第弍章ー力ー
「……」
どうやら逃げ場はないと理解した日向は意を決して息を吸う。そう、たかが名前だ同級生を名前で呼ぶだけなのだ。何を恥ずかしがることがあろうか。
「……か、……伊吹さん……」
ダメだった。
ジロリと加那に睨まれる日向。すいと視線を外すがどうやらじっと見られている気配がする。
……もうどうにでもなれ!ここにはあの口の軽い友人もいない。誰に噂されるわけでもない。
日向は本当に意を決する。
「か、かな、……ちゃん……」
呼び捨ては無理だった。流石にハードモードが過ぎる。
「……」
名前で呼んだ小っ恥ずかしさからなのか、はたまた別の理由なのか。いやに高鳴る鼓動を感じながら日向は加那の顔色を伺うためにずっと逸らしていた目線を加那に向ける。
うーん、と唸った加那の表情を日向は読み取ることが出来ない。物足りないとでも言いたげであるし、どこか落とし込んでいるようでもある。
「呼び捨てでもよかったんだけど。まぁ及第点、かな?
むず痒さはなくなったし」
どうやら合格出来たようである。
ほっと息を一つ吐いて日向は加那に向き直る。
「じゃあ本題に戻ろうか」
「うん、ごめんね?
何だか我慢出来なくて」
「いや、大丈夫だよ」
「じゃあ続きをお願いします、日向くん」
「ぶふぉ!」
不意打ちだった。まさか名前で呼ばれるとは。同年代の女の子に名前で呼ばれるのは何年ぶりだろうか。吹き出してしまった日向に非はないとあの友人ならば慰めてくれるだろうか。
確信犯なのか、天然なのか。加那は吹き出した日向を不思議そうに眺めている。
「っ!……ぷっ!」
隣に座っている水景は2人のやり取りに我慢が出来なくなったのか、小刻みに震えながら笑い声を漏らしている。
後で覚えておけよ。我が妹ではあるが、若干の怒気を混ぜつつ日向は水景をジロリと睨み付けた。
それが効いたのかどうか、水景は緩む口元を押さえて視線を外す。小刻みに震える肩はそのままではあるが。




