第弍章ー力ー
「……そうか」
首を横にふった加那の目に迷いはない。人をそこまで信じ切れるのは若さ故なのか、それとも生きてきた道程故のことなのか。炎陽にそれはわからないが、加那のその目を見て追求することはしなかった。
「僕が見た訳じゃないから憶測でしかないのだけれど、日向から聞く限りにおいては君のその目は、人の手によるものだと思う」
「なぜ、ですか?」
「理由は主に二つ。妖が君をそうさせた理由を思いつかないから。
そしてもう一つは、“あの日の夜、君に生霊が憑いているのを日向が見た”から」
「っ!?」
「……うん、見た」
驚愕に目を見開き、日向を見る加那。
それにバツが悪そうに日向が返事をする。
「勘違いしないでほしいのだけれど、日向がそれを君に言わなかったのはわざとではないよ。
生霊なんて、生きていれば何度だって憑くものなんだ。他人に嫉妬された。恨まれた。恋をした。失恋をした。人が人に感情を抱く時、その念が強ければ強い程それは形となって現れる。生霊となってね」
「あの夜、確かに加那ちゃんには生霊が憑いていた。
でも誓って言うよ。あの生霊は君に危害を加える類のものではなかった。だから何も伝えなかった。ごめん」
理由は、何となくわかった。見える側と見えない側。
多分、生霊は彼らには日常茶飯事であり特筆すべきものですらない。だから日向くんはあの時何も言わなかった。心配させたくないから。信じてくれるかもわからない、そんな“戯言”を、彼は彼の中で飲み込んだのだ。
……私なら、どうしただろうか。“見える側”に立った今、彼らのように立ち振る舞うことは出来ないと思う。だからこそ彼らをすごいと思う。
そして、見える側からすれば何の落ち度もない事なのに、迷いもなく頭を下げる彼がすごいと思う。上辺だけでなく、心から申し訳ないと言う彼には、多分私は成れない。
「日向くんが謝ることじゃないよ」
だからこそ、私は私自身をズルイと思う。
こんな言葉をかけたところで、彼は素直に受け止めないだろう。それどころか、私のこの言い表せないような苛立ちですらを背負ってしまうのだろう。
それを知っているのに私はそう言葉に出してしまう。それ以外にかける言葉が見つからないから。
思った通り、彼は泣きそうな顔で、でもどこか意を決した雰囲気でそっと私から目を逸らす。
……あぁ、本当に君は強いなぁ。




