表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの春の続きを、まだ知らない  作者: ラーラーリールー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

第五章 近いのに、まだ遠い

五月に入ると、大学にも少しずつ慣れてきた。


新歓の空気は落ち着いて、教室の座る場所もなんとなく固定される。


誰が誰と仲がいいのかも見えてきた。


俺は相変わらず大人数は苦手だったけど、健太とはよく話すようになっていた。


「で?」


昼休み。


学食でうどんを食べていると、健太がニヤついた顔でこっちを見る。


「何」


「最近スマホ見る回数増えてる」


「気のせい」


「絶対女」


面倒くさい。


でも、少しだけ図星だった。


実際、美咲とのLINEは続いていた。


毎日じゃない。


でも、気づけば「今日何してた?」みたいな会話が自然に続いている。


前みたいに。


違うのは、前より少し慎重なことだった。


踏み込みすぎない。


期待しすぎない。


どこかで、お互い線を引いている感じがあった。


「藤沢ってさ、元カノ引きずるタイプ?」


急だった。


思わず顔を上げる。


「なんで」


「なんとなく」


健太は軽い調子で言う。


「……まあ」


「いるんだ」


否定できなかった。


忘れようと思ってた。


大学に入ったら終わりだと思ってた。


でも、また会ってしまった。


しかも。


また少しずつ、近くなっている。


「まだ好きとか?」


その言葉に、返事が止まる。


好き。


その言葉をちゃんと考えないようにしていた。


でも——。


「……わかんない」


健太は少し驚いた顔をした。


「重症だな」


「うるさい」



その日の夜。


美咲からLINEが来た。


『明日、一限終わり空いてる?』


俺は返信する。


『空いてる』


『学食付き合って』


少しだけ笑う。


こんな会話、前なら当たり前だった。


でも今は、少し特別に感じる。


翌日。


一限終わりの学食は意外と空いていた。


窓際の席を取って、美咲を待つ。


数分後。


「お待たせ」


自然に向かいに座る。


最近、こういう時間が増えていた。


週に一回か二回。


授業終わりに話したり、ご飯を食べたり。


曖昧な関係のまま。


「疲れた」


美咲が机に軽く突っ伏す。


「一限苦手?」


「眠い」


少し笑ってしまう。


「高校の時も言ってた」


「あ、覚えてる?」


「まあ」


覚えてることだらけだった。


コンビニでいつも同じジュース買ってたこと。


数学が苦手だったこと。


雨の日、髪が少し広がること。


忘れようとしても、ちゃんと残ってる。


「悠真さ」


「ん?」


「彼女できそう?」


急だった。


「え?」


「大学だし」


少し視線を逸らしながら聞いてくる。


「……ないと思う」


「なんで」


「人見知りだし」


「言えてる」


「ひど」


笑う。


でも、そのあと。


美咲が少し小さい声で言った。


「ちょっと安心した」


一瞬、聞き間違いかと思った。


「え?」


「……なんでもない」


話を逸らすように水を飲む。


でも、少しだけ顔が赤い。


なんだそれ。


期待していいのか、わからなくなる。



帰り道。


駅へ向かう途中だった。


前から男女二人組が歩いてくる。


すれ違った瞬間。


「あれ、美咲?」


女の方が立ち止まった。


「え、真奈!」


友達らしい。


でも。


その子の視線がこっちに向く。


「彼氏?」


一瞬、空気が止まる。


美咲が少し慌てた。


「違う!」


……違う。


当たり前だけど、少しだけ刺さる。


「高校の友達!」


「ふーん?」


絶対疑ってる顔だった。


少し話して別れる。


気まずい沈黙。


「……ごめん」


美咲が言った。


「何が」


「なんか、強めに否定しちゃった」


少し困った顔。


「別にいいよ」


当然だ。


付き合ってるわけじゃない。


元カノだし。


でも。


なんで少し落ち込んでるんだろう。


駅までの道が少しだけ静かになる。


その時。


「でも」


美咲が急に言った。


「彼氏って思われるの、嫌じゃなかった」


足が少し止まりそうになる。


「……え?」


美咲は前を向いたまま。


少しだけ恥ずかしそうに笑う。


「なんでもない」


ずるいと思った。


そういうこと言うの。


その日、家に帰っても頭から離れなかった。


俺たちは今、何なんだろう。


友達以上。


でも、恋人未満。


たぶん、お互いに。


もう少しだけ、踏み出せないでいた。


そして数日後。


その曖昧な距離を、少し揺らす出来事が起きる。


美咲から届いた一通のLINE。


『今日、ちょっと電話できる?』


その一文だけだった。


でも、何か嫌な予感がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ