スタートダッシュ5
大整備から1週間が経った頃、新たな出会いがあった。
完成した相棒は、新たな姿を気に入ったかのように元気なエンジン音を鳴らしていた。もうすぐ日が昇ってきそうなので大黒のパーキングエリアへ向かう。そこには最近見慣れたある人物が愛車の【NSX-TypeR】を止めていた。
「おお、陽介君じゃないか。」
「お久しぶりです。タイチさん。」
誰でもタメ口ボーイである陽介でもこの人、〝荻原 タイチ〟さんの前ではさすがに緊張する……というか誰でもそうなるだろう……。この方は光圓寺のお父さんである丘田 正蔵と同じくらい……下手すりゃそれ以上に日本中を驚かせた男なのだから。大富豪・億万長者……その両方の称号を、彼はたった21歳にして手に入れたのだ。それも去年の話なので、しかも俺や光圓寺が17歳の頃に達成したことだからなお凄い。あと三年でそんなことができるかと言われれば絶対ノーだ。
そう考えているとついさん付けが止められずタイチは唇を尖らせながら…
「そのさん付けやめてほしいな。ココじゃそういう堅苦しいの嫌いだからさ~」
「え?……あ、はい。それはすみません。」
反射的に敬語で誤ってしまったがそれは仕方ない
「そういえば今日もあれ、探してたんですか?」
「もちろん。あの方以外僕が求める人はいないからね。」
〝あれ〟と言うのを話すには俺とタイチさんの出会った日のこと説明しなければ
いけないな………
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タイチさんと会ったのはほんの一週間前、5月29日だ。その日はスープラの手直しが終わった翌日だったため腕慣らしのドライブに来ていた。軽く何回か周回しているところにいきなり飛び込んできたのが、全体をまっ黄色のボディにした“NSX・TypeR”だったのだ。更にホイールまで金ピカと来たので乗っているのがタイチさんだと知らなかった俺は、‘なんと生意気な雰囲気組なのか’などとと言う無礼なことを考えてしまったよ……。結果的には直線での加速で圧倒され、一瞬で追い抜かれてしまった…が、何とかコーナリングで食いついていたため、タイチさんは俺を認めてくれたのか減速すると窓から手招きして下りて行こうとしたので速度を落としてついて行ったのだ……。
もうお分かりだろう。その後はただひたすらについていき陽介にとっては人生2個目の豪邸(実際は高層ビルがったが)についてしまったわけだ。そこでNSXの正体がタイチさんだとわかった……。そりゃ何度も謝り倒したさ。なんせ億万長者に対して生意気などと言う考えを働かせたのだから。だけどそんなことは気にせずタイチさんは微笑みながら
「君が何で謝ってるのか分からないけど、ねぇ。…名前なに?」
ん?、名前?。などと馬鹿なことを考えてしまってからすぐ言葉の意図が分かる。この人は自分の名前を知らない……。てか知ってるわけもないだろうが!。と心の中で自分を叱責する。
「ええっと、僕の名前は澤田 陽介です。」
「陽介くんね・・・。」
「あなたは荻原 タイチさんですよね?」
そう問い返すと、平均的な容貌で最大限の笑顔を作り、自慢げに
「そう!!。【スピ―ディングキラー】こと荻原 タイチでーす。」
タイチさんがこの時テンションMAXになったのかは今でもわからないが、『有名になればわかる』とのことなのでその時は詮索をやめた。
「いやー。僕のことを知っている人がいて良かった~。ゴッドアームとか帝王に押しつぶされて僕のことはあまり知らない人が多いから。」
タイチさんは自分のことを話しながら謎のワードを言ったような。〈ゴッドアーム〉〈帝王〉……どちらもピンとこない名前だ。
「タイチさん。」
「ん?なになに~」
物思いに更けていたようだったタイチに陽介が話しかけるとタイチはニヤニヤしながら質問を待っているようだった。
「帝王とかゴッドアームっていったい何のことですか?。」
そう聞いてみるとタイチさんは少し驚いたような顔を見せ、
「もしかして君、〈首都高の派閥〉知らない?」
「はっ、はい!そういうことは全然…。」
「そういうことかー。なら!このハイウェイレーサーになって1年の古参レーサー様が君に教えてあげましょう。」
そこからは、もう訳のわからないハイウェイレーサーの裏事情を、タイチさんは時間を掛けてみっちり教えてくれた。
まず最初に、首都高(神奈川線の一部も合わせて)には大きく分けて、C1・新環状・湾岸線・高速神奈川・横浜線の5ヵ所の地域に区分されるそうだ。その一つを制覇した者が【ハイウェイマスター】と呼ばれるのだが、呼び方は大体が異名。しかし、その先にある全地域制覇の壁は、今まで誰も乗り越えたことがないらしい。チームに関しては個々のものがあれば、チューナーショップが関連しているものもあるらしく、組織的に全地域制覇を目指しているような所を首都高の派閥と呼んでいるらしい。今いる派閥は、例の【C1のゴッドアーム】からしてもやっぱり強いのはチューナーショップ系だろう。それならばタイチさんは……
「タイチさんは一体どこのチームに?」
そんなことが不意に陽介の口から出ると、タイチは少し残念そうな顔をした。
「君の目は節穴かい?。答えは目と鼻の先にあるじゃないか。」
そう言ってタイチは右の親指を後ろのNSXのフロントの方へ向けた。
「疾風…って、これがチーム名!?。」
流石に単調過ぎたため驚きの声を漏らすとタイチさんは少し心外そうに口を尖らせる。
「みんながみんなイケイケなチーム名のわけがないじゃん。うちはただの一般チームだし。」
「ちなみに、名前の由来は‥‥」
驚かれたのが余程残念だったのかとても不機嫌そうなので、慎重に言葉を探していると再び顔を明るくした‥‥。あぁ、この自身も案外単調だ。
「そりゃもちろん、疾風の如く速いミッドシップたちって意味さ~。」
長らくお待たせしました!!生活の都合上あまり執筆ができてなかったので……まぁこれも言い訳か。新型コロナが少しずつ落ち着いてきましたが、まだまだ気を緩めない状況ですね。誰でも体調には気を使ってあげましょう。それではまた今度。




