第十五話 最初の手がかり
宝寿が来た。
長らく足が遠のいていた百々家へ、今日は従者まで連れて、堂々と客間に入り込んでいる。
槐之介と仲直りできたことが、よほど嬉しいらしい。頬に浮かぶ笑みをどうにか堪えながらも、隠しきれない浮き立つ気持ちをそのままに、客間であぐらをかいて寛いでいた。
「槐之介、今日は特別に、この手掛かりを見せてやろうじゃねぇか」
どこか得意げな顔でそう言う宝寿は、まるで自慢の宝物を見せびらかす子供のようだった。
こちらから返せるような手掛かりなどない。ましてや、等価交換などできるはずもない。それでも、宝寿はそんなことを少しも気にしていないようだった。
ただ、自分が持っているものを、惜しげもなく差し出してくれる。
――案外、優しいやつなのかもしれない。
そんな宝寿の姿が、陸離にはどこか微笑ましく思えた。
すると宝寿は、後ろに控えていた従者から木の箱を受け取った。
「これが、俺の掴んだ手掛かりだ」
そう言って、開けてみろと言わんばかりに、宝寿は箱を片手で槐之介の目の前へ差し出した。
陸離と家の者たちが固唾を呑んで見守る中、槐之介は拍子抜けするほどあっさりと箱を受け取った。そして、まるでそこらの菓子でも開けるように、何のためらいもなく蓋を開けた。
――箱の中には、羽根が二本入っていた。
長いものが一本と、やや短いものが一本。
長い羽根は、黒みを帯びた濃い茶褐色。
短い羽根には、淡い褐色と白っぽい色が交互に入り、薄い縞模様を描いていた。
「これが、あの日、我が屋敷内に落ちていたものだ。忍者並みに顔を隠してたから、よくわかんなかったけどな。そのあまりの速さと力に圧倒されながらも、我が神槍——鳴神で一突きしたときに、こいつをもぎ取ったのさ」
「茶色い羽根……なんかの鳥ですか?」
陸離は羽根を手にしてじっくり観察しながら尋ねた。
「鳥の妖怪で、そこまで強いやつなど俺は知らんな。だが、間違いなくこれは鳥の羽だ」
(見ればわかるわ!)
あまりにも大した情報が得られず、陸離は心の中で盛大に突っ込みを入れながら、再び考え始めた。
「茶色い鳥……小さいもので雀、雲雀、大きいもので鷲、鷹、駝鳥……いっぱいいますね。せめて何の鳥かわかれば、もう少し探しやすいんだけど」
「……ダチョウ、ってなに?」
宝寿は聞き慣れぬ言葉に、きょとんと首を傾げた。
(そうだ、ここはほぼ平安時代みたいなもんだから、日本にまだダチョウはいないのか……)
「あ、いや……なんでもないです」
陸離はそっと目を逸らした。
「鳥のことなら、姫鶴様に聞けば、きっとすぐわかりますわ」
瑞穂が、何か思い当たったように言った。
それを聞いた槐之介と宝寿は、揃ってひどく嫌そうな顔をした。
「姫鶴様は……どなたですか?」
「五人の大妖怪の中で、ただ一人の女性にございます。鶴の妖であられますもの、鳥のことならお詳しいはずですわ」
「なるほど!鳥のことは鳥に聞けばいいってことね!にしても、お二人とも嫌な顔ですね……」
「お二方とも、姫鶴様にはよく懲らしめられておりましたので……」
瑞穂は、どこか申し訳なさそうに苦笑した。
「結局、あの女に聞かなきゃわかんねぇのかよ」
宝寿は、がっくりと肩を落とした。
そして、天井を仰ぎながら、これ見よがしに大きなため息をついた。




