第14話 プチたちの初仕事
格納扉の奥で、待機灯が一つずつ点いた。
低い起動音が重なり、暗かった収納区画の中から丸い機体が動き出す。
背丈は、大人の腰ほどある。
胴体は丸く、左右に作業腕が二本。下部には短い多関節の脚が四本ついていて、床の段差を確かめるように踏み越えてきた。
一台目が収納区画から出る。
続いて二台、三台。
機体たちはノエルの前に並ぶと、頭に当たる部分の灯りを淡く点滅させた。
「小型サポートロボ、二十台の起動を確認しました」
ノエルが言った。
「これで小型なのか」
バルドが近くの一台を見下ろす。
機体はバルドの足元まで歩き、作業腕を軽く上げた。
挨拶のようにも見えたが、たぶん距離を測っているだけだ。
「プチ」
ミナがぽつりと言った。
「え?」
「小さいから、プチ」
一台がミナの方へ向き、灯りを二度点滅させた。
それを見て、近くにいた子供たちが笑った。
「いいんじゃない? プチたち」
エリスが言う。
ノエルは少しだけ首を傾けた。
「通称として記録します。小型サポートロボ、通称プチ」
「記録するんだ……」
ノアは苦笑した。
プチたちは、会話が終わるのを待っていたように灯りを点滅させ合った。
高い音が短く重なり、列がほどける。
数台が広間から出ていき、残りはノエルの後ろについて外殻開発区画へ向かった。
「まず何をするんだ?」
「開発区画の隅に、暫定的な開発施設を設置します」
ノエルは歩きながら答えた。
「修理道具、交換部品、それから外縁作業で使う小型端末を作るためです。自動生産機で作れないものは、ここで開発します」
「小型端末も、ここで作るのか」
「はい。まずはマニピュレーター周りの修理に必要なものから作ります」
外殻開発区画では、自動生産機の横に広い作業台があった。
これまでは素材置き場のように使っていた場所だ。
ノエルが制御盤に手を触れると、作業台の上に淡い線が走った。
それを合図に、プチたちが一斉に動き出す。
板材と金属片を運ぶ機体。
床下から細い管を引き出す機体。
作業台の脚を固定する機体。
自動生産機から出てきた小さな固定具を受け取り、決まった位置へ並べる機体。
プチたちは声を出さない。
代わりに、頭の灯りをピコピコと瞬かせながら、互いの位置を細かく入れ替えていく。
一台が部品を置くと、別の一台がすぐに腕を伸ばす。
三台目が管を差し込み、四台目が固定具を締める。
ノアはしばらく、その動きを見ていた。
人の作業なら、誰かが持ち上げ、誰かが押さえ、誰かが場所を確認する。
それを、プチたちは当たり前のように同時に進めていた。
「速いな」
ノアは思わず言った。
ノエルは制御盤を見たまま、うなずいた。
「明日には完成すると思います」
翌日、予告通りに開発台は完成した。
「開発台、接続します」
透明な筒の中を薄い光が流れ、作業台の中央に小さな板がせり上がる。
別の台には、細い加工腕が二本立った。
自動生産機とは違う。
素材を決まった形に吐き出す機械ではなく、部品を組み合わせ、試し、作り直すための場所だった。
「開発施設、起動しました」
ノエルが言う。
最初に作られたのは、マニピュレーター周りの修理道具だった。
細長い差し込み具。
先端の曲がった締め具。
熱を持った配管を押さえるための薄い手袋。
そして、手のひらほどの小型端末。
プチたちはそれらを受け取ると、すぐに外縁回収庫へ向かった。
そこから先は、ノアが想像していたよりずっと早かった。
崩れた壁の前では、プチが古い板を外し、新しい補強材をはめ込んだ。
むき出しだった配管には覆いがつき、触れると熱かった場所には赤い印が貼られた。
歪んで閉まりきらなかった扉は、軸を外され、作り直した部品でまっすぐになった。
外縁回収庫の床は洗われ、油の跡が消えた。
子供たちは最初こそ遠巻きに見ていたが、すぐに慣れた。
ミナはプチの灯りが点滅するたびに笑い、トマは外された古い部品を見て、どこが壊れていたのかをノアに聞いてきた。
ノエルは作業ごとに声を出さない。
制御盤とプチたちの灯りが短く応答し、そのたびに作業が次へ進む。
広場の端では、清掃を終えたプチが折れた木片を運び、別のプチが床の隙間に補修材を詰めていた。
一日目の終わりには、通路の危ない場所がほとんど消えていた。
二日目には、外縁回収庫へ行く道で足元を気にしなくてよくなった。
夜に誰かが水を取りに行く時も、開いたままの扉やむき出しの配管を避けて歩く必要がなくなった。
三日目には、外縁回収庫の制御盤から、応答なしの表示が消えた。
「外部作業用マニピュレーター、全六基の応答を確認しました」
ノエルが言った。
「あの、応答がなかった一本も直ったのか」
ノアは制御盤へ駆け寄る。
「はい。外縁作業の幅が広がります」
ノアは操作台の前に立った。
「これで、何から手をつける?」
ノエルは制御盤の表示を切り替えた。
居住区、広場、外殻開発区画、外縁回収庫。
それぞれの輪郭が並び、次に居住区の表示が淡く強調される。
「居住空間と作業空間の拡張を優先します」
「やっぱり、そこか」
「はい。部屋の割り当ては進んでいますが、人数に対して余裕がありません。修理道具や資材も増えています。このままでは、居住区と作業場がすぐに混ざります」
ノアは広場の方を見た。
この数日で、壁際には新しい部品や工具が増えている。
片づいたはずなのに、別の物が増えていく。
それは前より悪くなったということではない。
動き始めたから、場所が必要になったのだ。
「使える区画はあるのか」
「外縁観測で候補を確認しています」
映像が開く。
青白い膜の外側、アークの近くに、角ばった小区画が見えた。
外壁の一部は割れているが、骨組みは残っている。
「大きさから見て、作業室か個室として使えそうです」
「あれを引き寄せて、つなぐのか」
「はい。洗浄して仮固定し、アーク側のシールドに合わせれば取り込めます。プチたちと、修理したマニピュレーターを使えば、実施できます」
広場にいた子供たちが、画面を見上げる。
ただの残骸ではない。
あれがつながれば、アークは今より広くなる。
「よし、やってみよう」
ノアが言った。
「承知しました。接続手順を準備します」
制御盤の端で、プチたちの灯りが点滅している。
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