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落骸都市の箱庭領主  作者: ひげくま


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第21話 迫られる選択

 食事を終えると、ノアたちはもう一度ラウラの部屋へ通された。


 机の上から、食べかけのパンとカップは片づけられていた。代わりに、ケートスの外殻とアークの位置を描いた金属板が置かれている。

 ラウラは椅子に座らず、机の端に腰を預けていた。


「さて、話を続けようか。お前さんたちの都市の核がα型都市核だってのは確かかい?」


「えぇ、そのように表示されています」


 ノアがちらっとノエルを見る。

 それを受けてノエルが追加で答えた。


「あのコアは間違いなくα都市核です」

「一度進化も行われていますが、ただ、従来とは違う不明な処理領域ができており分析は必要かと思います」


 ラウラが眉を上げノエルを見る。


「あんたは何者だい?」


「私はα都市核管理補助アンドロイドです」


 ラウラが隣にいたアンと顔を見合わせる。


「実在してたのかい」


 アンが目を輝かせてノエルを見て、今にもにじり寄って行きそうだ。


「アン落ち着きな」


 それを見て呆れたようにラウラが言う。


「α型は、こっちでも行方を捜していたんだが見つからなくてね、もう失われてしまったと思っていたよ」


「なぜ探されていたのですか?」


「お前さんもわかっていると思うが、この世界は壊れている」

「この壊れた世界で、人が生き続けるためには新たな希望を見つけるしかないのさ」

「α都市核はその可能性の一つだと思っている」


 エリスが顔を上げる。


「希望…」


「あぁ、希望さ。α都市核は周辺環境に適応して進化していく、もしこの壊れた世界でも対応できるようになれば色々可能性が広がるのさ」


「なるほど…」


「ケートスは探索都市として、世界がこうなっちまった原因を探っている。あちこち巡ってはいるが、今のケートスでは行けない場所もそれなりにあってな、正直行き詰っているってのもあるのさ」


 ラウラが悔しそうに言う。


「率直に聞かせてもらうが、ノア、お前さんあの都市をどうするつもりだい?」


「どうとは?」


「先ほども言ったが、あの都市は人類の希望になりうるものだ、当然オルディナの連中も存在を知れば狙ってくる」

「対処を間違えば、その希望が失われちまうことにもなりかねない」


「だから、あたしらからの提案は、あの都市をケートスに預けないかい?」

「あたしらなら、あいつらからあの都市を守れる。悪いことは言わない、あたしらに預けて、あんたらはケートスで子供達と安全に過ごした方がいい」


 ラウラが強い眼差しでノアを見ながら言う。


 確かにラウラの言う通りなのだろう。

 ケートスに預ければ、人類の希望を守ってくれるだろうし、子供たちを危険な目に遭わせなくても済む。


「少し考えさせてください、俺も考える時間が欲しいし、仲間たちの意見も聞きたい」


「あぁ、もちろんいいさ、じっくり考えとくれ」


「今日はどうする?こちらに部屋を用意するかい?」


「いえ、帰って話したことを仲間にも共有したいと思いますし、相談もしたいので」


「そうだな、それがいい。明日の朝また話そう。アン、こいつらを送っていきな」


 命令を受けたアンが、何か言いたそうに口を開く。


「あ、あの、私もそちらにお邪魔しちゃダメでしょうか!?」


 ラウラが頭を抱えているのが見える。


「え?」


 戸惑っていると、アンが続けた。


「α型都市核を是非見せて頂きたいんです!」


「あ、はい、問題ないです。権限が無いとあまり触れないと思いますが」


「はい!それでもかまわないです!是非!」


「すまないね、その子は、リーベルト教授を崇拝していてね、こういった新しいものに目がないのさ……悪いが付き合ってやってくれ」


「は、はぁ」


「何かそちらで必要な物があれば、こちらから運ばせるからそのあたりも明日聞かせてくれ」


「わかりました、それでは今日はこれで」


「あぁ、また明日な」


 アンに連れられて、ケートスを後にし、アークへ戻ってくる。

 道中興奮するアンに、ノエルがつかまり、エリスとバルドも巻き込まれている。

 最初は面倒そうにしていた二人も、いつの間にかアンと一緒に技術談義で盛り上がっていた。


「悩ましいわね」


 巻き込まれていなかったリナが話しかけてくる。


「あぁ、そうだね。リナはどうするのがいいと思う?」


「そうね、私はみんなに安全で暮らしてほしいとは思うわ」

「でも、そうね、子供のころ話していたこと覚えている?」


「子供のころ?」


「もう、忘れちゃったの?約束したじゃない」


 そう言いながら、リナもまた、あの日の工房を思い出していた。


 ノアは幼いころに両親を亡くしている。

 事故だった。ノアは幼く詳しいことを覚えてはいない。

 

 それからノアを育ててくれたのは、祖父だった。

 狭い工房の奥で、祖父は古い配管や壊れた計器を直しながら暮らしていた。ノアはその横に座り、祖父が作業中に聞かせてくれる話を聞くのが好きだった。

 リナの家族もよく助けてくれた。食事を分けてくれたり、服を直してくれたり、祖父が外へ出られない日には薬を届けてくれたりした。


 だが、懸命にノアを育ててくれた祖父が倒れた時、下層で受けられる治療には限りがあった。

 必要な薬は足りず、上層の医師に診せる手続きも通らなかった。

 祖父は、最後までノアの前では弱音を吐かなかった。

 だから余計に、ノアにはつらかったのだと思う。


 葬儀の後、ノアはしばらく工房から出られなかった。

 工具箱も、古い図面も、祖父が最後まで使っていた作業台も、そのまま残っていた。

 そこに座るノアは、もう聞けない声をずっと探しているように見えた。


 その時、リナは、いつものように勝手に片づけたり、無理に外へ連れ出したりはしなかった。

 ただ、ノアの隣に座って、黙ってずっと一緒にいた。

 リナは世界の理不尽さを感じていた。なぜノアの家族ばかりがこんなに不条理に遭うのか。


 ノアのお爺さんは、リナにも優しかった。

 両親と喧嘩した際に黙って話を聞いてくれ、最後にちょっとしたアドバイスをくれた。

 それで仲直りできたことが何度もあった。だから、リナは何かあればお爺さんのところに逃げ込むようになっていた。

 度々逃げ込むことでそこにいたノアと仲良くなっていった。

 何とか慰めたかったが、かける言葉が見つからなかった。お爺さんのように黙って話を聞き、最後に少しだけ背中を押すような言葉をかけたかったのに、リナにはまだそれができなかった。


「リナ」


 どれくらい黙っていたか分からない。

 先に口を開いたのはノアだった。


「俺、大きくなったら、みんなが普通に、幸せに過ごせる場所を作りたい」


 リナは、ノアの顔を見た。


「理不尽に人が見捨てられる世界を変えたい。そういう場所を作りたい」


 リナは衝撃を受けた。

 慰める言葉を探していた相手が、悲しみを抱えたまま、それでも立ち上がろうとしていた。そのうえで、さらに先にある、みんなが普通に暮らせる場所のことまで考えていた。

 世の中の理不尽さに負けないノアに驚いた。同時に、いつか壊れてしまうのではないかという不安に駆られた。

 子供のころから知っている、色々なことに興味を示し、無邪気に笑っていたノアと違うものを感じた。

 それと共に家族を失ったノアを、今度は自分が支えたいと思った。


「そっか。うん、そうだね」

「私もやるよ。二人で作ろう」


 口には出さなかったが、ノアがみんなの居場所を作るなら、自分はノアの戻れる場所を作ろうと子供ながら決心した。


 それからリナは、医療を学び始めた。

 周りの人たちが医療を受けられずに亡くなるような理不尽をなくしたかった。何よりノアにあんな思いを二度とさせたくなかったのだ。


 あの約束は、いつの間にか口にしなくなった。

 毎日の暮らしは忙しかったし、下層の現実は、子供のころに思っていたよりずっと重かった。

 それでもリナは、忘れていなかった。


「覚えてるよ」


 ノアが言うと、リナは少しだけ表情を緩めた。


「なら、ノアの本心としては、この都市を自分で作っていきたいんだよね?」


 ノアはリナを見つめる。


「リナにはお見通しなんだな。そうだね、俺はこの都市を理想の場所として成長させていきたい。誰もが普通に何も奪われずに過ごせる場所にしたい」


 ノアは、アークが自己進化したときに祈ったことを思い出した


『皆が幸せに過ごせる場所を僕は作りたい、誰も廃棄されない場所を作りたいんだ!』


 その想いは確かにあったのだ。


「一方で、皆の事を考えると巻き込んでいいとは思えないんだ」


「そうね。でも、ノアがやりたい事と、皆を巻き込むことは別の話よ?」


「え?」


「だって、もしノアがアークを自分で何とかしていくとしても、別にみんなを絶対に巻き込まなきゃいけないわけじゃないじゃない。ケートスへ移りたい人には、移ってもらったっていいはずよ」

「誰もいなくても、ノアと私と二人から始めたっていいじゃない?」


 にこやかに笑いながらリナが言う。


「それでいいのか?無責任じゃないか?」


「責任感のあることはいいけど、ノアの気持ちを犠牲にするのは誰も望まないわよ」

「それに、それこそ残る残らないは皆の選択じゃない?勝手に決めたらそれこそ私たちが作りたい場所と違ってしまうのではない?」


 ノアは何も言えなかった。

 いつの間にか視野が狭くなっていたのだと気が付かされた。


「リナ、ありがとう。その通りだ」


「いーえ、ノアのそういうところを支えてあげるのが私の役割だもの。二人で作るんでしょ?」


 リナがからかうようにノアに笑いかける。


「あぁ、一緒にやっていこう。まずは戻ってみんなに話さないとな」


 リナが頷いた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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感想もいただけましたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

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