第15話 新しい区画
アークの外縁には、朝から人が集まっていた。
応答なしだった一本を含め、外部作業用マニピュレーターは六基とも動くようになった。
今日はその腕で、外にある区画片を引き寄せ、外縁に継ぎ足す。
「危ないから、見学は線の外だ」
バルドが床に引かれた線を指した。
ミナたちは素直に下がったが、目だけは制御盤に向いている。
ノエルは外縁観測の映像を開いた。
青白いシールドの外、暗い落骸海の中に、角ばった大きな残骸が見えている。
「まずは、あの区画片を引き寄せます」
「あれを、そのまま使うのか」
「はい。都市のパーツとしてつなぎ込みます。床と外壁をアークに継ぎ足し、足りない部分は周辺の部材で補います。間取りや棚は、用途が決まってから変更できます」
ノエルが制御盤に触れると、点検を終えたマニピュレーターが青白いシールドの外へ伸びた。
数本の腕が区画片の骨組みをつかみ、外縁へ引き寄せた。
プチたちの灯りが揃って点いた。
外縁の作業場所を、プチたちが走る。
接続梁、固定具、洗浄用の細い管。
昨日、開発台で作ったばかりの道具が次々に並べられていく。
子供たちは線の外で、静かに作業を見ていた。
区画片は、ゆっくりと外縁へ近づいていった。
マニピュレーターが向きをそろえ、床になる面をアークの外縁に合わせる。
区画片の骨組みが外縁に触れ、低い音が足元に響いた。
「外側にもう一枚シールドを張ります」
ノエルが言った。
外の映像で、青白いシールドがもう一枚広がった。
元のシールドはアーク本体との境目に残り、新しいシールドが区画片と作業範囲を包んだ。
区画片は新しいシールドの内側に入ったが、まだアーク本体とはシールドで隔てられていた。
作業範囲に残った落骸海が、新しいシールドの外へ押し出された。
区画片のまわりの濁りが薄くなった。
「接合作業を開始します」
数台のプチが、接続梁と固定具を抱えて内側のシールドへ進んだ。
青白い光が揺れ、プチたちは道具ごと中へ入った。
マニピュレーターが区画片を支えたまま、プチたちは接続梁を骨組みに噛ませていく。
ひびのある場所には補強板を重ね、歪んだ端を固定具で締める。
狭い隙間へ入り込み、人の指では届かない場所の留め具を締める。
さらに別のプチが道具を持って、継ぎ目を確認している。
バルドが腕を組んだ。
「あれだけ同時に動けると、作業効率が全然違うな」
「うん」
ノアは短く答えた。
人の手だけなら、重い部材を支えながら留め具を締めるだけで時間がかかる。
今はマニピュレーターが支え、プチたちが何か所も同時に固定していた。
プチたちは、思っていたより力もあるようだ。
作業を始めてから半日ほどで、最後の固定具が締まると、制御盤の外縁図が切り替わった。
接続した区画片が、アーク本体の外縁に加わった形で表示された。
「接続完了。床面洗浄を開始します」
プチたちは洗浄管をつなぎ、床と外壁についた黒い汚れを流していく。
汚水は外へこぼさず、回収管へ送られていった。
さらに別のプチが道具を持って検査を行っている。
「洗浄中。危険反応なし」
ノエルの声に、リナが小さく息を吐く。
区画側の洗浄が終わると、プチたちは境目まで戻った。
自分たちの脚と腕、胴体の外装を順に洗い、汚水を回収管へ送る。
「洗浄完了。シールドの二重化を解除します」
アーク本体との境目に残っていた青白いシールドが薄くなった。
続けて、プチたちは都市外縁に設置されていたマニピュレーターの基部を、新しく増えた外縁の外側へ移した。
区画を足した分、腕の位置も外へ出しておく必要があるためだ。
固定が終わると、マニピュレーターが短く動いた。
プチが作業灯を上げ、作業の完了を知らせる。
そこには、小さな床面ができていた。
「広い……」
ミナがつぶやいた。
今のアークにとっては、十分すぎるほどの追加空間だった。
「都市の間取りを組み直そう。暮らしやすいように、部屋の位置も整理した方がいい」
ノアが言うと、ノエルは区画の地図を開いた。
「区画の再整理が可能です。居住エリアと作業エリアを分離できます。日常的に使う設備は同じブロックにまとめ、作業エリアは保管場所と近づけるのがよいかと思います」
「間取りを提案いたしましょうか?」
「うん、頼むよ」
制御盤に、新しい配置案が表示された。
「居住エリアには寝場所と生活用品を集めます。洗濯場、浴場、トイレ、食事場所、キッチンは近い位置にまとめます。また、あとで拡張できるよう、外縁側へ通しやすい配置にしておきます」
「運動できる場所と教育に使う場所も必要ですが、今は面積が足りません。次の追加候補にします」
「作業エリアには開発設備と保管場所を置きます。医療関連の区画と会議室、農業施設関連も近くにまとめます。広場の周りは、集会場と公園として使えるように残します」
ノアはあっけにとられつつも答えた。
「いいと思う。みんなはどうだ?」
特に異論はなかった。
「問題なければ、この配置に合わせてプチたちに作業を開始させます。一時間ほど、都市核の周りでお待ちください」
皆が都市核の周りに集まると、プチたちが一斉に動き始めた。
仕切り壁を外し、新しい位置へ立て直す。
棚や設備を固定し、寝具や食器の箱を居住エリアへ運ぶ。
工具箱と資材は、作業エリアの方へ移されていく。
「プチ、すごい!」
「プチ頑張れ」
子供たちが歓声を上げた。
ノエルの言った通り、一時間ほどで作業は終わった。
「すげぇもんだな」
バルドが唸った。
「これで過ごしやすくなりそうね」
リナの声も明るかった。
そして、新しく変わった間取りを、皆で眺めて回ったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけましたら、
ブックマーク・評価・いいねで応援していただけると、とても励みになります。
感想もいただけましたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。
※本作は「カクヨム」にも掲載しています。




