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傍観人如月哲也  作者: 双鶴


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9/11

第9話 開始2時間、声が届いた瞬間

模擬裁判、開始から2時間。

俺の議事録ファイル名は「沈黙の声」に更新された。

そして、ついにその時が来た。


---


「…話しても、いいですか?」


被告タカシが、初めて口を開いた。

その声は、小さくて、でも確かに届いた。


会場が静まる。

俺は、キーボードに手を置いたまま、動けなかった。


---


「僕、万引きしたのは…お腹が空いてたからです。

 でも、それだけじゃなくて…誰かに見てほしかったんです。

 “僕がここにいる”って、誰かに気づいてほしかった」


俺は議事録に書いた。

《被告、存在の叫び。記録係、胸が詰まる》


---


陪審員のミナミちゃんが、涙ぐみながら言った。


「それって…すごく、わかる気がします。

 私も、誰かに見てほしくて、わざと悪いことしたことあります」


検察官・佐久間さんが、静かにうなずいた。


「…それでも、ルールは守らなきゃいけない。

 でも、ルールを守る前に、“守られるべき人”がいるのかもしれない」


弁護士・水谷さんが、ぽつりとつぶやく。


「裁判って、誰かを裁くためじゃなくて、誰かを“見つける”ためにあるのかもな」


俺は議事録に書いた。

《裁判、対話へ変化。記録係、記録ではなく“記憶”を刻む》


---


傍聴人Aが、静かに言った。


「タカシくんの声、届きましたね。

 誰かに見てほしかったっていう言葉、

 それが“罪”よりもずっと重い気がします」


俺は思った。

この模擬裁判は、もう“模擬”じゃない。

これは、誰かの人生に触れる“本物”になっていた。


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