第弍章ー力ー
「名前を知ることは相手を支配することと同じなんだ。だから昔の人達は呼び名とは別に真名を持っていた。“自分以外の者に支配されないように” 」
古来では名は己以外が知らぬものであった。でなければか弱い人間など異形のモノに喰われるから。
故に真名を隠していた。己以外のモノから身を守るために。
「だから名を付けることはとても重要なことなんだ」
「そっか……」
「まぁ今でこそそんな風習は廃れてしまったけどね」
平和な時代である故に。闇が闊歩する時代では無いために。
人々は名を知られ支配されることは無くなった。それは良いことなのだろう。少なくとも光の下で生きる者達には、の話だが。
「日向くんにも、その真名ってやつはあるの?」
「まあ、ね。こう言う家柄だから」
なるほど、と加那は頷く。
あの日の夜に日向は言葉にこそ出しはしなかったが、あの蜘蛛の化け物を名付け、どうにかしようとしたのだろう。実際に効果があったのかどうかは定かではないが。
「あんまり理解は出来ないけど、あんなのが存在するっていうのはわかったよ。
じゃあ何で私はアレが急に“見えるようになった”の?」
「……」
その質問に、日向は言葉を詰まらせる。
原因がわからないのだ。
先に父と話してみたが、その原因は憶測でしか語っていない。
故に日向は迷う。その憶測を話しても良いものなのかどうか。
その判断がつかない日向は父へと助けを求め目線を父へと移す。
「それは僕から説明しようか」
炎陽はこくりと一つ頷くと話し始める。
「まず始めに知っておいてもらいたいことがある。これから言うことは全て憶測の域を出ない。だからそれはとんと的外れなことかも知れない。
それでも大丈夫かい?」
「……正直言って困惑しています」
説明役が日向から炎陽に変わったこともあるのか、加那は一つ間を置いて話し始める。
「一昨日の夜からずっと色々考えていました。でも私には答えは出せませんでした。
それが例え憶測なのだとしても、私には日向くん達より詳しい人を知りません。
だから大丈夫です」
真っ直ぐに炎陽を見据えて言い放つ加那。
(ああ。
強いなぁ……)
その瞳を見て日向は素直にそう思う。
例えば自分が同じ立場に立ったとして同じことが言えるだろうか。いいや、例え大の大人だとしても大半が立ち向かえないだろう。
だからこそ、なのか。日向は彼女に憧れる。彼女を知り日は浅いが彼女の瞳に魅入ってしまう。
だが彼女のその目に魅入ってしまったことは日向自身気付かなかった。それ程までに純粋に、彼女を美しく思ってしまったのだ。




