第5話 開始1時間、社会って、誰のこと?
模擬裁判、開始から1時間。
俺の指はもはや“議事録界のF1マシン”と化していた。
でも、議論のほうが速い。
追いつけない。誰か、俺にピットインをくれ。
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「社会が許さないって言うけど、社会って誰なんですか?」
傍聴人Aが、またやった。
この人、議論の“急カーブ”をノーブレーキで突っ込んでくる。
検察官・佐久間さんが、ややムッとしながら答える。
「社会とは、我々全体の価値観の集合体です。ルールを守ることで秩序が保たれるんです」
弁護士・水谷さんが、口角を上げる。
「でも、その“全体”って、誰が代表してるんですか?
この中に“社会代表”って人、います?」
俺は議事録に書いた。
《社会代表、行方不明。記録係、探偵になりたくなる》
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陪審員の一人、元警官の大野さん(60代)が口を開く。
「私は現場で、いろんな“社会”を見てきました。
でもね、ルールを守る人が正しいとは限らないんですよ。
“正しさ”って、時代でも場所でも変わるんです」
俺は議事録に書いた。
《元警官、社会の相対性を語る。記録係、頭が追いつかない》
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傍聴人Aが、静かに言った。
「タカシくんがやったことは、確かに“ルール違反”かもしれない。
でも、彼が“社会”から見捨てられてたとしたら?
その社会に、彼を裁く資格って、あるんですかね」
会場が、また静まった。
裁判長が、深く息を吐いた。
「…模擬裁判とはいえ、これは重い問いですね」
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俺は議事録に書いた。
《傍観人、社会に問いを投げる。記録係、思考がフリーズ》




