第8話 開始105分、裁くのって、何のために?
模擬裁判、開始から1時間45分。
俺の議事録ファイル名は「傍観者、限界突破」に更新された。
そして俺は、ついにキーボードを止めた。
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「裁くって、何のためにあるんでしょうね?」
傍聴人Aが、静かに言った。
その声は、今までで一番静かで、一番重かった。
裁判長が答える。
「秩序のためです。社会の安定のために、ルールを守らせる必要があります」
検察官・佐久間さんが続ける。
「そして、被害者のためです。傷ついた人のために、加害者を裁くんです」
弁護士・水谷さんが、少しだけ間を置いて言った。
「でも、裁くことで誰かが救われるとは限らない。
時には、裁くことで誰かが壊れることもある」
俺は議事録に書こうとして、手を止めた。
そして、口が勝手に動いた。
「…じゃあ、裁かないことで、誰かが救われることもあるんですか?」
会場が静まった。
俺は、記録係だった。
でも今、俺は“傍観人”じゃなくなっていた。
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傍聴人Aが、俺を見た。
その目は、まるで「ようこそ」と言っているようだった。
「如月さん、あなたはずっと記録してましたよね。
でも、記録って、誰かの“正しさ”を残すことでもある。
その“正しさ”が、誰かを傷つけることもある。
だから、記録係が“裁くって何のため?”って問うのは、すごく意味があると思います」
俺は議事録に書いた。
《記録係、傍観をやめる。議論、次元を超える》




