第五話 部品不足
「……え?」
と、千獅雄の間の抜けた声。
「え、え?」
宇狩博士も珍しく動揺していた。
ゲッカは完成したカリテンダーを見上げたまま、静かに続ける。
「頭部形状。肩部スラスター。武装配置」
指先で機体を示す。
「間違いない。この機体に撃墜された」
数秒の沈黙。
博士がゆっくり振り向く。
「つまり、ゲッカ君は……ノットル軍の……?」
「元所属」
あまりにも淡々とした返答だった。
次の瞬間。
「えええええええっ!?」
千獅雄と博士の叫びが格納庫を揺らした。
「な、なんで今まで黙っておったんじゃ!」
「⋯⋯今、気がついたから」
「う~む……」
博士は頭を抱えた。
千獅雄はしばらくゲッカを見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……本当なんだな」
「うん」
短い返答。
だが、ゲッカの表情は変わらない。
千獅雄は少し考えてから、ふっと笑った
。
「でも、今さらだな」
「?」
「二ヶ月、一緒に作業しただろ」
ゲッカは黙っている。
「説明書読んで、塗装して、部品運んで」
千獅雄は肩をすくめた。
「俺には、ゲッカが敵には見えないよ」
ゲッカが少しだけ目を見開く。
だが、それ以上は何も言わなかった。
その時だった。
研究所内に警報が鳴り響いた。
ビーッ!
ビーッ!
モニターに赤い警告表示が並ぶ。
《試供品カリテンダー》
《システムチェック開始》
《出力 18%》
《一部パーツ未搭載》
博士の表情が変わった。
「なんじゃと……?」
千獅雄もモニターを見る。
「十八パーセント?」
「低すぎる」
博士は急いで説明書を開いた。
ページをめくる。
第四十七巻。
そして、あるページで手が止まる。
「……そういうことか」
「博士、原因は?」
博士が低い声で答えた。
「補助リアクター、増幅回路、姿勢制御ユニットが未搭載じゃ」
千獅雄の顔が引きつる。
「そんな重要な部品が?」
「試供品じゃからな」
「それじゃ戦えませんよ」
「うむ」
重い沈黙が落ちた。
その時、ゲッカが口を開いた。
「……ある」
二人が振り向く。
「私の機体」
ゲッカは静かに言った。
「ギガントッタラー」
博士が目を細める。
「あの敵機か」
ゲッカは頷いた。
「あれに全部ついてる」
博士の目が鋭くなる。
「移植できるか?」
「⋯⋯たぶん」
「出力は?」
「(上手く行けば)九割くらいまで戻る」
千獅雄の表情が明るくなった。
「なら、取りに行きましょう」
だが、ゲッカは少し考え込んだ。
「問題がある」
「何だ?」
「墜落地点が正確に分からない」
「分からない?」
「気づいたら山の中だった」
千獅雄が固まる。
「……大丈夫なのか、それ」
ゲッカは少し考えた。
「でも、目印は覚えてる」
「目印?」
「大きな滝。崖。壊れた橋」
博士が腕を組む。
「手掛かりはあるということじゃな」
ゲッカは頷いた。
「案内はできる」
しばらく沈黙。
やがて博士が静かに言った。
「仕方あるまい」
二人が博士を見る。
「千獅雄、ゲッカ君」
「はい」
「うん」
「ギガントッタラーを探しに行くぞ」
千獅雄は力強く頷いた。
「分かりました」
ゲッカも静かに頷く。
「案内する」
完成したばかりのカリテンダーは、まさかの出撃不能。
必要な部品を求めて、千獅雄とゲッカは山へ向かうことになった。
その先で、何が待っているのか。
まだ誰も知らない。




