第十六話 神々 姫鶴 其之一
どうやら、姫鶴に見てもらわなければ、この大きな手掛かりである羽根から、これ以上の情報を得ることはできそうにない。
そうして、死んだような顔をした槐之介と宝寿は、ぶつぶつと文句を言いながらも、陸離を連れて百々家を発った。
「じゃあ陸離ちゃんは、俺が抱えていくね! 俺のほうが慣れてるから」
宝寿が槐之介に笑顔で声をかける。
すると槐之介は、そうはさせるかと言わんばかりに、さっと陸離を抱きかかえ、そのまま屋敷を出た。
「……なんだ、お前、ずいぶんとご執心じゃねぇか」
宝寿は呆れたように苦笑する。
その後ろを、従者を連れた宝寿が追いかけるように飛んでいった。
しばらくすると、眼下に、草木と水面が織りなす美しい湿地が見えてきた。
水面には風がそっと波紋を広げ、そのほとりには色とりどりの花々が咲き誇っている。木々の間からはさまざまな鳥のさえずりが響き、まるで深い森の中にひっそりと残された、命の楽園のようだった。
そのさらに奥には、白を基調とした美しい城郭がそびえ立っていた。
幾重にも重なる屋根には優美な反りがあり、いくつもの楼閣が連なるその姿は、まるで白鷺が翼を広げたかのように気高く、壮麗だった。周囲の豊かな自然とも見事に調和しながら、それでいてひと目で、この地を治める者の住まいだとわかるほどの威厳を放っている。
(わーお、まるで姫路城だ)
陸離が、どこか懐かしささえ覚えるようなその美しい城に見惚れている一方で、槐之介と宝寿は、揃って大きなため息をついた。
「姫鶴に会うのは……二百年ぶりだ」
宝寿が、ぼそりと呟く。
「俺は……七百年ぶりだ」
(そんなに長いこと避けてきたって、いったい何をやらかしたのよ……)
そんな二人を見て、陸離はますます姫鶴という女性への興味を募らせた。
いったい、どんな人物なのだろう。
そんな緊張感を抱えながら、四人は城の前へ降り立った。
「止まれー!」
すると、すぐさまふたりの門番が駆け寄ってきた。
「鬼月宝寿様と百々槐之介様がお見えになったことを、姫鶴様にお伝えください」
もじもじしている二人に代わり、宝寿の従者が門番へ声をかけた。
すると門番は、申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。
「姫鶴様からの命令で、神々城には麒麟と貔貅は決して入れてはならぬと」
槐之介と宝寿が、揃ってすっと顔を逸らした。
(お前ら、いったい何をやらかしたんだよ……)
「じゃあ、しゃーねぇ! 他あたろう!」
宝寿はそう言うと、むしろ少し嬉しそうな顔をした。
どうやら、姫鶴に会わずに済んだことが、よほど嬉しいらしい。
――そのときだった。
「娘だけなら、通すがよい」
城の奥から、女の声が響いた。
すると、さっきまで姫鶴に会うことを嫌がっていた槐之介と宝寿が、そろって陸離のもとへ駆け寄ってきた。
「陸離、頼む」
「陸離ちゃん、お願い!」
「え、ちょっと……?」
二人はなぜか陸離の肩に手を置き、妙に期待のこもった目で見つめてくる。
「姫鶴に、この羽根を見てもらってくれ」
「ついでに、俺たちが元気にやってるって伝えてくれよ!」
「いや、なんで私が!?」
さっきまでの渋い顔はどこへやら。
二人のあまりの変わり身に、陸離は思わず呆気にとられた。
そして宝寿の従者から箱を受け取ると、陸離はふたりに見送られながら、ひとり城の中へと足を踏み入れた。
(槐之介さんと宝寿さんが、あんなに怯えてる姫鶴様は、いったい、どんな人なんだろう)
少しばかり怖い気もする。
けれど、それ以上に興味が湧いてくる。
陸離は胸の奥にわずかな緊張を抱えながらも、好奇心に背中を押されるように、城の奥へと進んでいった。




