第3話 開始30分、法律って、そんなにエライの?
模擬裁判、開始から30分。
議論は「更生とは何か」から、なぜか「法律って何?」に進化した。
傍聴人Aが言った。
「ていうか、“万引きはダメ”って、誰が決めたんですか?
法律? でも法律って、罰するだけで、ダメって言ってないですよね?」
俺は議事録に書いた。
《傍聴人、法律にケンカを売る。記録係、タイピングが追いつかない》
裁判長が少しだけ笑った。
「確かに、“ダメ”とは書いてませんね。“罰する”とは書いてありますが」
検察官・佐久間さんが反論。
「でも、罰するってことは、社会が“ダメ”って言ってるってことです」
弁護士・水谷さんがニヤリ。
「じゃあ、社会が“ダメ”って言ってることを、個人が“いい”って思ったらどうなるんですか?」
俺は議事録に書いた。
《議論、倫理と法律の境界線へ。記録係、哲学の授業を受けている気分》
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傍聴人Aが静かに言った。
「タカシくんは、悪いことをしたんじゃなくて、“社会にとって都合が悪いこと”をしただけかもしれない。
でもそれって、本人の人生を否定する理由になりますか?」
俺は思った。
この人、裁判じゃなくて人生相談所に行くべきだ。
でも、議論は確かに深まった。
“罰”とは何か。“悪”とは何か。
そして、“誰がそれを決めるのか”。
俺は議事録に書いた。
《傍聴人、議論の深海へ。記録係、酸素が足りない》




