第6話 発見-ディスカバリー-
この世界は中世あたりの文明だが、この国では奴隷は禁止されている。なので金で他人の命を買うことはできないが、金で人が買えないわけではない。言い方を良くすれば雇用、悪く言えば人を買うことができる
「お兄ちゃん、やめておいた方がいいよ。私もいろいろなところでこういうところで生きる人たちを見てきたけど・・・正直9割はどうしようもない人たちだよ」
ニューが申し訳なさそうに小声で僕にささやく
「それは地球での話だろ?この世界では訳が違う」
「どうして?」
「才能はあっても家柄が悪かったり、支援を受けられずに仕方なくここにいる奴も多い。地球ほど能力主義社会じゃないからな」
「そうか。地球とは文明や文化が違うんだ。同じように考えちゃダメなんだね」
素晴らしい察し力で僕の言いたいことを理解してしまった
それから1時間ほど歩き回り、ついに目的の人物を見つけた
「お兄ちゃん、どうしたの」
「あの子だ。あの子を手に入れるぞ」
「手に入れるって・・・」
僕は迷わず壊れかけの小屋の庭にいる少年に声をかけた
「ねぇ、君。僕たちに買われない?」
「はぁ?なにを言ってんだ」
「お兄ちゃん!それは誰でもそうなるよ!ごめんね、お兄ちゃんが言いたいことは私たちに雇われない?ってこと」
「雇う?俺を?俺は何も出来ねぇぞ」
「それは今の話だろう。別に今すぐ何かがしてもらいたいわけではない。そうだな、僕たちに雇われれば給料として毎月金貨1枚を出そう。今なら衣食住付きだ」
「本当か!?それは本当なのか?」
「僕たちは貴族だ。つまらない嘘はつかない」
金貨1枚は日本の価値に換算すると約10万円となる。だがそもそもの物価が日本とは違い、月収が金貨1枚あれば一般的な大人一人が普通の生活を送れる。逆に旅行や芸術などを嗜もうとすれば金貨10枚あっても足りないらしい
「僕は答えを先延ばしにされるのは嫌いでね、10分以内に結論を出せるかな?」
「あ、ああ。分かった」
少年は頭に手を当てながら悩んでいる
「ねぇお兄ちゃん。どうして彼は悩んでいるの?」
ニューが小声で僕に聞く
「怪しいからだ。貧民街で人を誘拐するときニューならどうする?」
「そりゃ魅力的な提案をして自分から来てもらう・・・なるほど。この提案は彼にとって"魅力的すぎる"のか」
「貧民街で生きてきた以上、そういういった知識はあるのだろう。だからこうやって悩んでいるわけだが、ここで一押ししてやる」
「一押し?」
「少年、人生にはいくらでもチャンスは転がっているが、そのほとんどは自ら掴みにいかなければ逃げていってしまう。しかし、一生に数度だけ待っていてもすり寄ってくれるチャンスがある。そのチャンスを掴まなければ、今後どんなに大きなチャンスが来ようとも、一生見逃し続けるぞ!」
「見逃す?」
少年の表情が明らかに動揺する
「怪しいと思っているのだろう」
「う、ん」
「分かる。だが、見逃せば僕たちがどのような存在であれ、君は必ず後悔する。騙されてもいいじゃないか。いつかは危険に飛び込まなければならないのだ。ならば今、僕たちを信じてみたらどうだ。今の暮らしを続けるか、危険を承知で人生をかけた勝負をするか。答えは一つしかないと思わないか?」
「もはや宗教の勧誘じゃん」
ニューが小声で突っ込む
「決めた。俺を雇ってくれ!」
「そう言ってくれてうれしいよ」
僕の前世で鍛えた勧誘技術がいきた。この方法で宗教にはまった数多くの友人を嵌めなおしたのだ。地球一、宗教勧誘が上手いと言っても過言ではないと自負している
「・・・とりあえず、これ食べるか?」
自宅の台所からパクった・・・頂いたパンを少年に渡す
「ありがとう、ございます」
少年はお腹がすいていたのか、あっという間に食べ終わってしまった
「で、君の名前は何だ?」
「そういえば聞くのを忘れていたね」
「僕の名前は、カイト」
日本人っぽい名前だな
「そうか、よろしくなカイト」
「よろしく、お願いします」
「よろしくね、カイト君」
「よろしくお願いします」
緊張しているのか、喋り方がぎこちない。まあ直にマシになるだろう
その後、一悶着あったがカイトの給料は僕のお小遣いから出すことで解決した。余談だが、お小遣いは僕とニューでそれぞれ毎月金貨5枚ずつ貰っているので結構余裕だったりする。さすがは貴族といったところである
[ちょっとだけ補足]この国では奴隷は禁止されているが、正式な雇用関係を築いたうえで奴隷のように働かせることは禁止されていない。文明文化もあいまってパワハラ、セクハラ、ブラック企業は珍しくない。ただし退職だけは自由にできるように国家が保証している
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