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あの春の続きを、まだ知らない  作者: ラーラーリールー


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第三章 少しずつ戻る距離

大学生活は、気づけば少しだけ形になってきていた。


毎週同じ講義で顔を合わせる人ができて、昼を一緒に食べる相手もできた。


健太は相変わらずだった。


「藤沢、お前最近なんか機嫌よくね?」


学食でカレーを食べながら、急にそんなことを言われる。


「別に」


「いや、絶対なんかある」


「ないって」


「彼女?」


思わず水を飲みかけてむせた。


「違う」


「怪しすぎ」


健太は面白そうに笑う。


この数週間で、俺は健太といる時間が少し増えていた。


話しやすいというより、話さなくても変に気を遣わなくていい相手だった。


「まあ、何でもいいけどさ。大学って出会い多いらしいしな」


「そう?」


「そうそう。サークルとか飲み会とか」


俺にはあまり縁がなさそうな世界だった。


適当に相槌を打ちながらスマホを見る。


通知が一件。


朝倉 美咲


それだけで、少しだけ心拍数が上がる。


『今日四限終わったら空いてる?』


少し考えてから返す。


『空いてる』


すぐに返信が来た。


『じゃあ駅前のカフェ行こ。話したいことある笑』


話したいこと。


その一文が少し気になった。


悪い話じゃなければいい。


でも、美咲とのことになると、変に考えてしまう自分がいた。



四限が終わる頃には、外は少し夕方っぽくなっていた。


大学から駅まで歩く道。


新歓のチラシを配る人も減ってきて、春の慌ただしさが少し落ち着いてきた気がする。


駅前のカフェに入ると、美咲はもう来ていた。


窓際の席でスマホを見ている。


俺に気づくと、小さく手を振った。


「ごめん、待った?」


「全然。私が早く来すぎた」


向かいに座る。


こうして会うのも、もう三回目だった。


最初ほど気まずくない。


でも、まだどこかぎこちなさは残っている。


「何飲む?」


「アイスコーヒーで」


「相変わらずブラック?」


「まあ」


「苦いの無理だったなあ、私」


そんな小さな会話が、少し懐かしかった。


高校の頃もこんな感じだった。


何気ない話ばかりしていた。


でも、それが心地よかった。


飲み物が来て、少し落ち着いた頃。


美咲がストローをいじりながら言った。


「ねえ、悠真ってさ」


「ん?」


「大学、楽しい?」


少し考える。


「……まだ慣れてないかも」


正直な気持ちだった。


友達ができても、大人数は苦手だし、無理して明るく振る舞うのも疲れる。


大学ってもっと楽しいものかと思っていた。


でも実際は、自分が急に変わるわけじゃなかった。


「人見知り、大変そう」


少し笑いながら言う美咲。


「笑うなよ」


「ごめん。でも高校の頃から変わってないなって」


「美咲は?」


「私は……まあ普通かな」


でも、少しだけ表情が曇った。


「どうした?」


「あー……いや」


珍しく言葉を濁す。


「サークルの子たちといると、ちょっと疲れる時ある」


「へえ」


意外だった。


高校の頃、美咲はクラスの中心というほどじゃないけど、誰とでも話せるタイプだった。


「みんな友達作るの上手すぎるんだよね」


苦笑いする。


「わかる」


思わず即答していた。


「え、わかる?」


「なんか、もうグループできてるし」


「だよね!」


美咲が少し嬉しそうに笑う。


その顔を見て、少し安心した。


高校の頃の美咲は、悩みを隠すタイプだった。


無理して笑う時がある。


俺だけは気づけていた……つもりだった。


「悠真ってさ」


「ん?」


「前より話すようになった気がする」


「そう?」


「うん。高校の時より、ちゃんと喋る」


少し恥ずかしくなる。


「……努力してる」


「えらいじゃん」


そう言って笑う。


その笑顔を見ていると、昔の感覚が少し戻ってくる。


でも同時に思う。


——また好きになったらどうするんだろう。


いや。


正直、少し戻り始めている気もしていた。


会うたびに、懐かしくなる。


一緒にいると落ち着く。


でも、また同じことになるのが怖かった。


あの時みたいに、気づいたら離れていくのが。


帰り道。


駅まで歩きながら、美咲がふと言った。


「今度さ」


「ん?」


「大学休みの日、どっか行かない?」


思わず止まりそうになる。


「……二人で?」


「うん。嫌?」


嫌じゃない。


むしろ、少し嬉しい。


でも、その意味を考えてしまう。


元カノと二人で出かける。


それって、ただの友達なのか。


それとも。


「行く」


自然に言葉が出ていた。


「ほんと?」


「うん」


美咲が少しだけ嬉しそうに笑う。


「じゃあ決まり」


駅のホームで電車を待ちながら、ふと思う。


これは何なんだろう。


友達に戻ろうとしてるだけ?


それとも。


スマホが震える。


隣にいるのにLINE。


朝倉 美咲

『なんか、また話せるの嬉しい』


その短い言葉を見て、胸の奥が少しだけ熱くなった。


俺も、同じだった。


でも。


——また好きになってもいいのかは、まだわからなかった。

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