第弍章ー力ー
「うん、よく耐えたね。もう一週間も続ければ治るよ」
「一週間……」
これを一週間も……。正直想像するだけで辟易してしまう。まぁこうなってしまったのも自分の責任だ。むしろこの程度で済んでよかったと前向きに考えることにした。
「さ、お客さんをあまり待たせるものじゃない。歩けるかい?」
「あ、うん」
歩行に関しては、問題ないと思う。病院から電車を使ってだが駅から歩いて家まで帰ったし、今も鈍く痛みは続いているが、処置をする前よりかは幾分かマシに思える。
だが日向には加那に会う前にどうしても炎陽に聞かなければならない事があった。
「父さんには、彼女に呪いがかかってるのを見えた?」
「……呪い?」
「うん。一昨日……、土蜘蛛に出会す前の話。
最初はただの影だったんだ。途中からそれが形を変えて、二つに増えたから生霊だと思った。でも、違った」
日向の言葉を、炎陽は一字一句聞き流すまいと神経を尖らせる。
「トンネルで、子蜘蛛がいて、それを彼女は見えていなかった。でも、急に土蜘蛛に気付いて……。そう、その時にその影が明らかに変わった。黒く、どす黒く。一目見てぼくでも呪いとわかった。
でも」
「今の、いいや語弊があるね。トンネルを出た時の彼女には影の形すらなかった」
「……水景も、そう言った」
「“アレが言うなら”間違いないだろう。
……見間違いでは、ないよね?」
自分には見えず、水景にも見えないなら日向が間違えているのか。
だが、日向は静かに頷く。あれを見間違える筈がないと、目で訴えてくる。
「ふむ」
ならば、と思考を切り替えてみる。
見間違いでもなく、自分にも水景にも見えないならば、少なくともその呪いは今はかかっていない筈だ。
そう、“呪いならば”。
「……呪いと、祝い。この二つは表裏一体だと言うのは知っているかい?」
「とてもよく似ているって言う話?」
「うん。呪いは、まぁ言わずもがな。読んだままに人や土地、様々な物に禍いをもたらす。
でも、祝いは現代ではめでたい事と使われることが多い。いや、実際にその通りでそう扱われることが九割九分九厘だ。
でもね、祝いは、祝いとも読む」
「……」
「まぁ、あてつけのようなものさ。
……しかし実際に大昔には、祝いも呪いも同じく神に捧げる祈りだったんだ。
長くなるし、概要からは随分と外れるからそこは省くけれど、言いたいことはわかるかい?」
長々と説明してきたが、言いたいことは一つだけだ。
そして、それは日向には理解できていた。しかし、納得は出来ない。
あれが、あんなに禍々しいものが。
「呪いではなく、祝いだった?」
「正確に、と言うよりはわかり易く言うと、呪法ではなく祝法だった、ということかな」
あのどす黒く、禍々しく、寒気がするモノが祝法だったと?
炎陽が言うならば、それはもしかしたら正しいのかも知れない。
しかし、日向には納得できない。あれが祝法だったとは“思いたくない”。




