スタートダッシュ4
ガレージでの話以降。一か月にも亙る大規模整備が行われた。
それから一か月間、毎週土曜日になると陽介は光圓寺の屋敷へ借りているFCに乗って来ていた。スープラの進行状況を見るとともに話がしたいためだ。そんなこと学園で話せば良いではないかと思う人が多数いるだろうが思い出してくれ。光圓寺と会話をするなど容易ではないのだ。というか不可能だ。なにせ彼はまさしく絶対零度なのだから。顔だけで魅せられた女子たちが何人撃墜されたことか……。ともかくいつもはそんな感じの光圓寺と軽口叩き合えることが普通に楽しいのだ。もう一つあるとするなら目の前にいる奴の流行乗り度が俺よりすごいという点だ。そういうケースは多くないためとても嬉しいのだ。あったとしても車の運転ぐらいだ。しかし光圓寺はそれさえもはるかに超えており、専門家か!!というぐらい知識に関してもドラテクに関しても何もかもが上なのだ。
「…の…あの、聞いていますか。」
「ん?‥‥ああ、ごめんなんだっけ?」
いつの間にか寝落ちしていたみたいだ。光圓寺がスープラの下からひょっこりと顔を出している。今日ようやく足回りのチューンが終わって再度組直し中をしているところに来て、作業の手伝いをしながら話していたのだ。
「もうすぐ11時回りますが…C1、上らなくていいのですか?」
「ああ…もうそんな時間か。もちろん行くさ。」
寝ぼけ眼をこすりながら陽介がそう答える。
「それならまた感想よろしくお願いします。」
光圓寺がそう言いながら笑いかけてきたので、サムズアップで返してやると早速FCのエンジンをふかしてやる。実際のところ今借りてるFCは彼が言うには試験用なわけでFCのエンジン以外にチューンはそこまでしていないそうだ。今までは光圓寺一人で問題なかったのだがこの前の33のオーナーさんが来たことで一週間も食ってしまったためそういうときのため運転だけは俺に任せて馬力に関しての感想を基に調整をするという作業を繰り返すほうが効率がいいという結論に至ったそう。イコール、俺がすることはただ一つ。運転して感想を言う……ただそれだけだ。しかしこれがとっても難しいのだ。先ほど馬力に関することを聞いて、と言ったはずだ。馬力だけということはその他はそこまで改良を加えていないということ……イコール操作性を殺してあるのだ。なので結構危ないのだ。そのことを話すと足回りを簡単に組直してくれたけれど余計に馬力アップさせてるし。そんなこんなで危ないFCに乗車し続けて早一か月。自分的にはドラテクが結構上がったように思う。
あくまでも自分的にはだ。
今日も雰囲気組を軽く蹴散らしたしそろそろ帰るかと陽介が降りようとしたとき、後ろからもの凄いスピードで何かが追ってきた。それの色は、藍色……。藍色!?。後ろについてきたのはどう見ても藍色のスープラだった。つまり完成したのだ……生まれ変わった俺の相棒は俺を一瞥すると一瞬にして抜き去った。
「今日のエンジンはどうでした。しっかりとパワー出てましたか?」
東京駅の前で合流した陽介と光圓寺はFCとスープラのことを話していた。
「まずまずかな。加速がいい代わりにパワーが
落ちてた。」
「そうですか。また調整しておきます。」
そう言って顎に手を当てながら光圓寺がぶつぶつと独り言を始める。
「そう言えば結構早かったな、完成するの。」
「あ!そのことですが、なんであんなに遅かったのか分かりましたよ。」
「マジ!何だったんだ。」
陽介が興奮気味に言い寄ると、光圓寺はまたもやサラッと答えてくれた。
「トランスミッションです。」
「はい?……トランスミッション??」
誰でも知っている基本用語に首を傾げる陽介にため息をつきながらも光圓寺は、丁寧に教えてあげた。
「簡単に言えば自転車のギアですよ。エンジンで生まれた動力源を断続するためのスターティングデバイスと共に変速機構となっている動力伝達装置の一つです。これのギア比をいじることによって回転数や、車速などの調節ができるんです。」
「あ…ああ、大体わかった。それでそいつの何が悪かったんだ?」
「ここまで言えばわかるでしょ……説明しますよ。言わばギア比がてんやわんやな状態だったせいで本来出たはずの車速が抑えられていたんですよ。」
そこまで言われて陽介にもようやくわかってきた。
「つまりそのギア比が過剰に低くされてたせいで力が十分に発揮されなかったってことだな。……だからエンジンをいじらずとも、ギア比を合わせれば済むからそこまで時間が掛からなかったってわけか。」
「はい。大体そういうことです。」
不意に光圓寺が笑いかけてきたので、陽介は少々照れくさくなり頭の後ろをかいた。光圓寺の屋敷に行く理由を無意識ながらもう一つあったようだ。〝光圓寺の笑顔〟……俺はそれが見たいのだ。そう思うのは光圓寺が絶対零度な代わりと言っちゃなんだがとんでもないイケメンだからだろう。なので本人はそこまで意識していないものの、必然的に光圓寺の笑顔は反則級のイケメンスマイルとなるのだ。ただ笑いかけるだけならいいとしてアイコンタクトも自然過ぎる(内閣幹部の息子だから人付き合いには慣れ慣れなのだろう)からここまでくると男でもキュンとなるやつが多発するだろうというレベルにまで達している。学園の奴らが見たら、特に女子なんか一瞬でぶっ倒れるだろうな。そう考えていると、変な気持ちが込み上げてきた。
*光圓寺*
「それじゃあここで交換していきますか?」
変なことを考えていた陽介の前に光圓寺はスープラのキーを差し出した。今回も足回り中心のチューンとしたが見直すことも視野に入れようと光圓寺は考えていた。今日、陽介がFCを操る姿を始めてみたが、たった一か月でここまで成長していた陽介に驚き、また希望を抱いていた。彼ならきっと首都高の一部と行かずこの地のすべてを……
「ああ、じゃあ今日はここで解散だな。」
すると陽介もFCのキーを持った右手を差し出しながら、空いている逆手を光圓寺のキーの真下へ差し出す。その瞬間感じたことのない気持ちが込み上げてきた。そして軽く笑いかけながら、空いた逆手をFCのキーの真下に差し出す。二人の手から落とされたキーが同時に双方の手のひらにカチャンと音を立てて落ちた。
今回も読んでいただきありがとうございます。一旦は完成したスープラですが、これからも改良がくわえられ続け、最強のモンスターマシーンとなっていきます。乞うご期待!!(今後はこれを中心に進めていこうと思いますごめんなさい)。




