第弍章ー力ー
(ん……?)
そこまで思考して日向は何か、小さな違和感に気付く。
(何故ぼくは彼女のことを知らないんだ?)
あの日の朝、織人から聞くまで彼女を知らなかった。いや、正確には知っていたが気に留めていなかった。いつも話の中心にいたであろう彼女の存在を。
(待て。話には絶対に出ていたはずだ。織人が伊吹加那を話題に出さない筈がない)
どこから聞いてきたのか、あの友人は噂話を日向に教えるのが日課であった。
世間話が大好きなあの織人が、伊吹加那に対しての噂話を教えてこない筈がない。
違和感はそれだけではない。
(いくらぼくが見えないと言っても、一昨日の夜まで何故あの呪いに気付かなかった?)
そう、呪いだ。最初はただの影かと思ったが、あれは呪いだった。いくら見えない日向だからと言って、アレに気付かない程間抜けではない。
「そうだ!呪いだ!」
「うわっ!なに!?」
黙り込んで考え事をするのは、日向の癖のようなものだ。兄妹として短くない時を過ごしてきた水景は慣れたもので、静観していたが急に声をあげた日向にはさすがに驚いたようだ。
「伊吹さん、呪いがかかっていただろう!?」
「え?伊吹さんって一昨日の女の人?
呪いなんてなかったけど……?」
「は?」
確かにあの日、トンネルの中で生霊と見間違えていたものは呪いだった。種類と効果のほどまではわからなかったが、アレは間違いなく呪いだった。
が、水景はそんなものはないと言う。水景に“見えていない”のなら、呪いはないのだろう。“今は”。
(発動し、効果が出たのか?だから呪いは消えた?呪法に関する知識がなさ過ぎる。判定が全く付かないっ!)
自身の無知に、嫌気が指す。どうなんだ、呪いがかかったのなら彼女は無事なのか?呪いの種類は?効果はなんだ?いや、そもそも何のために彼女に呪いを?ぼくが彼女を意識の外に置いていたのは呪いのせい?なら何故その呪いが見えなかった?突然見えるようになったのは呪いの効果なのか?それがもし呪いなら何の為に?そもそもあのトンネルに何故あんなデカい妖怪がいた?あんな大物に父さんが気付かないわけがない。そもそも
「お兄ちゃん!」
水景の呼び声で一気に現実へと戻される日向。疑問符で溢れかえっていた脳内が、少しだけ平静を取り戻す。
「とりあえず、お父さんに聞いてみよ?」
「……ふぅ。そうだな。そうしよう」
昨日、病室に来た時は身体の回復が追いついていなかったためか、思考出来なかった。それを見抜いていたのか多くを語らなかった父であるが、こちらから問い掛ければ答えてくれるだろう。
疑問符は残ったままだが、このまま考えていても仕方がない。一つ一つ疑問を消していけば答えに辿り着ける。
日向と水景は家路へと向かう足を早めた。




