第7話 保守端末
「未確認の空間を出せますか」
ノアが聞くと、制御盤の画面が切り替わった。
黒い背景に、細い線で区画の地図が浮かぶ。
広場、大部屋、医務室、外殻開発区画。
今使っている場所は薄い青で表示されている。
その外側に、灰色の空間が4つあった。
名前は出ない。
部屋なのか、通路なのか、倉庫なのかも分からない。
ただ、そこに空間が残っていることだけは分かった。
《未確認空間、四箇所》
《名称、機能、接続状態不明》
《認証者による現地確認が必要》
「設備名までは出ないのね」
エリスが言った。
「今の都市核から見えるのは、壁の向こうに空間がある、くらいなのかもしれません」
「まず近いところからだな」
バルドは画面を見て、広場の奥を指した。
「ここなら、何かあってもすぐ戻れる」
探索に向かうのは、ノア、エリス、リナ、バルドの四人になった。
ソフィアには大部屋を任せる。
マーヤ婆は少し不満そうだったが、子供たちの方を見て、結局何も言わなかった。
地図が示した場所は、見た目にはただの壁だった。
金属の壁が並び、取っ手もない。
バルドが壁を軽く叩く。
場所を変え、もう一度叩く。
「奥は空いてそうだけどな」
「壊せそうですか」
「壊すな。閉鎖扉だ。開け方がある」
バルドは壁の下を見た。
床との境に、細い隙間がある。
「おそらく、動く壁だ」
ノアが近づくと、壁の内側で小さく音がした。
淡い線が壁に浮かぶ。
《認証者確認》
《封鎖扉、開放可能》
「ノアがいないと開かないのね」
エリスが言った。
「だから、今まで誰も入れなかったのかもしれません」
「開放して」
壁が横へ滑った。
封鎖されていたエリアはここまでとは違う色の金属でできているようだった。
床には白っぽい埃が積もり、壁の角もほとんど欠けていない。
長く閉じられていたからか、外の通路よりむしろ傷みは少なかった。
「中は、思ったよりきれいですね」
リナが口元を押さえながら言った。
「埃はひどいけれど」
通路の途中に、扉が一つあった。
開けると、いくつもの棚がぎっしりと並んでいた。
蓋のついた金属容器や部品らしきものが棚に置かれている。
古い工具らしいものや書籍も、いくつか残っている様だ。
エリスの目の色が変わった。
「保守用の部屋かしら?」
「分かるんですか」
「あの都市核や制御基盤のメンテナンス用の部品にも思えるけれど、どうかしらね」
ノアは棚を見た。
同じ形の金具が並んでいる。
短い管。
端子のついた小さな板。
何に使うのか分からないが、どれも捨てられた物には見えなかった。
「持ち出して確認した方がよさそうですね」
エリスが言った。
「そうだね、ここで推測するより、制御盤で確認した方が早そうだ」
リナが棚の横で足を止めた。
「これは?」
壁際に、手帳ほどの薄い板が五つ並んでいた。
黒い表面に、細い銀色の縁がある。
ノアが一つ手に取ると、かすかに光が走った。
「何かの操作装置……でしょうか」
エリスがのぞき込む。
文字は読めない。
だが、表面に線のようなものが浮かぶ。
すぐ消えた。
「これも持って戻りましょう」
ノアは五つの端末と、形の分かりやすい部品をいくつか布に包んだ。
広場へ戻り、制御盤の横に端末を置く。
ノアが制御盤に向かって依頼した。
「部屋で見つけた物の確認をして」
《物品確認》
《携帯保守端末、五台》
《配管接続具、八点》
《小型制御端子、十二点》
《固定金具、二十六点》
「携帯保守端末!」
エリスから驚きの声が上がった。
「持ち歩ける端末ってこと?」
「使えますか」
《未起動》
《認証者による有効化・登録が必要》
ノアは端末の一つに手を置いた。
「使えるようにして」
《携帯保守端末、一台起動》
《制御盤との関連付け完了》
端末の画面が明るくなった。
簡単な地図と、いくつかの記号が出る。
「携帯保守端末からは何が出来るの?」
《遠隔から制御盤の一通りの操作が可能》
《ただし制御盤のリセット等の重大処理は不可》
《制御盤の拡張に合わせた端末機能の更新》
《保守端末間での通信》
《ユーザー行動記録》
《以上の機能が利用可能です》
「これがあれば、向こうで部屋を調べられるね」
リナが言った。
「全部有効化しますか」
ノアは少し考えた。
「まず三台。僕とエリスさん、リナさんが持ちます」
「俺は?」
バルドが聞く。
「予備を一台は残したいんで、バルドさんには、複製で増やしてからにさせてください」
「まあ、それでいい」
ノアは、残り二台も有効化した。
これで使える端末は三台になった。残った二台は予備にする。
「あとで、読取台にかけて複製できるか試しておきましょう。予備は多い方がいい」
画面の地図には、さきほど開けた通路と保守部屋が薄く表示されている。
その奥に、まだ灰色の空間があった。
「次を見に行きましょう」
ノアが言うと、リナが端末を握り直した。
「今度こそ、お風呂に近づけるといいですね」
バルドが工具を腰に戻す。
「開けてみりゃ分かる」
灰色の空間は、保守部屋から通路のさらに奥に続いていた。
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