第壱章ー肝試しー
「かっかっか。久方ぶりに呼んだかと思えば、まぁ面倒な場面を押しつけてくれたものよの」
「へ?」
自身の行末を考え、走馬灯が頭を巡りかけたその時、“日向が”意味のわからない事を口走る。
「ん?なんじゃ、お前は」
「えっと……」
加那は突然口調と雰囲気が変わった日向を見て頭が追い付かず、目を点にすることしか出来ない。辛うじて絞り出た言葉も、返事にはなっていない。
「んん?お前、見えておるのかこの蜘蛛達を」
「え、あの、はい」
「見たところ力を持ってそうには見えぬが……。
あぁ、なるほどのぅ。呪いか」
日向の体で日向の声で、日向ではない何かが喋っている。加那にわかったことはそれだけだった。1人で話して1人で納得している日向の言うことは何一つ理解できない。
「で、わしはこの状況をどう打破すればよいのかの。もう一度聞くが、お前は何じゃ?」
「えっと……、西牙くんの友達です」
「日向の?ははぁ、なるほど。じゃから逃げずにわしを喚んだのか」
日向はまたも1人で勝手に納得し、頷いている。
「ふむ、まぁおおよその事情は理解した。お前の事はまだよくわからんが、日向の友ならば守らねばなるまい」
そう言って日向は土蜘蛛に向き直ると、人差し指を立てて土蜘蛛を指差す。
「おい、そこな蜘蛛。我が言葉を理解できるならば一度だけ言っておいてやる。
死にたくなくば、我が眼前より消え失せよ」
今までの、どこか気の抜けたトーンの声ではなく、聞いただけで背筋が凍るような声音で土蜘蛛に、蜘蛛達に向かって言ってのける。
それを理解しているのかいないのか、蜘蛛達は微動だにせず様子を伺っている。
「……消えぬという事は、死ぬ覚悟が出来たということじゃな?」
「……」
「あいわかった。
なら死ね」
日向はそう言うと、加那の眼前から消えた。
(え……?)
死に直面し極限にまで研ぎ澄まされた加那の五感は、落ち葉の落ちる音ですら逃さないほどに鋭くなっていたが、一瞬で日向を見失う。
瞬きした瞬間に日向は消えていたのだ。




