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婚約しましょう、王子様!悪役令嬢の私があなたを立派な魔王にして差し上げます!  作者: 春夜くる佳


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クレアが魔族の国に向かう当日

 旅立つ準備をしていたら一週間があっという間に過ぎていった。魔王の元に行くメンバー全員を拾った後でダニエルが馬車で私を最後に迎えに来るとお父様からは聞いている。お父様は今朝日が昇る前に隣の領地へ仕事に出かけて行った。昨晩は見送りをしてから行くと言って聞かず、宥めるのが大変だった。


「お父様はお父様のやるべきことをして。私は大丈夫」と言うと、なんとか落ち着きを取り戻してくれた。


 これからは馬車でさえ自分たちで引いて、野営の準備からご飯から何でも自分たちだけでやることになる。見送りごときでお父様の手を煩わせるのは心苦しい。私は普通の公爵令嬢ではないので、見送りをされなくても平気だ。


 執事や侍女をゾロゾロ連れて魔族の国に行くことだって出来ない。海を越える必要があるので、途中船に乗るからだ。船はお父様が昔に用意したものが魔族の国に一番近い町で保管されており、キャパが少ない。これからは自分達の力だけで過ごさなければならないのだ。


 ここでまさか騎士団での訓練が役立って来ると思わなかった。本来なら令嬢が受ける一般的な護身術の訓練を受けているはずの私は、騎士の訓練を受けていた。クレアは公爵令嬢という身の立場から、必要最低限のサバイバルだけ学んでいるはずだった。それはあくまで逃げに特化し、万が一私が一人でどこかに置き去りにされた時、少しでも生き残られる可能性を上げるためにと考えられた訓練だったが、私はそれを拒否した。


 私は戦うことを、騎士と同様の訓練を望んだ。騎士団で訓練をするようになって十年、私は騎士のように剣を振り、同時に自在に魔法を操ることができるまでになっていた。


 サバイバルだってお手の物だ。流石に公爵令嬢ということもあって影で護衛がついていたのは知っていたが、ナイフ一本で森に置き去りにされる騎士の最終試験も誰の力も借りずに突破した。


 私が十五歳になった時、騎士の訓練に合格したと言ったらお父様は頭を抱えていたのを思い出す。


「女の子なのにこんなに強くなっちゃって……」と言いつつも嬉しそうだったので、私は傷だらけになった顔でお父様にとびっきりの笑顔をプレゼントした。


 今日までの間、私は出来る限りの努力をしたと断言できる。今の私なら追放されても問題なく一人でやっていけるだろう。回避するに越したことはないが、原作より先に先代魔王に出会うことでどうシナリオが変化するのか、この先は読めない。


 それに私は先代魔王をルシファーと同化する瞬間に原作でちょっと見ただけだ。一体どんな魔族なのかも全く予想がつかない。魔導塔でパウロといる時、魔王について調べようとしたこともあったが、それらしい本は王族のみ閲覧可能な場所にあるだけでなく、国王と国王が許可した者だけが閲覧出来る封印まで施されていたので断念した。


 私が調べた痕跡や、知ろうとした事実が残ると国家転覆罪を将来疑われる可能性があった。ルシファーに頼めばあるいは、と一瞬過ぎったが、闇属性のルシファーは一番疑われやすい立場にある。魔王と結託してこの国を滅亡させる気だと誰かに勘違いされるわけにもいかない。こうした経緯から、私は断念せざるを得なかった。


 まだ不安はあるけれど、でも大丈夫。私には心強い仲間たちがいる。パウロ、ダニエル、ルシファーさえいればどんな苦難でも乗り越えられる。私はルシファーを愛しているが、他の二人は親友だと思っている。私は三人の愛する仲間たちに思いを馳せながら、今か今かと馬車を待った。


「来た!」


 暫く外でワクワクしながら待っていると、馬車が公爵邸の敷地内に入ったのが見えた。馬車をひいているのはダニエルだ。少しばかり馬車が思っていたよりも大きい気がする。


 私の目の前に馬車が到着したので、平民の服を着たダニエルに元気よく声をかけた。


「ダニエル、おはよう!」

「おはよう、クレア。その格好は……まあ、平民に見えないこともないな。そこそこ似合ってるんじゃないか」


 旅先では質素な格好を心がける必要がある。ドレスなんてもっての外だ。用意した荷物も魔王への謁見用に、一枚だけドレスがあるだけで、他は全て薄汚れた平民の服だ。道中で一番気をつけなければならないのは、魔物よりも魔族よりも、人間の盗賊だ。この一週間は平民のお古を買い漁るのに忙しくしていた。


「あら、どっからどう見ても平民じゃない。それより、パウロとダニエルとルシファーと私の四人の荷物を乗せるとは言っても、ちょっと馬車が大きくない? これは六人用の馬車じゃないの?」

「えっ、聞いてないのか? アダム殿下とリリスもいるぞ。合計六人だ」


 私とダニエルが話していると、話声を聞いたアダムが馬車の側面からヒョイっと顔を出した。


「ごめんよ、クレア。僕のお母様が、リリスを守る人がいないと言い出してしまって……」

「えっ、エヴィル妃殿下が平民のリリスを心配したの?」


 お父様にリリスとアダムの名前は伝えていないはず。パウロとダニエルがいれば十分だと思っていたので、二人は来なくて良いと思っていた。なぜ二人がいるのだろうと首を傾げているとアダムが説明してくれた。


「クレアが行くのに、女性がいないというのは不安だというモレッティ公爵の思いもあったのかな? リリスはこの旅に行くことになっていたようだよ。それを知ったお母様が、クレアを女性としてサポートできるのはリリスしかいないのだから、リリスを守れる人も必要だと主張して……」


 なるほど、女性の身体的な問題をサポートする要因ってことか、それなら仕方がない、と私は納得した。


「ああ、エヴィル妃殿下の発言は私を思ってのことだったのね。この国の王子を二人も連れて行くなんて恐縮してしまうわ。アダムとリリスまで来てくれるなんて、心強いわ。ありがとう」


 原作からすると私とルシファーだけが異質な存在だ。むしろ他の四人がいることの方が普通なのだ。結局ここは変えられないのか、と内心溜息をついた。


 メイデンが荷物を押し込み終わったと言ってきたので、私はメイデンに別れを告げる。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」


 早速馬車に乗り込むと、ルシファーとパウロの間が空いていた。向いにはアダムとリリスが座っている。


「おはよう、皆! これからよろしくね」


 皆口々に挨拶を交わす。どこに座ろうかと目線をふらふら彷徨わせていると、ルシファーがポンポンと椅子を叩いたのでルシファーとパウロの間に座ることにする。


「馬車は交代で引こう。ダニエルだけでは大変だろうから」


 私がそう提案すると、皆頷いてくれた。


「女性のクレアが馬車を引いていては狙われる。クレアが馬車を引くときは俺も横に座ろう」

「ルシファー殿下に馬車を引かせるわけにはいきません。私がクレアと一緒に馬車をひきましょう」と言ったのはパウロだ。でもルシファーも譲ろうとしない。

「俺が馬車を引くと言っているのだ、構わない」

「ルシファー殿下が襲われたら困ります」

「俺も今は平民の格好をしている。問題ない」


 そのままにしておいたらずっと言い合ってそうだったので私は二人の話に割り込んだ。


「まあまあ、二人とも。私かリリス嬢が馬車を引く時は四人の誰かが一緒に引くってことに今はしておこう。追々決めれば良いわ。こういうのも楽しいね!」


 私は二人の腕にそっと手を触れて宥める仕草をした。パウロの心配も分かるが、確かにルシファーの言う通り、フードを頭に被ったところで女性だと盗賊には分かってしまうかもしれない。ルシファーが心配するのも理解できる。


 二人の袖をキュッと握っていると渋々納得してくれたようで、ムッとした顔のまま二人は正反対の方向を向いてしまった。二人とも心配性だなあ、と思いながら苦笑を浮かべると、アダムと目があった。アダムも困った顔をしている。リリスは焦った様子で目線をキョロキョロと動かし、そわそわしていた。


(まあ、なんとかなるでしょう)


 こんな調子でワイワイとおしゃべりをしながら、私達は魔族の国に一番近い街に向けて馬車を進めた。冒険の始まりだ!

もしも「続きが気になる」「面白かった」などと思って頂けましたら、

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どうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 42/42 ・剣と魔法を……ファンタジーの体現者だー!  うんうん。強くなりました [気になる点] 二人の腕を両手で撫で撫でしていると、 ↑ ここ妙に印象に残りました。
2021/01/24 20:11 退会済み
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