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あの春の続きを、まだ知らない  作者: ラーラーリールー


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第十一章 ちゃんと伝える

約束の日まで、数日あった。


でも、その数日がやけに長かった。


講義を受けていても集中できない。


何を言うか考えて、やめて。


頭の中で何回も練習して、全部不自然に思えて。


人見知りのくせに。


こういう時だけ考えすぎる。


「お前、今日静かじゃね?」


昼休み。


健太が唐揚げ定食を食べながら言う。


「元からだろ」


「違う。なんか死ぬ前みたい」


「縁起悪い」


少し笑う。


でも、図星だった。


緊張していた。


かなり。


「告るの?」


箸が止まる。


「……なんでわかった」


「顔」


そんなにわかりやすいのか。


「失敗したらどうしよう、とか考えてんだろ」


図星すぎて何も言えない。


健太は笑った。


「でもさ」


少し真面目な顔になる。


「今言わない方が後悔しそう」


その言葉が、妙に残った。


後悔。


その言葉だけは避けたかった。


高校の時みたいに。


言えなかったことを、また引きずるのは嫌だった。



約束の日。


土曜日。


大学近くの小さな公園。


前に一緒に歩いた時、美咲が「ここ静かで好き」と言っていた場所。


ベンチに座りながら、落ち着かない気持ちを誤魔化す。


早く着きすぎた。


三十分前。


我ながら気合い入りすぎだと思う。


スマホを見る。


時間ばかり確認してしまう。


「早いね」


声がして顔を上げる。


美咲だった。


白いシャツにデニム。


シンプルなのに、なんか目がいく。


「早すぎじゃない?」


少し笑ってる。


「……まあ」


「緊張してる?」


図星だった。


「してない」


「嘘」


隣に座る。


少し沈黙。


風が少し吹く。


六月の空気。


暑いような、まだ少し涼しいような。


「話って何?」


美咲が聞く。


その瞬間、心臓が跳ねた。


もう逃げられない。


いや。


逃げたくない。


「……ちゃんと言いたいことあって」


声が少し震える。


情けない。


でも、止まらなかった。


「俺さ」


一回息を吐く。


「また、美咲のこと好きになってた」


静かだった。


遠くで子どもの声が聞こえる。


でも、この空間だけ少し止まった気がした。


「最初は怖かった」


正直に言う。


「また離れるの怖かったし、今の関係壊したくなかった」


美咲は黙って聞いている。


「でも」


少しだけ笑う。


「会えない時、普通に寂しかった」


本音だった。


体調崩した時。


LINEが来ないだけで落ち着かなかった。


会えるだけで安心した。


それが答えだった。


「だから」


少し深呼吸。


手が冷たい。


でも。


今度はちゃんと言う。


逃げない。


「もう一回、俺と付き合ってほしい」


言った。


ちゃんと。


今度は逃げなかった。


沈黙。


数秒。


でも、すごく長く感じる。


やばい。


変なこと言ったか。


早かったか。


考え始めた時。


「……遅い」


美咲が小さく笑った。


顔を上げる。


少し泣きそうな顔だった。


「私、結構前から好きだったのに」


心臓が止まりそうになる。


「え」


「鈍いし」


笑いながら、少し目が赤い。


「でも」


少し間。


それから。


ちゃんとこっちを見て言った。


「私も、もう一回付き合いたい」


息が止まる。


本当に?


少し信じられない。


「……ほんと?」


情けないくらいの確認。


美咲が笑う。


「ほんと」


その瞬間。


胸の奥にずっとあったものが、少し軽くなった。


やっと。


ちゃんと言えた。


ちゃんと届いた。


「ただ」


美咲が少し真面目な顔になる。


「今度は、ちゃんと話そう」


「うん」


「思ってること、隠さない」


「……努力する」


「努力かー」


笑われる。


でも。


その空気が、すごく安心した。


高校の頃とは違う。


少しだけ大人になった。


ちゃんと向き合える気がした。


帰り道。


駅まで並んで歩く。


前と同じ道。


でも、少し違う。


「ねえ」


美咲が小さい声で言う。


「久しぶりに言っていい?」


「何」


少し照れた顔。


「彼氏」


その一言で、顔が熱くなる。


「……慣れない」


「私も」


二人で少し笑う。


でも。


嫌じゃなかった。


むしろ、少し嬉しかった。


改札前。


少しだけ沈黙。


それから。


美咲が少し近づいて、小さく言った。


「またよろしくね」


「……こちらこそ」


今度は、ちゃんと。


終わらせないように。


そう思えた。

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