第弍章ー力ー
「お兄ちゃん!」
次の日、日向は何事もなく退院できた。手続き等は既に昨日、父がやっておいてくれたらしい。
「迎えにきたよ」
そして、病院の外で待っていたのは日向の妹の、水景だ。
日向とは打って変わり、活発な印象を受ける。くりっとした目に小柄な体型と合わせ、まるで小動物かのような印象だ。長い黒髪は後ろでくくっており、髪が邪魔にならないようにしている。加那ほど可憐な美少女かと問われれば即答はできないが、十分に整った容姿と言って差し支えはないだろう。
「あぁ、助かるよ」
「ううん、気にしないで!
それより大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
てててと日向の元に駆け寄り、覗き込むように心配そうな顔を向ける水景。正直、まだ妖術を使ったためか全身の筋肉痛と倦怠感は抜けないが、それ以外で言えば問題ないと言っても差し支えないというのが日向の自身の体調に関する見解だった。
明日から学校が始まるし、そんなことを言っている場合でもないと言うのが本音だ。
(休むと、伊吹さんが責任を感じかねないし……)
あの場ではこうするより他はなかったし、そもそもあの場で、あそこまでの危機的状況に陥ってしまったのは自分の責任だ。
その道のプロフェッショナルとして、見抜けなければならなかった。
責任を感じるとすれば、それは日向の方だった。
「一昨日、巻き込まれた女の人ってお兄ちゃんのクラスメイト?」
「ん、あぁ。そうだよ」
日向が自身の後悔に思考を向けていると水景は思い出したかのように昨日の話を始める。
「色々あって混乱してたから、軽くだけ説明しておいたよ?」
「軽く?」
「うん。私たちの家の事と、それに関する仕事のこと。
あの人、見えてたよね?」
水景は、見る力が強い。
水景曰く、人は白いオーラのような物を体に纏っているらしい。それは大小あれど基本的には万人にあるものであり、そこに例外はない。
ただ、力を持っている者はその大きさであったり、色であったりが極端に違う。
例えば日向達の父であれば、色こそ常人と変わらぬ白であるが、その大きさは遥かに大きく、平常時でも体の倍ほどの大きさ。戦闘時や興奮状態になればそれは倍々的に増えていく。
「色が違ったから」
「……あぁ。多分見えてた」
先天的、ということはないと日向は思う。
もし先天的にそういったものが見えているのなら、友人の付き合いとは言えあのような場所に赴く事はしないはずだ。日向自身、身をもってそう言い切れる。
であるならば、最近見えるようになったのか。
後天的に、見えるようになるという話はないこともない。
例えばなんらかの霊的要因によって、体の内部の、いわゆる魂と呼ばれるところにダメージを負い、生死を彷徨って回復した時に。ということは聞いたことがある。
例自体が稀なことではあるが、否定できる話ではない。
が。
(どこかで死にかけた?織人は何も言ってなかったけど)
あの友人が、学年のマドンナに対するそんな大々的な情報を落とすとは思えない。ましてや仮にもクラスメイトだ。そうなれば担任から何かしらの説明があってもおかしくはない。




