第9話 開始2時間、声が届いた瞬間
模擬裁判、開始から2時間。
俺の議事録ファイル名は「沈黙の声」に更新された。
そして、ついにその時が来た。
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「…話しても、いいですか?」
被告タカシが、初めて口を開いた。
その声は、小さくて、でも確かに届いた。
会場が静まる。
俺は、キーボードに手を置いたまま、動けなかった。
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「僕、万引きしたのは…お腹が空いてたからです。
でも、それだけじゃなくて…誰かに見てほしかったんです。
“僕がここにいる”って、誰かに気づいてほしかった」
俺は議事録に書いた。
《被告、存在の叫び。記録係、胸が詰まる》
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陪審員のミナミちゃんが、涙ぐみながら言った。
「それって…すごく、わかる気がします。
私も、誰かに見てほしくて、わざと悪いことしたことあります」
検察官・佐久間さんが、静かにうなずいた。
「…それでも、ルールは守らなきゃいけない。
でも、ルールを守る前に、“守られるべき人”がいるのかもしれない」
弁護士・水谷さんが、ぽつりとつぶやく。
「裁判って、誰かを裁くためじゃなくて、誰かを“見つける”ためにあるのかもな」
俺は議事録に書いた。
《裁判、対話へ変化。記録係、記録ではなく“記憶”を刻む》
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傍聴人Aが、静かに言った。
「タカシくんの声、届きましたね。
誰かに見てほしかったっていう言葉、
それが“罪”よりもずっと重い気がします」
俺は思った。
この模擬裁判は、もう“模擬”じゃない。
これは、誰かの人生に触れる“本物”になっていた。




