第4話 外殻開発区画
黒い盤から走った光は、外殻開発区画の床を横切り、壁の管へ入った。
管の中を、青白い線が流れていく。
一本ではない。
床下へ伸びる管、天井へ上がる管、外壁側の大きな円形の枠へ向かう管。そのすべてが、順番に光を帯びた。
足元で低い振動が続いている。
ノアは手を離さなかった。
《都市核接続、進行中》
抑揚の少ない声が、部屋の壁から響いた。
《接続先確認………α型都市核確認》
《機能接続開始》
《外海変換炉…接続》
《浄化装置…接続》
《自動生産機…接続》
《区画照明…接続》
《内部伝声機構…接続》
言葉の意味を追うだけで精一杯だった。
「外海、変換炉……?」
エリスが呟いた。
彼女も分かっているわけではない。ただ、言葉の並びから機能を組み立てようとしている。
「外のものを、何かに変える設備ですか」
「たぶん。けれど、現行都市の授業では聞いたことがありません」
エリスは黒い盤から目を離さない。
「開発区画という名前なら、実用前の設備かもしれません」
《外海変換炉、初期化開始》
外壁側の円形の枠が低く鳴った。
ノアは反射的にそちらを見た。
枠の内側に、細い羽根のような板が何枚も重なっている。それが一枚ずつ開き、外壁へ伸びる太い管と繋がっていく。
《外壁膜、取込口を形成》
「取り込むって、外をか」
バルドが顔をしかめた。
「落骸海を入れる気か?」
ノアは外壁側の管を見た。
黒い液体が入ってくる様子は見えない。だが、管の途中にある透明な筒の中で、細かな粒だけが渦を巻いていた。
筒の下に黒い沈殿が溜まり、上の方へ薄い光が流れていく。
落骸海そのものを区画に入れているのではない。
外の何かを少しずつ取り込み、分けている。
《外界成分確認…変換炉稼働開始》
少し大きな唸る音が遠方で聞こえた。
《稼働完了、出力安定》
《α型都市核、シールド装置、照明へ送出開始》
広場の方からミナの声が聞こえた。
「ノア兄!都市核が光ってる!」
《浄化装置、初期化開始》
《内部空気、循環再設定》
《空気浄化処理、開始》
今度は天井の通風管が鳴った。
広場の方から、子供たちの声がした。
「風!」
誰かが叫ぶ。
開発区画の天井にある通風口からも、弱い風が下りていた。
さっきまで糸がかろうじて揺れるだけだった風ではない。エリスの袖がわずかに揺れ、リナの前髪が動く。
「ちょっと匂うわね…」
「長年の埃が溜まっていたんじゃ…」
「そのうち落ち着くといいけど」
リナは、通風口の下へ立った。
「しばらく見ますね」
《水浄化処理、開始》
「あっちの方から、水の音がする」
セナが言った。
「水の浄化装置と出口が、どこかにあるはずだ。探さないといけないな」
「飲める水だといいわね」
《区画照明、再起動》
壁の一部が、ぼんやりと白くなった。
照明具の火ではない。
壁の細い溝そのものが光っている。
内側の通路にも、一本、また一本と、光の線が伸びていく。
広場の方から歓声が上がる。
「明るい!」
「さっきよりずっと見える」
《自動生産機、初期化開始》
外殻開発区画の奥で、別の機械が動き出した。
固定された作業台のひとつが開き、中から四角い箱がせり上がった。
「自動生産機?何が作れるんだ?」
バルドが言った。
《認証者、音声登録開始》
《認証者の名前を告げてください》
ノアは黒い盤の前に戻った。
「ノア・アークライト」
《認証者、ノア・アークライト》
《音声操作を登録しました》
制御盤の方からも、同じ音が返った。
《補助管理者、音声登録開始》
《補助管理者3名の名前を告げてください》
ノアはエリスを見た。
「エリスさんは必要です。設備に一番詳しいと思うから」
「私は賛成です」
リナが言った。
「あとは、リナとバルドさんでどうだろう?」
「安全性とか医療関係の確認が出るかもしれないし、生産系バルドさんに見てもらうのがいいと思う」
みなうなずいた。
エリス、リナ、バルドの声が順に登録された。
《補助管理者、登録完了》
《開発区画のα型都市核への接続完了》
「終わったのか・・・?」
ノアは試しに聞いた。
「現在の都市の状況は?」
《外海変換炉、安定稼働中》
《外壁シールド発生装置、出力安定》
《浄化装置、空気・水ともに浄化処理中》
《自動生産機、生産待機中。素材残量20%》
《設備拡張素材、残量不足》
「設備拡張素材?」
《設備の増産、拡張に利用する追加素材》
「なるほど、設備を増やすには、外から材料を入れろってことか」
「聞くことを整理しましょう」
エリスが言った。
「まず、今使えるものを確認しよう。何ができて、何ができないのか」
この区画で暮らしていけるのかどうかは、そこからだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、
ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると、とても励みになります。
感想もいただけましたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。
※本作は「カクヨム」にも掲載しています。




