第弍章ー力ー
「えっと、日向くんっていうのは……?」
「ん?私だけ名前で呼ばれるのって何か不公平じゃない?だから私も君のこと名前で呼ぼうかなって。
ダメだった?」
上目遣いで問いかける彼女の破壊力と言えばそれはもう半端なものではない。これで問われて否と答えられる男はいないだろう。
「ダメでは、ないけど」
故に日向は肯定するより他はなかった。
どうにもむず痒くなることを我慢すれば良いだけの話なのだ。
「……ふぅ。
ええっと、あの蜘蛛の話だよね?」
一つ息をついて本題へと戻る日向。それを聞いてこくりと加那は頷く。
「うん、なんて言えばいいかな。
有り体に言うならアレは妖怪と呼ばれるモノなんだ」
「妖怪って、あの妖怪?雪女だとか鬼だとかの?」
「そう、その妖怪。
蜘蛛が転じて妖となった姿。土蜘蛛」
ぞくりと、加那の背筋を何か冷たいものが通り過ぎた。
「周りにいた子蜘蛛は、ぼく達は魑魅魍魎って呼んでる」
「えっと、その土蜘蛛って言うのは私も知っているあの土蜘蛛?」
「いぶ……、加那ちゃんが知っている土蜘蛛って言うのは神楽とかで見るやつかな?」
こくりと加那は頷く。
「それは正解ではないかな。
伝説に残る土蜘蛛は既に滅された妖怪であるし、あの蜘蛛は“そんなに強い存在ではない”から」
神楽だとか、様々な物語に現れる土蜘蛛ではない。
既にその存在は過去に消えているのだ。
それにあの蜘蛛はあの土蜘蛛程、伝説に現れる程強くもなく、畏れもなかった。
「じゃあ何でその蜘蛛を土蜘蛛って呼んだの?」
故にその疑問は当然。
何故そこまで差のあるモノに、同じ名を冠したのか。
「それが何なのか、正体が分からないモノに人は畏れを抱く。
だから人々は夜を恐怖し、死を怖がる。よく分からないモノを畏れたから、妖怪と名付けてそれを区分した。
名前が付くだけで、グッと恐怖はなくなる」
暗闇を畏れたから、人々は夜に出歩かず。
神を畏れたから、人々は山へと立ち入らなかった。
しかし人々は光を得て闇を支配し、夜と名付けた。
しかし人々は科学を得て神を否定し、山を支配した。
名を付け支配し、英知を得て否定し、故に興味を失ったから忘れた。そう、忘れただけだ。
神を、闇を、妖を。光を得て幾星霜。英知を持って幾年月。世代を重ねて平和の世。彼らは彼女らは忘れただけだ。
それらの畏れを。




