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あの春の続きを、まだ知らない  作者: ラーラーリールー


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第四章 久しぶりの隣

休日に誰かと出かける予定なんて、いつぶりだろう。


しかも相手は、元カノ。


前日の夜から少し落ち着かなかった。


何を着ればいいのか迷って、クローゼットを何度も開け閉めする。


気合い入れすぎと思われるのも嫌だし、適当すぎるのも違う。


結局、無難なパーカーと黒のパンツにした。


朝。


待ち合わせは駅前の改札。


十五分前に着いてしまう。


早すぎたと思いながらスマホを見て時間を潰していると、通知が来た。


朝倉 美咲

『ごめん、3分くらい遅れる!』


少しだけ笑う。


高校の頃も、美咲はいつも少しだけ遅れてきた。


「急いだ!」って言いながら。


——変わってないな。


五分後。


「ごめん!」


少し息を切らしながら、美咲が来た。


ベージュのカーディガンにデニム。


高校の制服姿しか知らなかったから、私服を見るだけで少し変な感じがした。


「あ、ごめん待った?」


「今来た」


嘘だった。


でも、昔からそう答えていた気がする。


「絶対嘘」


「なんで」


「顔」


笑われる。


その空気が、少し懐かしかった。


「で、どこ行く?」


「一応考えてる」


美咲がスマホを見せる。


駅二つ先のショッピングモール。


「ベタだけど」


「いいと思う」


正直、どこでもよかった。


一緒にいること自体が少し特別だったから。



電車に乗る。


休日だからか、車内は少し混んでいた。


自然と横並びになる。


近い距離。


でも、触れそうで触れない。


昔なら当たり前だった距離感が、今は少しだけ難しい。


「大学どう?」


美咲が聞く。


「最近少し慣れてきた」


「友達増えた?」


「一人」


「少な」


「うるさい」


笑われる。


でも嫌じゃない。


高校の頃の感覚に近い。


「私は女友達増えた」


「よかったじゃん」


「でも男子とはあんまり喋れない」


「意外」


「なんか疲れるんだよね」


そう言いながら窓の外を見る。


少しだけ表情が落ちた気がした。


「何かあった?」


聞くと、美咲は少し迷った顔をした。


「いや……同じサークルの人にご飯誘われて」


「へえ」


なんとなく胸がざわつく。


変な感覚だった。


別れてるのに。


俺には関係ないはずなのに。


「でも断った」


その言葉に、少しだけ安心してしまった自分がいた。


「なんで?」


聞いてから、少し後悔する。


踏み込みすぎた気がした。


でも美咲は少しだけ笑った。


「なんとなく」


それ以上は言わなかった。



ショッピングモールは思ったより人が多かった。


服屋を見たり、本屋に寄ったり。


特に目的もなく歩く。


でも、不思議と気まずくない。


「これ似合いそう」


急に美咲が服を持つ。


「絶対着ない」


「えー、似合うって」


「派手」


「相変わらず地味だね」


高校の頃も服を選ばれていたのを思い出す。


「これ着てよ」と言われて、結局買わなかった。


そんな小さい思い出まで残っている。


昼はフードコートにした。


向かい合ってラーメンを食べながら、美咲がふと言った。


「なんかさ」


「ん?」


「普通に楽しい」


少し照れくさそうに笑う。


「……俺も」


「ほんと?」


「うん」


本当だった。


大学に入ってから、一番自然に笑えている気がした。


沈黙も苦じゃない。


無理に話さなくても落ち着く。


それは多分、特別なことだった。


でも。


ふと思ってしまう。


——これって、どういう関係なんだろう。


元恋人。


友達。


それとも。


帰り道。


駅まで歩いている時だった。


「ねえ悠真」


「ん?」


「聞いていい?」


少し真面目な声だった。


「……私たちって今、どういう感じ?」


心臓が少し強く鳴る。


考えていたことを、そのまま聞かれた。


「どういう感じって?」


「友達?」


少し困ったように笑う。


「元カレ元カノだけど」


答えに困る。


正直、自分でもわからなかった。


ただ。


会いたいと思ってる。


LINEが来ると嬉しい。


一緒にいると落ち着く。


それは、ただの友達なのか。


「……まだ、わかんない」


正直に言った。


美咲は少しだけ黙って、それから小さく笑った。


「そっか」


でも。


「私も」


その言葉に少しだけ救われた気がした。


駅で別れる時。


「今日はありがと」


「うん」


「また出かけよ?」


自然な言い方だった。


でも、少しだけ期待してしまう。


「行こう」


帰りの電車。


スマホを見る。


朝倉 美咲

『今日、前よりいっぱい笑ってたね笑』


少し悩んで返信する。


『美咲といると楽』


送ってから、少し恥ずかしくなった。


消したくなる。


でも数秒後。


『それ、ちょっと嬉しい』


その返信を見て、少しだけ顔が熱くなった。


もしかしたら。


本当に少しずつ、距離は戻っているのかもしれない。


でも、戻るだけじゃない気もしていた。


前とは違う形で。

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