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落骸都市の箱庭領主  作者: ひげくま


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第5話 何ができて、何ができないのか

 自動生産機の確認は、外殻開発区画で行うことになった。


 ノア、エリス、バルドは作業台の前に残った。

 リナは旧居住区側の通路へ向かい、浄化水槽の水を調べている。ソフィアと子供たちは、広場に近い居住室から割れた板と石片を運び出し、寝られる場所を作り始めていた。


 部屋の中では、さっき起動した四角い箱が作業台の上で待機している。

 前面に受け口があり、その横に、物を置くための浅い台があった。


「まず、自動生産機について聞いてみない?」


 先ほどまでリナに手当てを受けていたエリスが言った。


「何が作れるのかは把握しておきたいわ」


 ノアはうなずき、壁から聞こえる音声に向けて言った。


「自動生産機でできることを教えてください」


《自動生産機は、素材槽内の基礎素材を用いて、登録済み製品を生成します》


「素材槽ってのは、どこだ」


《作業台下部》

《現在素材残量、20%》


「素材はどう補充しますか」


 ノアが聞く。


《不用品を分解装置へ投入すると、素材として補充されます》

《生活排水やゴミなども、分別の上、分解を行い素材として自動的に蓄積されます》

《都市外から取り込みも可能》


「そうすると廃材も使えるのか」


 バルドが少しだけ身を乗り出した。


《使用可能》


「都市外からの取り込みはどう行う?」


《外部吸引口から、濾過、浄化、分解を経て蓄積されます》


「危険なものが混じった場合は?」


《規定値を超える有害成分は遮断します》


 ノアはエリスとバルドを見た。

 二人とも、反対はしなかった。


「取り込み開始して」


《承知しました、取り込み開始します》


 駆動音がし始め、動作が開始したようだ。


「まずは、不用品と廃材を集めるのがよさそうですね」


「そうだな、その辺にいっぱい落ちているのを片付けと合わせて分解装置にぶち込もう」


「現在登録されているものは?」


《初期登録品》

《簡易食糧》

《板材》

《布材》

《その他10点ほど登録されています》


「実験用の登録だけ残っていたのかな」


 エリスは作業台を見ながら言った。


「生活に必要なものを全部そろえる設備ではなさそうです。登録されたものを作る設備です」


「登録されていないものは?」


 ノアが聞く。


《読取台に対象物を置いてください》

《形状、材質、構造を読み取り、製品情報として登録します》

《読み取り台で読取不能なものは登録不可》


 バルドが読取台を指で叩いた。


「見本を置けってことだな」


《はい》


「どういうものが読み取れない?」


《センサが対応できないもの、未知物質等は不可です》


「けど、板や布が作れるなら、今は十分だ」


 その時、通路の方からリナが戻ってきた。


「浄化水槽の水は使えそうです」


 ノアは振り返った。


「飲めますか」


「最初の濁った水は捨てたわ。その後の水を検査した限り、強い毒や腐敗の反応はありません。飲料、食事、洗浄には使えます」


「ただし、しばらくは私が見るまで勝手に飲ませないで。古い配管ですから」


「分かりました」


 その間に、ソフィアたちは寝る部屋の片づけを進めていた。

 子供たちが割れた板を壁際へ寄せ、使えそうな布を集める。

 だが、横になれる場所は足りない。石床の上にそのまま寝かせるには、冷たすぎた。


「布材は、毛布のように使えますか」


 ノアが聞く。


《使用可能》

《ただし、毛布は登録済み》


「全員分、三十七枚作れる?」


《可能、生産しますか?》


「まて、食料が先だろう」


 バルドに言われ、ノアは止まった。


「そうですね。全員分に少し予備を足して、まず今日の食料を作りましょう」

「四十人分の簡易食糧を作ってもらえる?」


《了解、生産を開始します》


 作業台が動きだし、しばらくすると、薄い包みに入った食料が出てきた。

 包みを開けると、中にはクッキーのような四角い板が入っていた。

 手のひらほどの大きさで、表面に小さな穴が並んでいる。


 バルドが一枚を割り、端を少しかじった。


「食えるが、そんなに、うまくはねえな」


 リナも少し削って口に入れた。


「塩気はあります。甘くはないけれど、気分が悪くなる味ではないわね」


「味はともかく、今日の食事にはなりそうだね」


 ノアも齧りながら答える。


《生産完了》


「よし、毛布も作っておこう」


「37人分の毛布を作って」


《素材が不足しています、現在補充中。生産可能分だけを先に出しますか?》


「頼む」


《了解、まず10人分を生産します。残りは素材が溜まり次第作成します》


 バルドは作業台の読取台を見た。


「この機械、見本を読めるんだよな」


「そう言っていました」


「なら、他に必要な物はこっちで用意するしかねえな。読ませるものがなきゃ始まらねえ」


 ノアはうなずいた。


 登録されているものは少ない。

 それでも、見本を作り、素材を集めれば、同じものを増やせる可能性がある。


「バルドさんなら、何から試しますか」


「寝床だな」


 バルドは広場へ続く通路の方を見た。


 開いた扉の向こうで、子供たちが石片をよけた床に布を敷こうとしている。

 それでも床は冷たい。直接寝れば、朝には体がこわばる。


「板材が必要ですね」


「ああ。まず板材を出せ。形はこっちで作る」


 ノアは自動生産機に板材の生産を頼んだ。


 出てきた板材を、バルドは肩に担いで居住室へ運んだ。

 そこからは早かった。


 歪んだ床に合わせて脚の長さを変え、板を渡し、金具で留める。

 細かな仕上げは後回しだった。

 今必要なのは、見栄えのいい家具ではなく、冷たい床から体を離せる場所だ。


 三時間ほどで、最初の寝台が形になった。


「まずはこれでいい」


 バルドは寝台を手で押し、ぐらつきを確かめた。


「読取台にかければ、同じものなら増やせるだろう。敷布団とかはマーヤ婆に作ってもらえ」


 ノアは寝台を見た。


 見本を作り、読み取り、素材を集めれば、暮らしそのものを少しずつ変えられる。


 それが分かっただけでも、大きかった。


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