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傍観人如月哲也  作者: 双鶴


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8/11

第8話 開始105分、裁くのって、何のために?

模擬裁判、開始から1時間45分。

俺の議事録ファイル名は「傍観者、限界突破」に更新された。

そして俺は、ついにキーボードを止めた。


---


「裁くって、何のためにあるんでしょうね?」


傍聴人Aが、静かに言った。

その声は、今までで一番静かで、一番重かった。


裁判長が答える。


「秩序のためです。社会の安定のために、ルールを守らせる必要があります」


検察官・佐久間さんが続ける。


「そして、被害者のためです。傷ついた人のために、加害者を裁くんです」


弁護士・水谷さんが、少しだけ間を置いて言った。


「でも、裁くことで誰かが救われるとは限らない。

 時には、裁くことで誰かが壊れることもある」


俺は議事録に書こうとして、手を止めた。

そして、口が勝手に動いた。


「…じゃあ、裁かないことで、誰かが救われることもあるんですか?」


会場が静まった。

俺は、記録係だった。

でも今、俺は“傍観人”じゃなくなっていた。


---


傍聴人Aが、俺を見た。

その目は、まるで「ようこそ」と言っているようだった。


「如月さん、あなたはずっと記録してましたよね。

 でも、記録って、誰かの“正しさ”を残すことでもある。

 その“正しさ”が、誰かを傷つけることもある。

 だから、記録係が“裁くって何のため?”って問うのは、すごく意味があると思います」


俺は議事録に書いた。

《記録係、傍観をやめる。議論、次元を超える》


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