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落骸都市の箱庭領主  作者: ひげくま


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12/22

第12話 ノエル

 閉じていた少女の指が動いた。


 ノアは白い保管庫の前で息を止めた。

 バルドは蓋の横に立ち、いつでも腕を伸ばせる姿勢を取っている。


《身体機能、復帰》

《都市核情報同期完了》

《再起動完了》


 少女のまぶたが開いた。


 薄い灰色の目が天井を見て、それからノアの顔に向いた。


「登録認証者、ノア・アークライトを確認しました」


 声は小さかったが、言葉ははっきりしていた。


「僕の名前が分かるんですか」


「都市核から登録情報を受け取りました」


 ノアは制御盤を見た。

 表示に異常は出ていない。危険反応を示す赤い光もなかった。


「君は、誰ですか」


「個体名、ノエル。α型都市核の管理補助機として作られたアンドロイドです」


 ノエルは保管庫の内側に手をつき、ゆっくり体を起こした。

 白に近い銀色の髪が肩に落ちる。薄い服のままでも、寒がる様子はない。


「アンドロイドというのは、人間ではないんですね」


「はい。人間を模した外装を持つ管理機械です。飲食、睡眠、呼吸は必要ありません」


 ノエルは保管庫の縁に腰を下ろした。

 その動きは人に近い。迷いや疲れは見えなかった。


 エリスが携帯保守端末を握り直した。


「α型都市核の管理補助機、と言いましたね」


「はい」


「あなたは、この都市核が何なのか知っているんですか」


「はい、基本的な情報は保持しています」


 ノアとエリスは顔を見合わせた。

 前に制御盤から出た説明では、α型都市核は自己進化型小規模都市核と表示されていた。

 事故により放棄されたようだが、具体的な事までは分からなかった。


「教えてください」


 ノアが言うと、ノエルは制御盤へ顔を向けた。

 画面に、黒い金属球を中心にした簡単な図が出る。外殻開発区画、衛生設備、水耕栽培実験区が細い線で繋がっていた。


「α型都市核は、従来の都市核とは別系統の試作都市核です。既存の都市核では外界の変化に対応できないこと、また出力が使用年数に応じて落ちることから、環境や居住者に合わせて進化させるというコンセプトのもと設計された新型都市核の一つです」


 エリスの指が端末の縁を押さえた。


「そんな分類、管理局では習いませんでした」


「管理局とは、都市核管理局でしょうか?もしそうであれば、開発自体は管理局とは別の開発局で行われていたため、十分な情報共有はなされなかったのかもしれません」

「ただ、都市の上級管理者には通知されていたようです」


「自己進化型というのは、都市核が勝手に考えるという意味ですか」


 ノアが聞いた。


「違います。都市核が勝手に進化する事はありません。承認者の確認が必要となります」

「周辺環境に応じ、進化の方向性について提案することは可能です」

「私の方で進化の方向性をコントロールすることも可能です」


「つまり、環境や使い方に合わせて育つということかな?」


「おおむね、その理解で問題ありません」


 ノアは黒い金属球を見た。

 最初は、落下を止めるために必死で動かした。


「事故停止の記録も知っていますか」


「私は再起動時に初期状態で起動しているため、事故そのものの記録はありません。ただし、開発開始時の基礎記録であれば、初期情報に残っています」

「都市核側に事故記録があるようですが、上級開発者のみの閲覧権限となっているため、情報は引き出せません」


 広場の空気が少し重くなった。


 バルドが腕を組んだ。


「ふむ、結局詳しいことは分からないか」


「お役に立てず申し訳ございません」


「いや構わんよ」


 バルドはすぐに言った。


「しかし新型の都市核が必要なほど当時も困っていたのかな?」


 ノアが疑問を呈した。


「何点か理由がありました」

「まず、人口の増加率があがり、数年で既存の都市核だけでは維持できなくなることが見えていました」

「また、一部特権階級により都市核の恩恵が独占されていたため、度々反乱が起きていたこと」

「さらに、これが一番深刻でしたが、下層部の都市において落骸海の影響により、シールドの消滅と都市核の崩壊が起きていました」


「これらに対処するため、開発局のリーベルト教授の発案の元、新規都市核の開発がスタートしました」

「しかし、開発の開始には多くの反発もあったとのこと」

「下層部のレジスタンスからは、『そんなことに対してコストをかけるなら下層部の人間を一人でも救うべき』という意見」

「特権階級からは、自身の優位性が失われることに対しての抵抗があったと記録されています」


「昔も似たような話があったのか」


 ノアが呆れたように言った。


「マスター、現在は何年でしょうか。都市核にも記録がないようで、年代を判断できません」


 ノエルがノアを見つめながら聞く。

 横からエリスが答える。


「オルディナ標準暦三二一四年よ、あなたはいつ生み出されたのかしら?」


「オルディナ標準暦・・・記録にありません。私と都市核が生み出されたのは開拓暦一四二年になります」


「3000年以上前!?」


 エリスが驚く。


「私たちは、そんなに眠っておったのですね」


 衝撃を受けたようにノエルが言った。


「私たちが眠りについてから、何があったのか把握したいのですが、この区画は別の区画と切り離されているようですね?」

「また、ここは落骸海の中のようですが、何があったのですか?」


 ノエルの問いに皆で顔を見合わせる。

 ノアが代表してここまでの経緯を説明した。


「なるほど、状況は理解しました。また、いくつか分かったことがあります」


 バルドが眉を上げる。


「まず、我々が作られた時代の記録では、この区画は都市の中央階層の上部に位置していました」

「それが現在、最下層として扱われているということは、多くの下層から中層エリアが長い期間を経て失われたと考えられます」

「また、そこまで多くの区画を失わなければならなかったということは、落骸海に何か変化があったか、都市核の出力が相当に落ちてきている可能性があります。寿命も近い、という見方もできるかと思います」


 一同が驚愕の表情を浮かべる。


「寿命? 寿命を迎えるとどうなる?」


「都市全体が落ちることになるかと思います」

「都市は従来、天の柱と呼ばれる巨大な塔に繋がっていたはずですが、今は繋がっていないのですか?」


「そんな話は聞いたことは無いわね…」


「そうですか、色々変わってしまっているのですね…」

「マスター、ひとまず都市の状況を整理し環境を整えたいと思いますが、対処してもよろしいですか?」


 ノアはイヤそうな顔をしながら言う。


「マスターって、俺の事?ならマスターはやめて欲しいかな」

「作業は進めていいよ」


「承知しました、それではノア様と呼ばせて頂きます」

「都市状況整理を開始します」


 そういうとノエルは、都市核のある広間に移動を開始した。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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感想もいただけましたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。

※本作は「カクヨム」にも掲載しています。

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