第6話 開始75分、正しさって誰が決める?
模擬裁判、開始から1時間15分。
俺の議事録ファイル名は「正しさの迷宮」に更新された。
もはや裁判じゃない。これは哲学の格闘技だ。
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「“正しい”って、誰が決めるんですか?」
傍聴人Aが、またやった。
この人、議論の“地雷原”をスキップで踏みに行くタイプ。
陪審員の一人、会社員の山口さん(40代)が声を荒げる。
「正しいかどうかなんて、常識でわかるだろ!
万引きは悪い。それだけだ!」
傍聴人Aは、静かに首をかしげる。
「でも、“常識”って、誰のものですか?
タカシくんの家では、それが“生きるための手段”だったかもしれない」
俺は議事録に書いた。
《常識、個人差あり。記録係、議論の火薬庫に立つ》
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裁判長が、少しだけ口を挟む。
「法律は、“社会の正しさ”を形にしたものです。
でも、個人の正しさとぶつかることもありますね」
弁護士・水谷さんが、ニヤリ。
「つまり、“正しさ”は一つじゃない。
それを裁くって、かなり傲慢なことかもしれませんね」
俺は議事録に書いた。
《正しさ、多様性あり。記録係、傲慢という言葉に動揺》
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そして、傍聴人Aが言った。
「タカシくんは、間違ったことをしたかもしれない。
でも、“間違い”って、誰かが“正しい”って言ってるから生まれるんですよね。
じゃあ、その“正しい人”って、どこにいるんですか?」
俺は思った。
この人、裁判じゃなくて哲学書の著者になるべきだ。
でも、議論は確かに進んだ。
“正しさ”とは何か。
“裁く”とは何か。
そして、“誰がその資格を持っているのか”。
俺は議事録に書いた。
《傍観人、正しさの定義を破壊。記録係、思考がショート寸前》




