古代の魔力測定器1
今日は二十時頃にまた更新します!
ルシファーがアダムから何かを言われ、険しい顔をして去った後、従者のベルゼが私に話しかけてきた。
「クレア様、リリス嬢をアダム殿下の馬車で連れて帰りますので、結界を解いていただけますか?」
ベルゼが親しげな声で私にそう言うと、後ろに控えていたアダムの従者もすまなさそうな顔をして私に声をかけてきた。
「モレッティ公爵令嬢、アダム殿下の連れが大変失礼な事を言い、申し訳ありませんでした」
私は二人に対して両手を前にして左右に振りながら、
「お気になさらないで下さい」と言って結界を解除した。結界がパッと消え去ると、ポカポカと両手で結界を殴っていたリリスが勢い余って床に倒れ込み、小さな悲鳴をあげた。
「キャッ! ひどいですう! 私を閉じ込めるだなんて!」
「あなたを非難されることから守って下さったモレッティ公爵令嬢になんてことを!」
アダムの従者がリリスに注意をすると、間髪入れずにベルゼがリリスの腕を掴んだ。そしてアダムの従者に指示をする。
「さあ、あなたももう片方の腕を持ちなさい。では、クレア様、また王宮にいらっしゃるのを心よりお待ちしております」
アダムの従者は慌ててリリスの腕を掴み、私に礼をすると、ベルゼと二人でリリスを引きずって帰っていった。
「ちょっと、離して下さい! なんで私が連れて行かれるの? 疑問に思ったことを口にしただけじゃないですか! ねえ、アダムはどこに行ったの、ねえってば!」
リリスの抵抗する声が徐々に聞こえなくなり、ようやく魔導塔の食堂はいつもの平穏な姿に戻った。
(とんだ災難だったわ……)
アダムは順調にヒロインとのイベントをこなしているようだ。本来ならリリスがクレアの魔力について言及するイベントはここではなく、教育施設で行われる。教育施設でクレアがパウロと食事を取っていると、リリスがクレアに魔力が低いから、パウロに教わろうとしているのか、と雑談しにくるのだ。
所々セリフは違うようだが、大体同じようなことを言われる。図星を突かれたクレアは怒り、口論に発展した挙句、クレアがリリスを突き飛ばす。するとベルゼやアダムの従者が現れ、クレアは二人に連れて行かれて退場するのが本来のシナリオだ。
それがこんな形で起こってしまったのだ。教育施設にさえいなければ大丈夫だと思っていた私は考えが甘かったことを痛感した。しかし今でもルシファーに事前にリリスが来ないか確認するなど、十分に気をつけて行動している。リリスの行動を全て把握するのには限界がある。
(嫌でも巻き込まれてしまうのは私にはどうしようもできないの?)
私は気を取り直すように、パウロと途中で食事を切り上げ、パウロの研究室に戻った。でもなんでだろう? 食事は半分しか減っていないのに今日はとても満腹感がある。うっぷ、食べ過ぎたかもしれない。
・・・
・・
・
「それで、何か分かったの?」
私は今日、パウロから昼食に誘われ、その後話があると言われて魔導塔に来ていた。さっき起こったことは想定外だったが、そのことを考えるよりも今はとにかくあれからパウロが何を見つけたのか教えてもらうことの方が重要だ。
「そうですね。説明の前に、まずはおさらいをしましょう。以前クレアが図書室で最後に手に取った本の題名を覚えていますか?」
パウロはテーブルの上に古代の魔力測定器を乗せると、測定器を動かす準備をしながら私に尋ねた。
「確か、『人類と魔力の属性』だったかな?」
「正解です。その続編である、王族だけが読める本『人類と魔力の属性の変化』も魔力検査があった後に一緒に読みましたよね。その中で、あなたのような身体的特徴を持つ者に聖属性を扱う者が多いとあった記述を覚えていますか?」
「覚えているわ。あと聖属性は魔力とは扱い方が異なるとか。でもそれ以上のことは書いてなかったと思うけど……」
「そうです。実はあの本にはもう一つ続きがあり、合計三部で構成されています」
以前パウロが王族しか入室できない場所が図書室の中にあると言っていたのを思い出す。
「その言い方だと何か不味いことが起こった?」
パウロは私の言葉に頷くと、話を続けた。
「国王とその許可された者にしか閲覧できないので、解析を後回しにしていたのが仇になりました。本自体が無くなっていたのです。私も読んでいないので確実なことは言えませんが、明確な記述はその本にしかないのではないかと考えています。表紙のデザインから目星はついていたのですが、肝心の本が見当たらない。通して読めば合点がいくはずだと思っています」
「どこかに行ってしまった……?」
パウロはため息を付くと、残念そうな顔で首を縦に振る。
「魔力検査の日からずっと探し回っていたのですが、前から知っていること以上のことをまだ調べられていません。私が分かっていることは、クレアが知ることと殆ど違いがありません。今の時点で分かっていることは、聖属性を持つ者の特徴と魔力との違いのみです」
「調べてくれてありがとう。私もあの本を読んだものの、今でも私が聖属性だとは信じられないわ。特徴が一致しているからと言って、私が聖属性だと言い切れないし。だって聖属性は失われた力とも言うように、伝説みたいなものじゃない?」
私が疑問を投げかけると、パウロは顔を俯かせ、プルプル震え出した。パウロの仮説が間違っていると否定したつもりではなかったが、怒らせてしまったのかもしれない。私が慌ててフォローしようと言葉を探している間にパウロがパッと顔を上げた。
怒っているかと思ったが、それは違った。むしろパウロは目を輝かせている。他にも何か好奇心をくすぐる事があれば今にも蕩けた表情を浮かべそうだ。
「クレアがこの場にいなければ私もそうだと断言してしていたでしょう。しかし聖属性は魔力と違い扱い方が異なるのはこれまでのクレアを見てきて間違いありません。あの本にあった通り、聖属性は愛を注がれ、愛を注ぐことで力を増すのです。見た目も含め、あなたはその特徴、全てに当てはまっています」
これまでのパウロの私に対する行動は全て、本に基づいたものだった。私も本を読むまではパウロはなぜこんなにも好意的に接するのかと思っていた。当初私に試したい事があると言っていたのもこの事だ。確かにパウロに接する度に魔力のような高まりは感じていた。それが魔力ではなかったと魔力測定の日でも明らかになったものの、未だに信じられない自分がいる。
「実感がないわ。だって魔力測定でも低い結果だったし、本当に聖属性は魔力測定器で測定出来ないのか情報が少な過ぎるもの」
「はい、クレアの仰る通りです。ではおさらいはここまでにして、早速古代の魔力測定器を試してみましょう。準備ができました」
パウロが準備が出来たと言った古代の魔力測定器は教会で見たような水晶ではなく、天秤の形をしたものだ。水晶は手を翳すだけで良かったが、これも同じかとパウロに確認する。
「これも水晶の時のように手を翳せば魔力が計れるの?」
「ああ、天秤に二つ皿がぶら下がっているでしょう? クレアは片方の皿に魔力を込めて下さい。もう片方の皿に私が一定量の魔力が宿っている魔法石を置いていきます」
パウロが言う魔法石とは、いわゆる電池のことだ。魔法石は魔道具を動かす時に使用する。魔道具は魔法石と言う電池を取り付けて、動かしている。魔道具は、電子機器と同じ役割を持っている。電子機器とは異なり、魔道具は電気で動くのではなく、魔力を宿した石で動くのだ。魔法石は消耗品だが、魔法石が取れる鉱山に持ち帰り、しばらく放置しているとまた魔力が溜まって使えるようになる。自分の魔力を魔法石に込めることも出来る。
魔道具には魔法石が使用されているものと、そうでないものがある。例えば魔導塔の各フロアや部屋に出入りする際に使用するバッジは魔道具だが、これにも魔法石が使用されている。バッジは交通系ICカードのようなもので、バッジ側の魔法石には承認情報が記憶されている。扉が電車の改札口のようなもので、これも魔道具になっていて、魔法石が取り付けられている。バッジの存在を感知すると、扉が開くと言う仕組みだ。
「魔法石は魔力が込められているのでは? それだとまた計れないんじゃないかな?」
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