と共に溶けかけたベヒーモスの死体は流れ、部屋の中はさっぱりと綺麗になった。


「なんだったんだ、一体」

「大丈夫か、お前様!」


部屋の反対側の天井にいるサクラが俺の安否を確認する。俺は返事をしようとサクラの方を見ると、天井から何かがサクラに迫っている事に気が付いた。


「サクラ、上だ!」

「上っ!?」


サクラの首を何かが掴んで地面に降り立つ。それは紛れもなく人型で、溶解液を全身に纏っている。


「ぎぎぎぎぎ」

「このっ!」


サクラは鋭い爪でその腕を切断し、壁際に飛び退いた。俺も壁の跡を伝って降りるが、壁から飛び降りたナナの方が早かった。


「主様に何をするか! 誰でありますか!」

「ぎぎぎ」


その人物は全身が溶解液で濡れていて、テカテカと光沢を放っている。


「お、俺が溶解液の中で見た人間だ! 気を付けろ!」

「無礼を働いたなら罰を与えるであります!」


ナナは大剣を振り被り、この人物を真っ二つにしようとする。その人物は残った腕でナナの大剣を受け止めようとするが、勢いを殺しきれずに壁まで吹っ飛ばされる。


「サクラ!」


ようやく地面に降りた俺はサクラに近付く。サクラは喉を軽く押さえながら、俺に向かって目で大丈夫だと合図をする。


「ナナ、敵はどこに」

「まだ土煙から出てきてないであります!」


壁から舞った土煙がゆっくりと晴れる。だがそこに、さっきの人物はいなかった。


「どこに消えた!」

「周囲を警戒するであります!」

「サクラも気を付けろ! ・・・サクラ?」


俺は返事のないサクラに違和感を覚え、振り返る。そこには、壁から生えてきた腕に首を掴まれているサクラがいた。


「サクラ!」


俺はサクラに駆け寄り、壁から生えている腕を引き剥がそうとする。その俺の腕に激痛が走る。

壁から生えている腕の内側から溶解液が染み出して、俺の手を溶かそうとしていた。


「うぉぉぉぉぉぉ!」

「ゲホッゲホッ!」


俺はなんとかサクラを壁の腕から引き剥がす事に成功する。すると、まるで壁を通り抜けるかの様にさっきの人物が姿を現した。


「何なんだ、コイツ」

「やぁぁぁぁぁぁ!」


ナナが飛び上がり、その人物に向けて大剣を振り下ろした。だがその人物はまるで溶け込む様に地面に消えてしまった。


「壁や地面から離れろ! 奴はどうやってか物体の中を通り抜けて攻撃してくるぞ!」

「お前様!」


俺は自分の足元を見る。地面から生えた腕は俺の足を掴もうと、ゆっくりと伸びてきていた。

俺はその腕を逆に掴み、引きずり出そうと引っ張り上げる。

だが腕は逆に地面に隠れようとするかのように下降を始めた。俺の狙い通りに。


「【反転】!」

「ぎ、ぎ、ぎ」


地中に潜る力が反転し、空中にその人物は打ち上げられる。

奇怪な音を上げながら打ち上がったその人物は溶解液を撒き散らしながら、真下にいる俺に狙いを定め落下しようとする。


「おらぁぁぁぁぁぁ!」

「やぁぁぁぁぁぁ!」


上方向からナナの大剣が振り下ろされ、下方向からはサクラの拳が同時に襲う。その人物はまるで卵でも潰したかの様に砕け、地面に散らばった。


「はぁ、はぁ」

「なんだったんでありますか・・・?」

「これは・・・岩?」


俺は残骸を拾い上げる。溶解液の分泌が止まりコーティングが剥げ、中身が見えていた。ダンジョン内で何度も見た、壁や床を構成する岩と何ら変わりないように見えた。


「さしずめ岩人間ってところか・・・」

「岩人間? そんなの聞いた事もないな。ゲホッゴホッ」

「あぁ主様、お水をどうぞ!」


サクラは喉を気にしながらナナの手から水を受け取る。

一気に飲み干し血の混じった液体を吐き出す。


「まだ喉がイガイガする」

「その程度のダメージかよ、俺なんて手がボロボロだ」

「人間は脆いでありますねぇ、っと」


ナナは手早く俺の手を処置し、軽く包帯を巻いた。

俺は手の平を何度か開閉しながら、ベヒーモスが流れていった通路を見つめる。


「この先に何があるんだ・・・?」

「この先は・・・予想が出来ないであります、ここからは未知数でありますよ」

「気を引き締めるべきだな、お前様!」


俺達はその通路に向かう。だが目の前でその通路は塞がり、ダンジョン全体が鼓動を始める。


「まずいであります! また構造が変化するでありますよ!」

「落ち着け、全部分かってるんだろ?」

「ここはイレギュラーな空間、どこに繋がるか予測不能であります!」


俺達の頭上で何かが動く音がする。天井が開き、何かが落ちてきた。

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