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ルシファーは馬車で

 魔族の国に一番近い町に向かい始めてから二週間が経過した。俺は今クレアと一緒に馬車を引いている。と言っても、クレアが手綱を握る番なので、俺は横で座っているだけだ。


 これまで小さな町に寄れる時は寄って宿泊所に泊まり、町がない時は野営した。馬車にクレアとリリスを寝かせ、外に他四人用のテントを張る。全てを自分達で用意するのは大変かと思っていたが、これだけ人数がいると分担が出来たので、思った以上にスムーズに進んだ。


 もうすぐで魔族の国に一番近い町に到着する。時折馬車が石を踏み、ガタンと車体が揺れる。その度にクレアが少しだけ俺に寄りかかる。


 そんな小さな幸せを俺は今噛み締めている。この時間が永遠に続けばいいのに、とつい考えてしまう。クレアに想いを伝えてから、俺はずっとクレアに触れたくて堪らない。


 両思いだと分かった途端、ペタペタ触れていたら嫌がられるかと思い控えてはいるが、いつまで俺が我慢できるか疑問だ。クレアが俺に寄りかかるたび、ずっと体重を預けていると良いなどと言ってしまいたくなる。


「キャッ!」


 一際大きな石を避けられず、馬車がガタンと大きく揺れた。俺はすかさずクレアの肩を抱き、俺の側へ体を寄りかからせた。


「クレア、大丈夫か」

「ご、ごめんなさい! バランスを保つのが難しくて。ルシファーにぶつかってばかりで……」

「気にするな。このまま寄りかかっていると良い」


 ずっと我慢していた言葉が言えて、俺は胸のつっかえが一つ取れた気がした。俺はその状況を利用することを思いついた。馬車の手綱をクレアに持たせ、クレアの腰の後ろから手を回し、クレアが手綱を持つ手に自分の手を重ねる。クレアを抱き込むような体勢で一緒に手綱を握る。これでずっとくっついていられる。我ながら完璧だと思う。


「こんな格好で馬を引いていたら私が女だとすぐバレてしまうわ」とクレアが焦った様子を見せたが、俺はわざと惚けて見せた。


「そうか? なら俺の足の間に座って子どものふりでもするか?」

「もっとダメでしょう!」


 目深に被ったフードからチラリと見えたクレアの唇は拗ねたように尖って見えて、吸いつきたくなる衝動に駆られる。ああ、もう我慢ができない。


「クレア」

「なあに?」


 俺がクレアの名前を呼ぶと、クレアが斜め後ろに座っている俺に首を捻った。


 俺はクレアが逃げられないよう、手綱を握っている手に力を入れて、クレアの顔を覗き込む。クレアが驚いて固まっている事を良い事に、そのまま口づけを落とした。


「んっ……」


 クレアが小さく上げた声で、たがが外れたかのように俺はクレアの頬に口付けを落とし、そして唇も舐め上げる。さらに首筋に移動しては何度もクレアを味わった。


「ああ、クレア……」


 クレアに触れているだけではもう物足りない。今日まで宿屋に泊まる際は全員別室で泊まっていたが、今日こそは同室になるよう話を持っていきたい。旅の資金が心許ない、よし他の四人に対する言い訳はこれで行こう。


 婚前交渉をするつもりはない。ただ、ちょっと抱き枕にしたいだけだ。大丈夫、俺なら我慢出来る。きっと出来る。た、多分……出来る。


「あっ……ルシファー、ダメ……」


 クレアの艶めいた声はなんの抵抗にもならない事をその身をもって知ってもらおう。そうすれば無闇にパウロやダニエル、アダムにも微笑みかけようとしなくなるはずだ。


 クレアの甘い吐息が聞こえるたびに一つ、また一つと理性が飛んでいく。


「ハァ……クレア……愛してる」

「わ、私もよ。だからちょっと……んっ……ここでは……」

「今日泊まる所では部屋を同室にしよう。手は出さないと誓うから……」

「えっ、でも、同衾はさすがに……」

「クレアがいないとどうにかなってしまいそうなんだ……今にも闇属性が漏れ出てしまいそうで……お願いだ」


 俺がそういうと、クレアはサッと顔を青ざめさせ、頭を上下にコクコクと動かした。闇属性の魔力はただ言ってみただけだったのだが、クレアには効果的面だったようだ。次からも何かお願いする時は言ってみよう。


 クレアが頷いたことに満足した俺は、最後にチュッと軽くクレアに口付けすると、

「今晩が楽しみだ」と言ってクレアに微笑みかけた。クレアがかあっと顔を赤らめている様子を見つめているだけで幸せな気持ちになる。


 嬉しくてクレアの頭に頬づりすると、クレアの耳まで赤く染まっているのが見えた。耳に口付けするのを忘れていたことに気がつき、隙をみて優しくクレアの耳に噛み付くと、ぴょんっと体を跳ね上がらせた。


「もう、ルシファー! 触るの禁止!」


 そう言ってクレアはそっぽを向いた。俺は一気に血の気が引くのを感じた。やりすぎてしまった。クレアを怒らせてしまった。しゅんとしたままクレアの手に指を這わせていると、

「それぐらいなら良いけど……」と言ってくれたので、指をクレアの指に絡ませてみた。


 こんなにりょこ……任務が楽しいとは思わなかった。これなら往復三ヶ月と言わず、半年でも一年でも旅をしても良い。魔族の国に別荘を建てるのもありだな。クレアと結婚式を挙げてから考えてみよう。


 王太子妃との新婚旅行は王国の領地巡りをするのが通例だ。面倒だと思っていたが、こういう旅になるなら意外と悪くない。俺の母上も領地巡りは王太子妃にとって大変な政務だと言っていた。二度と行きたくないともボヤいていたが、クレアなら難なくこなしてくれるだろう。やはりクレアほど王妃に相応しい存在はこの世にいない。


 クレアの温もりに身を任せていると、後ろから音が聞こえてきた。馬車の中からコンコンコンと三回ノックする音が聞こえてきたら、交代の合図だ。もっとこうしていたいのに! という言葉を飲み込んで、冷静に俺は合図に答える。


「もうすぐで到着だ。このまま馬車を引く」

「ルシファー殿下、そうは言っても、クレアに負担がかかります……」


 声をかけてきたのはダニエルだ。こいつは本当に騎士の鑑のような奴で、徹底して王子である俺より護衛対象のクレアを守ろうとする。正直言ってパウロの方が強いのは間違い無いが、色んな意味でパウロよりはダニエルにクレアを預けた方が安心だ。


 ダニエルの言葉で、確かにクレアには負担をかけてしまっているかも、と思い直した。


「旅の間は殿下はやめろと言っただろう。敬語もだ。ルシファーと呼べ。分かった、交代しよう。クレア、すまない。気が回らなかった」


 俺が素直に従ったことにホッとしたダニエルの雰囲気がこっちまで伝わってくる。後でダニエルには俺よりもクレアを守るよう念を押して言い聞かせよう。そう考えを巡らせていると、クレアが俺を思いやる言葉をかけてくれた。


「ううん、ルシファーは皆のことを考えて馬車を引くことを申し出たんだって分かってるから大丈夫。でもせっかくダニエルも交代を申し出てくれてるし、私達は馬車の中で休みましょう」


 クレアの俺を信用しきった目に心が痛むが、そういうことにしておこう。俺の邪な思いにどうかクレアは気付きませんように。


 馬車を一旦脇に寄せ、停止させると俺とクレアはダニエルと交代した。手綱を渡す時、クレアには聞こえないよう、ダニエルに先ほど思ったことを耳打ちする。


「ダニエル、お前は常にクレアを優先して守れ」

「ルシファーの護衛は?」

「俺のことはいい」

「……分かった」


 ダニエルは少し考える素振りを見せたが、頷いた。俺はダニエルの肩をポンと叩いてお礼を言った。


「ありがとう。クレアに何かあったら俺は悔やんでも悔みきれない」

「全力を尽くす」


 ダニエルは本当に騎士の鑑だ。安心した俺はクレアの手を取り、馬車に乗り込んだ。


「言われなくても、最初からそうするつもりだ。オレはクレアを守りたくて騎士になったんだ……」


 ダニエルが後ろで何かを呟いた気がしたが、クレアの手を握って幸せいっぱいの俺の耳にはダニエルの言葉は届いていなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 43/43 ・うお、今回は破壊力バツグンですね。 [気になる点]  ダニエルが後ろで何かを呟いた気がしたが、クレアの手を握って幸せいっぱいの俺の耳にはダニエルの言葉は届いていなかった。 …
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