表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落骸都市の箱庭領主  作者: ひげくま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

第8話 洗濯場と浴室

 四人はもう一度、閉鎖区画へ入った。

 保守部屋の前を通り、通路をさらに奥へ進む。


 地図で灰色に表示されていた場所には、次の扉があった。


 扉の先は、広い部屋だった。


 壁際に大きな箱が並んでいる。

 丸い窓のついた箱。

 上面に蓋のある箱。

 奥には細い棚があり、天井近くには太い管が通っていた。


「これは……何でしょう」


 ノアが携帯保守端末をかざす。

 端末の画面に、箱の輪郭が映った。

 少し待つと、読める文字に変換された表示が出る。


《設備候補:洗濯機》

《状態:停止》

《給水経路、接続あり》

《排水経路、接続あり》


 リナが一歩近づいた。


「洗濯機」


 その声には、喜びの色があった。


 次に、丸い窓のついた箱へ端末を向ける。


《設備候補:乾燥機》

《状態:停止》

《排気経路、接続あり》


「乾燥までできるの?」


 リナは箱を見て、それから天井の管を見た。


「これが動けば、濡れた布を部屋に干さなくて済みます」


「今は干しているんですか」


「ええ。邪魔ですし、湿気も増えます。何より、子供が引っかけて倒します」


 それは見たことがある。

 昨日、ルカが布を干した紐に引っかかり、ソフィアに叱られていた。


 バルドが洗濯機の裏をのぞき込んだ。


「配管は残ってる。切れてはいねえな。だが、動くかは別だ」


「ここだけで使えますか」


 ノアが端末に聞く。


《当該設備の運用には、衛生系統への登録が必要です》

《追加制御コア未接続》


「やっぱりコアか」


「でも、配線と水路は生きていそうね」


 洗濯場の奥には、さらに扉があった。


 開けると、小さな部屋に出る。

 壁には棚とカゴがある。

 そして、その先に、もう一枚の扉。


「ここは何でしょうね?」


 リナが言った。


「その奥は?」


 バルドが扉を押したが、固く動かない。

 蝶番に工具を当て、軽く動かすと、扉はゆっくり開いた。


 中は浴室だった。


 白い槽が二つ。

 壁に並ぶ細い管。

 床の排水口。

 隅には腰掛けられる低い台がある。


 乾いた埃が積もっているだけで、汚れは少ない。

 長く使われていなかった部屋の匂いがした。


 ノアは端末を浴槽へ向けた。


《設備候補:浴室》

《給水経路、接続あり》

《排水経路、接続あり》

《温水制御、停止》

《換気経路、接続あり》

《追加制御コア未接続》


 ノアは端末の表示を見た。


「水と排水はつながっている。換気もある。でも、水を温める制御が止まっています」


「これも追加制御コア」


 エリスが言った。


「それがあれば、衛生系統として登録できるはず」


 リナは浴槽の縁に手を置いた。

 表面の埃を指で払う。


「探しましょう」


 その一言で、全員が保守部屋へ戻った。


 保守部屋の棚を、今度は端末で一つずつ確認する。


 金具。

 配管接続具。

 小型制御端子。

 用途不明の板。


 そして、奥の金属箱に入っていた三つの円筒。

 手のひらより少し大きく、側面に細い端子が並んでいる。


 ノアが端末をかざした。


《追加制御コア》

《未使用》

《残数、三》


 バルドが低く口笛を吹いた。


「当たりだな」


「三つある」


 エリスが言った。


「洗濯場に一つ使っても、二つ残ります」


「洗濯場と浴室をまとめて動かせますか?」


 ノアが端末へ聞く。


《該当制御コアなら1コアで2施設を制御可能》

《洗濯機、乾燥機、脱衣室、浴室を一系統として管理します》

《追加制御コア、一基が必要》

《指定個所へマニュアルの通り設置してください》


「1つで済みそうだね。ただ、その前にこの追加コアも生産登録して増やそうか」


 いったん開発区画へ戻り、読取台で登録を試すことにした。


「この追加コアを登録して」


《スキャン開始…》

《コア部分の構造が複雑なため、本施設では利用不可》

《利用には、施設のアップデートが必要》


「困ったな、追加制御コアは増やせないみたいだ」


「しょうがないわね、今あるもので必要そうなものから使っていきましょう」


 エリスが残念そうに言った。


「とりあえず、洗濯場と浴室は動かしましょ」


 リナが提案し、皆同意したため、ノアは追加制御コアを持ち、洗濯場へ戻った。


 浴室手前の壁に、扉のついた箱があった。

 ノアが手をかざすと、箱の内側で小さな音がして、扉が開いた。

 箱の扉を開けると丸い穴があり、追加制御コアの端子と同じ並びの溝があった。


「ここですね」


 エリスが端末で確認する。


 ノアは追加制御コアを穴へ差し込んだ。

 かちり、と音がした。


 壁の内側で細い光が走る。

 洗濯機の箱に、浴室の管に、天井の換気口に、順に小さな灯りが点いた。


《追加制御コア、接続》

《衛生設備の正式登録へ移行しますか》


「登録して」


《衛生設備、正式登録》

《給水確認》

《排水確認》

《換気確認》

《温水循環、低出力試験開始》


 壁の奥で水が動く音がした。


 最初は細い。

 ためらうような音だった。

 それから、浴室の管の一つがかすかに震える。


 リナが浴槽の前で身をかがめた。


 温水の吹き出し口らしき突起の先から、水が一滴落ちた。

 次に、細い線になった。


 リナは手を差し出す。


「冷たい」


 少し待つ。


 水の線は途切れず、やがて彼女の指先で湯気が立った。


「温かい」


 その声で、部屋の空気が変わった。


 バルドが天井を見上げる。


「湿気は?」


《換気経路、稼働中》


 天井の格子から、弱い風が吸い込まれていく。


「排水は」


 リナは手のひらに受けた水を、床の排水口へ落とした。

 水は溜まらず、細い音を立てて消えた。


《排水処理、低出力稼働》


「浴室は、一通り動くみたいだね」


「これで、子供たちをちゃんと洗えます」


「リナさんも」


 エリスがからかうように言う。


「当然です」


 その声は少しだけ明るかった。


 広場へ戻ると、制御盤の地図で灰色だった一部が薄い青に変わっていた。


 衛生設備。


 名前がつき、都市の一部になった。


 残った追加制御コアは二つ。


 その日の夕方、大部屋に知らせが届くと、子供たちの声が一斉に上がった。


「お風呂?」


「今日入れる?」


 ソフィアが両手を叩いた。


「順番を決めます。走らない」

「あと今日着ている服はお洗濯するので、ちゃんとカゴにいれてくださいね」


 その声を聞きながら、ノアは制御盤の地図を見た。


 新しく青くなった衛生設備から少し離れた場所に、まだ灰色の空間が残っている。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、

ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると、とても励みになります。


感想もいただけましたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ