第壱章ー肝試しー
「ほら、どうした。追い詰められた鼠は猫をも噛むと言うが……。
追い詰められた蜘蛛はどうする?」
ニヤリと笑い、蜘蛛へと迫る日向。
勝敗は明らかであった。
「いやっ!来ないで!」
突然、加那が叫ぶ。
チッと舌打ちをして日向は加那へと向き直る。
加那が子蜘蛛に囲まれていた。加那を円になって囲み、じりじりと迫っている。
「少しは頭が回るようじゃが、頭を潰せばどうなると……っ!?」
所詮は子蜘蛛。やつらが動くよりも早く親を潰せばよいと土蜘蛛の方を向こうとした瞬間、日向は脚を絡め取られ転倒してしまう。
「ちっ!糸か!」
土蜘蛛が放った糸が足へと絡み付き、日向の自由を奪い去る。
「ゴァァ!」
好機とばかりに日向へと詰め寄る土蜘蛛。転倒し、さらには機動力を奪われた日向になす術はないかに思われた。
土蜘蛛はその大きな顎門を開き、日向を噛み砕こうと肉薄する。
「この!虫けらがぁ!」
日向は上体だけを起こし、掌を土蜘蛛へと向ける。
「舐めるでないわっ!」
日向が一喝すると、土蜘蛛が爆ぜたように飛び上がる。
と、同時にその体に火が付き、断末魔の声をあげる間もなく燃え尽きてしまった。
「っ!」
「きぃっ!」
「きぇぁっ!」
加那へとあと一歩、というところまで迫っていた子蜘蛛はその光景を見たのか、感じ取ったのかはわからないが、小さく悲鳴をあげ、正しく蜘蛛の子を散らすように散り散りに逃げていき、あっという間にトンネル内に静寂が戻る。
「おい、小娘」
「ふぇあい!」
一部始終を見ていた加那の頭はオーバーフロー寸前で、急に話しかけられたことにより変な返事をしてしまう。
「お前は日向の友人だと言っていたな?
すまないが、日向を頼む」
「え?えっと……?どういうことで……?」
「詳しくは説明している暇はない。
“この体で”妖術を使ってしまった。まぁ死にはせんじゃろうが、恐らくこのまま動けんじゃろう。
気絶したままだとあの魑魅魍魎どもが戻ってくるやもしれん。せめてこの洞窟から引きずってでも構わんから出し、て……く……れ。
事情は、そ……のあとに……」
日向は最後まで説明をすることなく、その場で意識を失い、眠ってしまった。
「えぇ……」
終始嵐のように巻き起こる出来事に完全に混乱してしまっている加那はとりあえず言われたように日向を引きずろうと腕を掴む。
女の子の力で、決して軽くはないであろう日向を抱えて引きずってトンネルの外まで出られたのは、火事場の馬鹿力が働いたのだろう。




