第七話
「落ち着こう。…よし、次だ。」
再び最も左に置かれた紙を取ると、そこには島崎星南と記されていた。
「あれ、てっきり全員男なのかと思ってた。女の子もいるのね。」
ふむ、と声を出しながら、澪は残りのリストも確認し、写真を見ることで名前と顔の一致を図った。
一段落付いた所で時計を見ると、もう短針は五を指そうとしていた。
「うわ、もう夕方?」
「終わった?」
澪は自身の集中が途切れるまで、雪也が終始側で待っていたことに気がつかなかった。
「雪、もしかしてずっといたの?」
「うん。」
雪也は当たり前のような態度で頷く。
それを見て、澪は大きな溜め息をつきながら体を思い切り伸ばした。
「ごめん、気づかなかった。」
「いいよ。というか、腹減ってない?」
雪也に言われて考えてみると、昼食の時間に軽食をとったきり、何も胃に入れていなかった。
それに気がついた瞬間、澪の腹部から大きな音が鳴り響いた。
「正直にも程があるだろ。」
雪也はその音を聞いて、腹を抱えて笑い出した。
「し、仕方ないでしょ!お腹空いちゃったんだから…」
「よし、ちょっと待ってて。」
顔を赤くして俯く澪の前かた去ったと思えば、すぐに良い香りが部屋中に立ちこめた。
「これ…肉じゃがの匂い!」
「正解。こっち来て、食べよう。」
広い部屋のベッドやソファが置かれた場所とは反対の位置に置かれた、四人用のダイニングテーブルには、肉じゃがを初めとした色々な和食が美しく並べられていた。
「すごい。」
「でしょ。俺も腹減った、早く座って。」
雪也に促され、澪はすぐに席に着いた。
その目の前に座った雪也と同時に、いただきますと述べて、各料理に手を出した。
「それで、作戦は決まったの?」
雪也の問いに、澪は口の中のものをしっかりと飲み込んでから答えた。
「それが、難しくて…」
澪は溜め息交じりに語り始めた。
「まずもって、全員のタイプがあまりにもばらばらなのよ。全員男かと思ってたら、女の子も二人いるし…何をするにも、最初は仲良くなる所から始めないといけないでしょ?でもそれぞれ個性が強すぎて、紙に書いてあることを読んでただけなのに頭が疲れちゃった。」
雪也は澪の話を真剣に聞いている。
「壁が厚い男もいれば、人との関わりを遮断してる女の子もいて…もう具合が悪くなりそう。会う前からこんなで、全員の目標を達成させられるのかしら…ううん、ぐずっても無駄よね。よし!」
自己完結を終えたらしい澪は、食事の手を一旦止め、ソファ前のテーブルに置かれた封筒と、その場にあったペンを持って戻ってきた。
「何持ってきたの?」
封筒から出された紙を覗き込んでみると、そこには〈契約書〉と書かれた紙があった。
「肉じゃが食べたら冷静になれたから、今の内に契約書にサインしちゃおうと思って。」
どれどれ。澪は注意事項の一番上から読み始めた。
一・子供達を含め、今試行に関しての一切の内容の他言を禁ずる
二・外出はしても良いが、携帯を必ず持ち歩くこと
三・恋愛は禁ずる
四・何か問題があった際は、速やかに報告すること
これに続いて、合計で約十の注意事項が記されている。
「あの人たち、何も分からずに連れてこられるってことね。それもそれで気の毒だわ…」
「たぶん遊びに行く感覚で来るんだろうね。」
何度も何度も繰り返し文を読み、澪は署名欄に自らの名前を書いた。
「判子も押した方が良いのかな?」
「本人書きだし、いらないんじゃない?」
そうかと言って、澪は椅子から立ち上がった。
「よし、叔父さんに渡してくるね。」
「夕飯は?」
「戻ってきてから食べるから、ちょっと待ってて。」
分かったと言う雪也を部屋に残し、澪は決意と覚悟を胸に会長の自室へと足を運んだ。




