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落骸都市の箱庭領主  作者: ひげくま


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第16話 自己進化

 間取りの組み替えが終わった翌朝、ノエルが珍しく短く言った。


「困りました」


 制御盤には、アークの簡略図が映っている。昨日増やした外縁のまわりだけ、淡い黄色で縁取られていた。


「シールド範囲を広げたことで、都市核の出力が限界に近づいています」


「現状維持は問題ありませんが、次の区画拡張や浮遊装置の修理へ進む余裕がありません」


「出力を増やすには、どうすればいい?」


「アークの都市核に繋がっているエネルギー供給源は外海変換炉になります」


 ノエルが変換炉の表示を開いた。

 外殻開発区画の奥で、透明な筒が並んでいる。筒の中では細かな粒が渦を巻き、下側へ黒い沈殿を落としていた。上側へは、薄い光が流れている。


「この変換炉の出力を上げればいいのですが、現行仕様では出力限界になっています」


「それは打つ手がないってこと?」


「いえ、この変換炉は試作型になっていまして、α型都市核と密接にリンクしている仕様になっています」

「以前ご説明したように、α都市核は、環境に応じて自己進化により自動で状況に適応されるようになっています」


「でも、今足りなくなってきても、何も起きないよね?」


「はい、そこがまさに私が困っているところとなります」

「α都市核は試作機であり、自己進化をさせた明確な記録は残っていません。また今回のように突然落骸海に落とされるといった大きな環境変化を想定したものでもありませんでした」

「そのため、今後何が起きるのか読めない状況になってしまっています」


「なるほど…」


「本来の機能からすれば、既に何か起きていていいはずなのですが…」


 その時、突如ノアの頭に声が響く。


『都市の継承者よ、変革を望むか?』


 突然の声にノアが慌てて周囲を見渡す。


「今誰か何か言った?」


「いえ、誰も発声していません」


 皆が怪訝そうにノアを見つめる。


『変革を望むか?』


「変革を望むか?と聞いてきている」

 

「ノア、大丈夫……?」


「都市核で、不明な処理が稼働しています、これは、何が…」


 ノエルが慌てたように言う。


『変革を望むか?』


 ノアは覚悟を決め、強く願った。


『あぁ、皆が幸せに過ごせる場所を僕は作りたい、誰も廃棄されない場所を作りたいんだ!』


『認証者意思を確認。自己進化プログラム作動開始』


「うわっ、なんだ」

「きゃー」


 突然都市核が目を開けていられないほど眩く光りだし、そこかしこで悲鳴が上がる。


『君達の暮らしが穏やかなものであることを願っているよ』


 光の中で穏やかな優しい女性の声が聞こえた。



「都市進化プログラム…?未知の処理機構が都市核で突如動き出しました」

「落骸海環境対応機能構築開始」

「推進機構深海対応開始、高濃度落骸水処理・エネルギー抽出機能構築…」

「未知の機能がどんどん作られていきます」


 まぶしさで周囲は見えないが、ノエルの声が続いている。


「これはいったい…」


 管理アンドロイドであるはずのノエルでさえ戸惑いの声を上げていた。


「詳細分析を…」


 ノエルの声が途中で途切れる。


「ノエルどうした?」


 応答がない。薄目でノエルの居た方を見ると、ノエルからもものすごい光が発していた。


「これは、待つしかないのか?」


「そうね、この状態で下手に何かする方が危ないから今は待つしかないと思うわ」


 エリスが答える。



 そしてしばらくして光が収まってきた。


「都市核が大きくなっている?」


 都市核が一回りほど大きくなっているようだ。

 床下に伸びる配管も太くなっており、おそらく見えない部分もいろいろ変わっていそうだ。


「ノエル、大丈夫か?」


 ノエルの発光も収まったため、ノエルを揺さぶってみる。


「マスター、すみません、都市核から強制的な処理割り込みが入り止まっておりました」

「都市核が進化したようです、それに伴い私の処理ブロックにもアップデートが入り、処理量が大幅に向上しました」


「都市自体も、外海変換炉が深海の高濃度落骸水に対応した、高効率な変換炉に拡張されたようです」

「また、落骸海内での移動を可能とする推進機構が拡張されたようです」


 ノエルが最新状況を伝えてくる。


「なんか、すごいな……」


「それより、さっきのあなたの聞いたというのは何だったのよ?」


 ノアは起きたことを説明した。


「おそらく、自己進化プログラムがマスターへ直接確認を行ったのだと思います。α都市核内には、以前はなかった私の管理領域外の未知ブロックがあります。そこで何かしらの処理と承認が動いた可能性があります」


 ノエルが言った。


「どういうことだろう、ノエルが眠りについたあと、誰かが手を入れたってことなのかな?」


「その可能性は高いと思います。事故後に追加された処理が、私の管理領域外に残されていたのかもしれません」


 都市核は何も言わずに薄く輝いていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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感想もいただけましたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

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