表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの春の続きを、まだ知らない  作者: ラーラーリールー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

第八章 もう一度、隣へ

「私たち、また戻れると思う?」


雨音がやけに大きく聞こえた。


コンビニの軒下。


濡れたアスファルト。


少し近い距離。


その一言だけで、空気が変わった気がした。


心臓がうるさい。


答えないと。


でも、すぐには言葉が出なかった。


戻る。


その言葉の意味はわかってる。


友達じゃない。


もっとちゃんとした意味。


でも。


怖かった。


また同じことになるんじゃないか。


大学生活が始まったばかりで、環境も違う。


前みたいにすれ違うかもしれない。


今の関係を壊すのも怖い。


「……わかんない」


やっと出た言葉は、それだった。


最低な答えだと思った。


でも、嘘も言えなかった。


美咲は少しだけ視線を落とした。


「あ、ごめん」


すぐに笑う。


でも、少し無理してる笑い方だった。


「急に変なこと聞いた」


「いや、そうじゃなくて」


慌てて言葉を探す。


「怖いんだと思う」


美咲が顔を上げる。


「また離れるのが」


正直な気持ちだった。


好きになって。


また失うのが怖い。


高校の頃、ちゃんと終われなかったから余計に。


「……私も」


美咲が小さく言った。


「またダメになるの、怖い」


少しだけ安心した。


同じだった。


俺だけじゃなかった。


沈黙。


でも、今までみたいな気まずさじゃない。


ちゃんと本音を言った後の静かな空気だった。


「でもさ」


美咲が少し笑う。


「今の悠真、前よりちゃんと話してくれる」


「そう?」


「うん。高校の時、結構我慢してたでしょ」


図星だった。


言いたいことを飲み込む癖があった。


喧嘩になるのが嫌で。


重いと思われるのが怖くて。


結果、距離ができた。


「……ごめん」


自然と出た。


高校の時、言えなかった言葉。


「受験の時、ちゃんと向き合わなかった」


美咲が少し驚いた顔をする。


「俺、本当は別れたくなかった」


雨音。


少しだけ震える声。


でも、止まらなかった。


「でも余裕なくて、何言えばいいかわかんなくて」


ずっと胸の奥にあった言葉だった。


言えなかった後悔。


「美咲が離れていく気がして、怖かった」


少し沈黙。


そして。


「……ばか」


美咲が笑いながら言う。


でも少し泣きそうだった。


「私も同じだったのに」


胸が締め付けられる。


そんな簡単なことだったのかもしれない。


好きだったのに。


ちゃんと話せなかっただけ。


子どもだっただけ。


「ねえ」


美咲が少し近くに来る。


「今なら、ちゃんと向き合える?」


答えは、もう決まっていた。


怖い。


でも。


このまま曖昧なまま終わる方が、もっと嫌だった。


「……向き合いたい」


自分でも驚くくらい、まっすぐ言えた。


美咲が少しだけ目を丸くする。


それから。


ゆっくり笑った。


「よかった」


その笑顔を見た瞬間、少しだけ肩の力が抜けた。


でも。


まだ終わりじゃない。


ここからだ。



雨が少し弱くなった頃。


駅まで歩く。


前より少し距離が近かった。


不思議なくらい自然に。


駅前。


改札の前。


「なんか緊張した」


美咲が笑う。


「俺も」


「悠真があんな話すと思わなかった」


「俺も思わなかった」


少し笑う。


それから、美咲が少し真面目な顔になる。


「じゃあさ」


少しだけ間。


「もう少しだけ、一緒に頑張ってみる?」


“付き合おう”ではなかった。


でも。


それが美咲らしかった。


急がない。


ちゃんと向き合いたい。


そんな言い方。


「うん」


自然に頷いていた。


「俺も」


美咲が少し安心した顔をする。


「よかった」


電車の時間が近づく。


でも、不思議だった。


前みたいな寂しさじゃない。


また会えると思えた。


「また連絡する」


「うん」


改札を通る前。


美咲が振り返る。


「悠真」


「ん?」


少し照れた顔で笑う。


「今日、ちょっとかっこよかった」


心臓が跳ねる。


何も返せないまま、美咲は笑って改札を通った。


帰りの電車。


スマホが震える。


朝倉 美咲

『今日はありがとう』


少しして。


もう一件。


『またちゃんと好きになりそう』


画面を見たまま、しばらく動けなかった。


でも。


気づけば少し笑っていた。


たぶん。


俺はもう、とっくに。


——また好きになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ