第壱章ー肝試しー
「ゴォおオォッ!」
突如として土蜘蛛が地鳴りにも似た叫び声をあげる。
日向を見失いその姿を探していた加那だが、その声を聞き、弾かれたように土蜘蛛へと視線を向ける。
(脚が)
土蜘蛛の脚が一本、抉り落とされていた。
切り落とすでも、もぎ落とすでもなく、“抉り落とされて”いた。表現としてはそれが一番正しいと加那はどこか冷静な部分で思考する。
静観していた土蜘蛛ではあるが、流石に脚を一本落とされても大人しくしている程間抜けではないようだ。
相手を威嚇するためなのか、口を大きく開き、七本のうちの三本の脚を持ち上げて身体を揺らしている。
「なんじゃそれは。威嚇のつもりか」
どこからともなく日向の呟きが聞こえたかと思うとまた一本、脚が抉り落とされた。
「ゴアオォォおぉオオッッ!」
土蜘蛛はまたも腹の底から地響きのように叫び声をあげる。
「叫ぶしか能がないのか、この虫けらは。
そらどうした、少しは抵抗してみろ」
そう日向の声が聞こえたかと思うと、日向は土蜘蛛の背に立つようにして現れる。
そしてニヤリと笑うと拳を握りしめ、土蜘蛛の背に向けてそれを振り下ろす。
ぐしゃりと何かが潰れるかのような嫌な音がした。
「ひっ」
その決して気持ちの良い音ではないものを聞いた加那は小さく悲鳴をあげる。
が、日向は舌打ちを一つすると土蜘蛛の背を蹴って飛び上がり、ひらりと加那の前へと着地する。
「ちびが身を挺して親を庇うとは。なんとまぁ泣ける話ではないか」
日向の拳からはねとりとした体液なのか、うすく緑に光る液体がべっとりとついていた。
それをみた加那は思わず目を逸らしてしまう。
「と言いはするが、残念じゃが貴様らはここで死ぬ。恨むなら我が主人様の前に出てきた己の不運を呪うのじゃな」
酷く冷たい声で日向はそう言うと、一歩土蜘蛛へと歩を進める。
それを見て土蜘蛛は一歩後ずさる。
日向が進めば土蜘蛛が退く。それを何度か繰り返すと、土蜘蛛はトンネルの壁に追いやられてしまう。
土蜘蛛の表情は読めないが、日向はニヤリと笑う。




