第12話 真実-トュルース-
冒険者登録を終え家に帰った時、カイトがベッドでうなりながら寝転がっていた
「えっ、カイト君大丈夫?」
気づいたニューが急いで駆け寄る
「ああ、ニュー様とネオ様ですか・・・理想化、ふぅ、かなりマシになりました」
イデアルを使うと、身体能力が全体的に向上し風邪だとしてもいつもどおりくらいには動くことができるのだが、イデアルを使ってなお顔色が悪い
「どうしたんだ。風邪か?」
僕がそう聞くと、恨みのこもった眼で僕を見ながら答えた
「風邪ではありません。ネオ様に教えてもらった魔法を使ったらものすごく頭が痛くなっただけです」
「お兄ちゃん!今度はどんな魔法を教えたの!」
ニューが怒りを混ぜながら僕に聞く
「落ち着いてくれ、今度は安全な魔法だ」
「安全な魔法?これが?」
ニューが疑いの目で僕を見る
「ネオ様が、私の使うバード系の魔法と意識を共有できるようにしてくれないかってお願いされましたので・・・」
「はぁーーー。お兄ちゃん、自分が通信魔法で脳の容量を割いているからってカイト君まで巻き込まなくていいでしょ!」
「いや、できると思ったから注文したから!イデアルの補助付でもいいって言ったし、複数匹同時にやって勝手に自爆しただけだから」
「え?そうなの?」
「いや、あの、はい・・・どうして3匹同時にやって頭が痛くなったって分かったんですか」
焦った後、観念したように聞き始めた
「とりあえず魔法を解除しろ。明日に響くぞ」
「はい」
カイトはイデアルと魔法を解除する
「お兄ちゃん、どうして分かったの」
「僕もちゃんと試運転をしてからカイトに注文している。その結果、少なくとも1匹なら共有しても寝ころびながらなら余裕であることが分かっている。で、2匹の場合はイデアルを使わなければ僕は変な感覚になった。3匹以上はやってないから知らない」
「で、カイト君は3匹同時にやって頭が痛くなったと」
「申し訳ありません・・・」
「というか、2匹同時は大丈夫だったのか」
「それは余裕でした。2匹と3匹の間には天と地ほどの差があり、できるかなって思ってやったらこのようになってしまいました・・・」
「そ、そうか」
2匹は余裕と聞いて褒めたくなったが、今褒めたらニューにより怒られそうな気がしたので後でこっそり褒めておいてやろう
「カイト君、今日は無理せず早く休みなさい」
「あ、悪い、僕も休んだ方がいいと思うんだが、カイト大事な話があるから夜部屋に来てくれないか」
「お兄ちゃん!さすがに休ませてあげた方が」
「いや、今後に関わるマジで大事な話だ」
かなり真剣な声色で答える
「・・・お兄ちゃんがそこまで言うなら・・・仕方がない。まあ、カイト君それまでは休んでおいて」
「はい、そうさせていただきます」
「で、お兄ちゃんはお説教があるから」
「はぃ・・・」
お説教は夕食まで続いた
夕食を終え、後は寝るだけとなった。伝えた通り、カイトも部屋に来て、もちろんニューもベッドでゴロゴロしている。カイトの顔色はかなり良くなっている
「お話とは何ですか」
「長くなるから、ベッドに座りながら聞いてくれ。ニューもそのままでいいから聞いてくれ」
「さすがにちゃんと聞くよ」
ニューとカイトが横並びでベッドに座る。僕は二人に向き合うように椅子をもってきて座る
「イデアルについてだ」
「イデアルですか」
「二人はイデアルについてどういう風に認識している?」
「確か、身体強化系の魔法で自分が思い描く理想の自分の姿を再現できる魔法だと思っているよ」
「私も同じような認識です」
「それは少なくとも間違いではない。・・・じゃあ、イデアルの副作用については知っているか」
「なんか本で読んだことある。使い続けていると力が強くなったり、目が良くなったり、なんか成長速度が上がるのではって推測されていたよ。でもそれって副作用なの?いいことしか書いてなかったけど」
「そうなんですか?私は全く知りませんでした」
「それは半分あっていて半分間違っている」
「どういうこと?」
「正確に言うと、成長速度が上がるのではなく理想の自分に近づくんだ。例えば守ることを意識したイデアルを使い続けると、攻める能力はむしろ弱くなる」
「へぇーそうなんだ。で、それがどうしたの?」
「本題はここからだ。イデアルの真の副作用は''変化すること''なんだ」
「どういうこと?」
「成長ではなく変化なんだ。実際に見たほうが速いだろうな」
そう言って僕は服を脱ぐ
「?どうしたの、いきなり服を脱ぎだして。あの動きをするにしては、筋肉が少ないような気もするけど、そういう人もいるよ?」
「それもあるが違う。『リミットオフ』」
僕はニューとカイトに背中を見せながら魔法を使う。すると、首根っこの後ろから細長い、イデアルで現れるような黒い触手が1本だけ現れる
「え?お兄ちゃん、イデアル使った?」
「使っていない。リミットオフは頑張って隠していたものを出現させる魔法だ」
「じゃあこの触手は・・・」
「イデアルの副作用だな」
「お兄ちゃん、そんなに使っていたの」
「ちなみにイデアルの時と同じように自由に動くぞ」
そう言いながら自由自在に動かして見せる
「触ってもいいですか」
「もちろんいいぞ」
「・・・本物と同じような感触です」
「まあ成長ではなく変化という理由が良く分かっただろう」
「うん」
触手を隠してから服を着て、再度椅子に座る
「これで終わったなら何の問題もない」
「ということは終わらないんだね」
「ああ、こんな問題がかわいく見えるほど重要な問題がある」
「それは?」
「成長しなくなる」
「へ?」
「使えば使うほど人として、生物として成長しなくなる。身長も伸びないし、筋肉もつかない。・・・それくらいかな」
「記憶は?」
「それは覚えている。というよりも理想の自分をイメージするときに記憶力も上げているからな」
「それなら良かった。じゃああまり問題ないんじゃない?子供の時に使いすぎると危ないって話でしょ?」
「で済めばよかったんだけどなぁ」
「何?まだ問題あるの」
「これが今日ニューが聞いたことにつながる」
「今日聞いたこと?」
「僕がゴブリンエンペラーを倒した時、恐怖心を感じなかったといっただろ?」
「ああ、そんな話もしたね」
「イデアルは内面にも副作用を及ぼす。もしイデアルを使ったときに好戦的な自分を思い描いたのなら日常でも好戦的になっていく」
「じゃあ、あまりイデアルを使わないほうがいいってこと?」
「それは自由だ。少なくとも僕はこの副作用を知ったうえで積極的に使っていく予定だ」
「それは危険なんじゃないの」
「理想を成長させれば問題ないことも分かっている。現に僕は理想の自分の身長を少しずつ伸ばしながらイデアルを使っている。そうすれば身長が伸びた」
「結局どういうこと?」
「イデアルは人間をやめるとも言える。だからここで自分で決めて使うか使わないかを決めてほしい」
「お兄ちゃんはこれからも使っていくんでしょ?」
「そうだ」
「お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「イデアルの使い過ぎの問題点は結局のところ1つなんだ」
「それは何?」
「理想の自分になれた時、理想の自分を受け入れられるかどうかだ」
「すいません、もう少し詳しく説明してもらってもいいですか」
「そうだな・・・こんな有名な言葉がある。夢は所詮夢だから夢がある。それはつまり、夢を叶えてもその満足感に浸れるのは一瞬だ。すぐになんか違うと感じる。その時に新たな夢を見つけられるか、それが問題なんだ」
「そうなんですか」
「お兄ちゃんの言っていることは正しいよ。けど、普通は夢なんて簡単に叶うものじゃない。それは一部の成功者だけが直面する悩みだよ」
ニューが補足する
「ニューの言う通り、これはほとんど大多数の人間には関係の話だ。普通に生きていて叶う夢は両手で数えられるほどだ。・・・だがイデアルを使えば話が違う」
「理想の自分が簡単に手に入るってこと?」
「その通り。この方法は簡単だ。簡単すぎると言ってもいい」
「しかし理想の自分が違うと感じたなら、また別の理想ができるのではないですか?次はそれを目指せばよいのではないのですか」
「それが通用するのは初めの数回だ。はっきり言っておく、人間の欲望や理想は無限じゃない。むしろほとんどないと言っても過言ではない」
「想像力があればどうにかなる物じゃないの?」
「さあ、僕には分からない。そもそも理想の自分になった時に今と同じ判断ができる確証は一切ない」
「それもそっか」
「で今日この話をしたのはお前らの意思を聞きたいからだ」
「意思って何の?」
「イデアルを使い続けるかどうか、そしてイデアルを利用した人体改造をするかどうかだ」
「・・・ん?ちょっと待って、人体改造って何?」
「何ってイデアルをただ単に使うのはもったいないだろ?それにせっかくなら人間には出せない身体能力を引き出したらお得だとは思わないか」
ニューがすごく呆れた顔で、僕を見る
「お兄ちゃん、それだと人間をやめることに・・・、・・・あれ?イデアルを使い続けるとどちらにしろ人間じゃなくなるのか」
「だろ?しっかりと安心安全のプランを立ててやるから、身体能力の引き上げをしようじゃないか」
「・・・滅茶苦茶悪そうな顔をしているよ。昔捕まえたマッドサイエンティストと似た表情をしてる」
「さあ、どっちにするか選べ。ちなみにカイト、僕の予定ではイデアルで身体能力を引き上げる予定だったが、別にどうしてもいやだったら断ってもいいぞ。僕はカイトの意思を尊重する」
[ちょっとだけ補足]イデアルはあくまでも描いた理想になれる魔法なので想像できない自分にはなれない。ここでネオが恐れているのは完璧な自分を思い描いたにもかかわらず不自由があった時にどうなるか分からないことである
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