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竜人姫の最恐侍女  作者: もののめ明


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9/11

戦う

 ビィの目論見通りというべきか……前を行く騎影は炎をちゃんと避けた。

 すぐさま旋回し、こちらへ向かってくる。

「あ……こっちに来る!」

「よし。じゃあ、イリオス、姫さまを頼んだ」

「は? 頼んだってどういう意味?」

「そのまんまの意味だよ。あたしは、あのヤローをぶっ殺す。その間に、姫さまを助けろ。んで、すぐに城へ戻れ」

「はぁぁ?」

 イリオスは大きな声で叫び、後ろを振り返った。

「ぶっ殺すって、ムリだよ! オルギ将軍は、一人で千の敵を薙ぎ払ったことがある。歴戦の戦士だ。それに、すごい風爆魔法を使う。ビィじゃ、絶対に相手にならない。さっきもふっ飛ばされて刺されたじゃないか」

 それを聞いても、ビィは鼻で笑うばかりだ。

「さっきは、さっき。ていうか、魔法は当たらなきゃ大丈夫だ」

 胸を張って答えるので、イリオスは呆れた顔になった。溜め息混じりに呟く。

「死にかけたくせに、すごい自信だね……。ていうか、こんな空の上でどう戦うんだよ。姫さまだって、危ないじゃないか。さっきも姫さまが捕まっているのに、突っ込んでいって! 何を考えているんだよ……。あ、そうだ、思い出した! 僕の剣!」

「騎士のくせにグダグタうるさいなぁ」

「グダグタじゃない、正しい指摘! ああ、もう話している時間がない!」

 気がつけば、鷲獅子(グリフォン)や乗り手の顔がはっきり見える距離になっていた。

 オルギの憤怒の形相に、イリオスは背筋を震わせる。

 ビィが立ち上がった。

「ビィ!」

「あいつは、姫さまを殺すことはしない。わざわざ遠い国からさらいに来たんだからな。あと、姫さまはすごく丈夫だ。だからもし、この高さから落ちても、大丈夫」

「はぁぁっ?!」

 それってどういう意味……とイリオスが問い返す暇もなく、ビィは跳んだ。

 いつの間にか、大剣を抜いている。

(無理だ、魔法で落とされる!)

 イリオスの全身から血の気が引く。

 予想通り、オルギが片手を上げ―――魔法の炎が炸裂した。

 が、攻撃の魔法は大剣に当たり、一瞬で霧散する。

 一方、勢いのままにビィは鷲獅子の首を一刀両断した。


 ビィと、オルギと、アリストスセラスと、鷲獅子の死体と。

 それぞれがバラバラに落ちてゆく。

「わーっ、キアノ、姫さまを受け止めに行け!」

 イリオスは慌てて飛竜の首を下に向ける。

 真っ黒な鎖に縛られたアリストスセラスは、きょとんとした顔をしていた。

 それをなんとか受け止め、さらにビィを助けに行こうとして……再び、凄まじい魔法の光と風が辺りに渦巻いた。

「ギャウッ!」

 キアノが衝撃にバランスを崩す。

 それをなんとか整えた頃には、眼下の森が消失していた。

 えぐれた大地に、オルギが膝をついている。恐らく、落ちる衝撃を和らげるために地面に向けて魔法を使ったのだろう。

 そこから少し離れたところには―――ビィがすっくと立っていた。

「す、すごい。無事だったのか……」

 イリオスが無意識に呟くと、イリオスに抱えられたアリストスセラスは笑った。

「今のビィは、竜人の加護を得ている。これくらいの高さなら、大丈夫よ」

「姫……それは、どういう……」

「あの剣。始祖の剣が、ビィを選んだの。……ねえ? さっき、ビィはお腹を刺されていたけど……治癒が間に合ったのね? 良かった……。それに、私を助けに来てくれるなんて」

 目をキラキラとさせ、アリストスセラスは下のビィを見つめる。

 イリオスは不思議そうに目を瞬かせた。

 眉を寄せ、腕の中の少女に尋ねる。

「姫さま。ビィは一体、何者なんですか」

「ふふ。私の一番頼りになる侍女よ。誰よりも強くて、優しくて、ステキなの!」

「はあ」

「それより、この鎖! これを解いてくれる? これが無ければ、私もビィの手伝いができるわ」

 イリオスの腕の中でもぞもぞと動きながら、アリストスセラスは訴えた。

 途端にイリオスは目を丸くし、首を振る。

「ダメです、ダメダメ。姫さまは戦っちゃいけません」

「でも!」

「ビィは姫さまを助けたら、すぐに城へ戻れと言いました。姫さまを戦わせるつもりはないからです。それに、姫さまはその力を正しく使うために努力していると、ビィは言っていましたよ。だから間違わずに、正しい使い方をしてください。あの男は、確かに我々の敵です。でも、姫さまが手を汚すような相手ではありません。それはビィや、僕ら騎士の仕事です」

「…………」

 アリストスセラスは口を開けて反論しかけ……ぐっと唇を噛んだ。

「でも……でも……」

 イリオスはキアノの首を城のある方向へと向ける。

「ビィを信じましょう、姫さま。あなたの一番の侍女なんでしょう?」

「そう……だけど……」

 そのとき、下で爆発音がした。

 オルギがビィに向けて攻撃をしたのだ。

 熱風が下から吹き上がってきたので、キアノがさっと高度を上げる。

「死んだと思ったのだがな。貴様、ただの侍女ではないな?!」

 オルギの太い声が辺りに響く。

 このままアリストスセラスを連れて城へ戻るべきだと思いながら、イリオスは上空を旋回して下の二人を見守る。

 大剣で攻撃の魔法を散らしたビィが笑った。

「あはは! あんたはスゴイ将軍だって聞いたけど……それ、本当かぁ? わざわざヨソの国の幼い姫をさらいにくるなんて、将軍サマのすることとは思えない。ていうか、そもそも大国のすることじゃねぇよな」

「貴様……愚弄するか!」

「気取った言い方をされても、あたしにはわかんないね!」

 ビィは叫び、剣を振り上げて跳躍する。

 オルギも腰の剣を抜いて応戦した。

 ―――激しい金属音。

 一合、二合。

 三合目で、オルギの剣が砕けた。

 慌ててオルギが後ろへと下がるが、ビィは躊躇わずに追いすがり、オルギの剣を持つ腕を切り落とす。

「ぐぁっっっ!」

 堪らずオルギが呻き、膝をついた。

 その首を目掛け、ビィは迷うことなく大剣を振り下ろす。

 ―――ザシュッ。

 大剣はオルギの首の皮一枚だけを切って地面へと突き刺さった。

 切られた腕を押さえたまま、首元に剣が当たっているオルギは動けない。

「……殺せ」

「殺してやりたいけど、殺さねぇ。だってあんた殺したところで、あんたの国はバカげたことを止めないだろ。あたしは物知らずだけど、それくらいは分かる」

「それで私を人質に交渉をすると? それこそ、無駄なことだ」

 吐き捨てるようなオルギの言葉に、ビィは鼻で笑った。

「わざわざ教えてもらわなくても、分かってるって。交渉なんて面倒くさいことじゃなく、あんたを使って脅してやるだけさ」

「脅す……?」

 脂汗を滲ませた顔で、オルギはビィを見上げる。

 目の合ったビィは、嫌そうに口をへの字に曲げながら、ポケットからハンカチを取り出した。

「とりあえず、死なれたら困るな。手当てはしてやるよ」

 不本意そうに言いつつ、手際良く切り口を包むようにハンカチで腕を縛る。応急手当は、ちゃんとマイヤから教えられているのだ。

 何か魔法が作用しているのか、腕の切り口から血は流れ出ていなかった。切断面は恐ろしく綺麗だ。

 バサッ。

 背後から翼の羽ばたく音がした。

 飛竜―――キアノがゆっくりと地に降り立つ。

「城へ戻れって言ったのに」

「まあ、そうなんだけど……」

 イリオスが苦笑いしながら、アリストスセラスを抱えて降りてくる。

 ビィは大剣を地面から抜き、オルギを足蹴にした。

 呻いて転がるオルギの背を遠慮なく踏んで動けぬようにし、イリオスを招く。

「姫さまの鎖を解く。こっちに来てくれ」

「う、うん」

 呼ばれたイリオスはビィの近くまで行き、そっとアリストスセラスを下ろした。アリストスセラスも神妙な顔をして、ビィを見上げる。

 ビィは、慎重に大剣を黒い鎖に当てた。そして軽く力を入れると……鎖はあっけないほど簡単に壊れた。

 拘束を解かれ、アリストスセラスは大きく伸びをし、小さく微笑んだ。

「ありがとう、ビィ」

「ん。……じゃあ、ラスは―――姫さまは城に帰るんだ」

「え? ビィは一緒に帰らないの?」

「あたしは、あともう一仕事してくる。二度と、こいつらがバカなことを考えないように」

 そう言って、足に力を入れる。

 足元のオルギが再び、呻いた。

 それを見下ろし……ビィは完全に悪役の顔でニヤリとした。

たぶん、あと1話です。次の更新は、来週に。

なかなか上手く進められず悪戦苦闘中……。


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