第六話 動く残骸
翌朝。
宇狩博士に見送られ、千獅雄とゲッカは研究所を出発した。
目指すは、ゲッカが撃墜されたギガントッタラーの墜落地点。
カリテンダーに必要な部品を回収するためだ。
「本当に案内できるのか?」
山道を歩きながら、千獅雄が聞いた。
「たぶん」
ゲッカは前を向いたまま答える。
「たぶんって……」
「目印は覚えてる」
「目印?」
「大きな滝。崖。壊れた橋」
千獅雄は少し不安になった。
だが、ゲッカの足取りに迷いはない。
少なくとも、本人の中では道筋が見えているのだろう。
しばらく無言で歩く。
山の空気は静かだった。
鳥の鳴き声だけが響いている。
やがて、ゲッカが口を開いた。
「千獅雄」
「ん?」
「ひとつ、聞いていい?」
「いいよ」
ゲッカは少し間を置いた。
「なんで、私を信用できるの?」
千獅雄は目を丸くした。
「急だな」
「気になっただけ」
しばらく考え、千獅雄は答えた。
「なんでって……」
少し困ったように笑う。
「ゲッカ、悪いやつに見えないし」
「……」
「それに」
千獅雄は前を向く。
「今は仲間だろ?」
ゲッカは少し黙っていた。
「……変なの」
「そうかな?」
「普通、もっと疑う」
「そういうもんかな」
千獅雄は苦笑した。
再び静寂。
やがて、ゲッカがぽつりと呟いた。
「最初の戦闘、覚えてる?」
「もちろん」
千獅雄の表情が少し引き締まる。
「私、五秒で落とされた」
「……うん」
「あの時、変だった」
千獅雄が振り向く。
「変?」
ゲッカは淡々と続ける。
「あなたが突っ込んでくる直前」
「ギガントッタラーが、一瞬おかしくなった」
「おかしく?」
「止まった……じゃない」
少し考える。
「遅れた」
「遅れた?」
「全部」
ゲッカは指を折っていく。
「操縦入力」
「照準」
「回避制御」
「全部、少しずつ遅れた」
千獅雄は黙って聞いていた。
「何が起きたか、分からなかった」
ゲッカは千獅雄を見る。
「それに、今の千獅雄と、あの時の千獅雄」
少しだけ言葉を探す。
「別人みたい」
千獅雄は立ち止まった。
「別人……?」
「うん」
ゲッカは頷く。
「もっと怖かった」
その言葉に、千獅雄は少し複雑な顔をした。
「俺は……覚えてないな」
「そう」
ゲッカはそれ以上追及しなかった。
また歩き出す。
しばらくして。
ゲッカが立ち止まった。
「……ここ」
木々の向こうが開けている。
二人は慎重に進んだ。
そして。
「……あった」
巨大な残骸が、谷底に横たわっていた。
半ば地面に埋まり、苔に覆われている。
だが、その巨体は確かにそこにあった。
「見つかった……!」
千獅雄が息を呑む。
その時。
ガサガサッ。
「ん?」
ギガントッタラーの肩から、リスが飛び出した。
続いて鳥。
足元からウサギ。
さらに頭部から猿が顔を出す。
「……」
「……」
千獅雄がぽつりと呟く。
「なんか……すごい平和だな」
ゲッカは残骸を見上げた。
「……私の機体」
少し間を置く。
「動物の住処になってる」
千獅雄は苦笑した。
「人気スポットみたいだな」
ゲッカは静かに近づく。
「補助リアクターは胸部。増幅回路は背部。姿勢制御ユニットは頭部」
「分かった。慎重にいこう」
その時だった。
周囲の動物たちが、一斉に逃げ始めた。
鳥が飛び立つ。
リスが木へ駆け上がる。
猿が叫ぶ。
空気が変わった。
ピッ。
小さな電子音。そんな微かな音にゲッカの表情が凍りつく。
「……え?」
ギガントッタラーの頭部モノアイに、赤い光が灯った。
《SYSTEM START》
《AUTO REPAIR COMPLETE》
《COMBAT MODE》
ギギギギギ……
巨体がゆっくりと動き出し、千獅雄が目を見開いた。
「動いた……!?」
ゲッカの顔から血の気が引いていた。
「そんな……、停止したはず……」
ギガントッタラーが、ゆっくりと二人を見下ろした。




