古代の魔力測定器2
私は魔法石にも魔力が込められているのに、それでも魔法石を使えば聖属性は計れるのだろうか、とパウロに疑念を投げかけた。パウロは魔法石を天井の光に翳しながら答える。
「古代の魔力測定器の使い方に魔法石が何色に染まるかによって属性が分かると書かれてありました。聖属性以外の属性の色は書かれていたので、それら以外の色が現れれば聖属性だと言えます。あらゆる属性の測定ができるとの記述もあったので、恐らく計れるのではないかと。魔法石は水晶のような魔道具に加工されていない、原始的な素材なので聖属性も計れるのだと考えられます」
「まあ、試してみれば分かるか……」
「そうですね。但し、水晶と違って魔力の最大値を感知する機能がありません。ありったけの魔力を込める必要があるから魔法が暫く使えなります。それで水晶が開発されたという経緯があるのです」
私はなるほど、と頷いた。水晶の場合、全ての魔力を込めなくても最大値が数字で現れる仕組みになっている。でもこの天秤は違うと理解した私は天秤の二つある皿の内、一つの皿に手を翳した。体の奥底にある聖なる力を意識して、ありったけの力を手に込める。
天秤が光を帯びて、私が手をかざした方の皿がガクンと下に落ちた。これは中々辛い。私の力を天秤がグイグイ吸い取っていく感覚があり、気を抜くと足から崩れ落ちてしまいそうだ。
パウロは天秤の上に急いで魔法石を積み上げていく。ピラミッド上に置かれた魔法石のてっぺんにパウロが魔法石を一つ置いた瞬間、天秤が水平になった。するとそれがトリガーになっていたかのように、魔法石がキラキラと虹色に輝き出した。
「この色は……! もう力を込めるのをやめても大丈夫ですよ」
パウロの声で私は椅子にドサッと体を放り投げた。この測定器はダメだ。疲労感が凄まじい。新しい測定器の開発を望んだ過去の人々の気持ちが分かる。これで結果が200なら、私はやはり魔力が少ない子なのだろうと納得がいく。私は息も絶え絶えに、パウロに結果を尋ねた。
「……パウロ……私の……魔力は……計れたの……?」
「計れましたよ。いくつだったと思います?」
パウロはニヤニヤと嬉しそうにしながら言った。魔法石一つ当たりどのぐらいの魔力の計算になるのか分からないけど、と思いつつ、辛うじて私は、
「200?」と聞いた。
「ふふふ! ふははははは!」
パウロは私の答えを聞いて大きな笑い声をあげると、椅子に体を沈ませた私に勢い良く前から抱きついてきた。
「6,000ですよ! 私と一緒です! しかも見て下さい、この魔法石の色を! この色は記述にあった他の属性のどの色にも一致しません。つまり、この虹色は聖属性を表しているのです。やはり私は正しかった! あなたに愛情を注ぎ続けたこの二年間は無駄ではありませんでした!」
私はパウロの言葉が信じられなくて、驚いて目を見開いた。パウロを落ち着かせようと、パウロの背中をポンポンと叩きながら言葉を返す。
「えっ……じゃあ本当に……? 私が聖属性……?」
「クレアが来る前に私も自分で試したので間違いありません! 果たしてあなたはどこまで伸びるのでしょうか? 今後の成長も楽しみですね」
パウロは私から体を離し、頬を両手で掴んで、恍惚とした表情を浮かべた。とろんと垂れた瞳が少し潤んでいて、本当に喜んでいる様子が伝わってくる。
そこで私はハッとした。
「あれっ、魔力の属性って遺伝するんだっけ? 国王陛下は光属性だけどルシファーは相反する闇属性だよね。アダムは側室と同じ木属性で私のお父様は光属性よ」
「属性は遺伝が強く関係していますが、隔世遺伝もしますので、必ず両親と同じになるとは言い切れません」
「ってことは、私の場合、お母様が聖属性だったっていう可能性もあるってこと? 家に飾られている姿絵のお母様は、私とよく似た銀髪に近い金髪を持っていたわ」
「関係がないとは言い切れません。一度お父上に話を聞いてみて下さい。実はこの間にクレアのことを調べようとしたのですが、一切情報が得られなかったのです。あなたのお父上しか正確なことはご存じないのではないのかと」
原作のクレアもモレッティ公爵からとことん愛されていた。本人もそれを自覚していた。全く勉強しなかったせいで魔力がないと思っていたけれどもそもそもクレアは魔力があまり備わらない体質だったのではないだろうか。聖属性なら、あの勉強嫌いのクレアでも使えていたのかもしれない。
「お父様に聞くしかないかな?」
「ぜひそうして下さい」
パウロは私の頬をグリグリと両手で圧迫したあと、私の頭に手を置いてよしよしと撫でてきた。私は抵抗する力が残っていなかったので、されるがままになっていた。椅子の上で体に力が入るようになるまでぼんやりとした頭で宙を眺める。パウロは私の隣に椅子を持ってくると、私の頭を黙って撫で続けた。そうされていると眠気が襲ってくる。上手く働かない頭で今までのことを思い返す。
もし魔導塔で初めてパウロと出会った時に、攻略対象だと警戒して師事をお願いしなかったら今頃私も原作のクレアのように、捻くれていたかもしれない。そう思うと、聖属性という得体の知れない力を持っている事だけでも分かって良かった、と安堵した。
帰ったらお母様についてお父様に教えてもらおう。
瞼が落ちていくのに抗えなくなり、私は目を瞑った。眠りに落ちる時、私の鼻先にふんわりした何かが当たった気がした。パウロの声が遠くで聞こえる。
「ゆっくり休みなさい。もう少し寝顔を堪能したら帰りの馬車を呼んであげましょう」
パウロの声が意識の片隅で聞こえた後、今度は頬っぺたに何かが当たった気がした。
・・・
・・
・
結局私は昼過ぎから夕方までパウロの研究室にある椅子で眠りこけていた。起きて目を開けた瞬間にパウロの緑の目が見えて驚いて声も出せなかった。言葉を出せずにじーっと見ているとパウロは、ニコッと微笑んだ。
「起きましたか?」
「あれ、夕方……?」
パウロの髪に夕焼けが反射して水色の髪が赤っぽく染まっていることに気がつき、キョロキョロと周りを見渡した。
「もうそんな時間でしたか。馬車を呼びましょう」
パウロはそう言って席を立ち、研究室の外へ出て行った。私が眠りに落ちる前パウロが寝顔を堪能したら馬車を呼ぶと言っていた気がしたが、空耳だったようだ。それともずっと寝顔を見ていたのだろうか? いや、パウロもそんなに暇ではないだろう。
私がまだぼうっとしていると、戻ってきたパウロが既に迎えが来ていたと教えてくれた。私がパウロにお礼を言うと、パウロは私の頭をまた優しく撫でた。寝ぼけた状態にあった私は言葉を返すには体が怠かったので、ギュッとパウロに抱きつき、
「ふわあ〜またねえ、パウロ〜」と欠伸をしながら研究室を出た。扉を締めた後、ゴチッとパウロが何かにぶつかったような音がして、「痛っ!」とパウロの声が聞こえた。
こうしてフロアを降りると、魔導塔の出入口で待っていたメイデンに手を引かれて私は家に帰った。
夕食の時間になり、まだ呆けたまま、モソモソと食事を口に運んでいると、お父様が声をかけてきた。
「どうした? 私の可愛いお嬢様は今日、元気がないのか?」
「ううん、パウロと古代の魔力測定器を使ったの。ありったけの魔力を込めたから疲れちゃって……」
「あれを使ったのか……結果は?」
「……お父様は分かってるんじゃない?」
転生してから二年が経って、私はモレッティ公爵を父として認識するようになっていた。以前のクレアのように話せるようになっていた私はお父様にハッキリと尋ねた。
「……っ!」
やはりお父様は何かを知っている。そう確信した私はさらに言葉を続けた。
「お父様に聞きたいことがあるの」
「なんだい? ……クレアが知りたいことはなんでも教えてあげよう」
お父様はいつものニコニコした顔ではなく、少し真面目な顔で言った。私が何を言おうとしているのか、察しの良いお父様は分かっているのだろう。
「もう気付いていると思うけど、私の属性は、」と言いかけた時、応接間の扉が勢いよく開かれた。
バンッ!
「閣下!」
「クレアと食事中だ。なにごとだ?」
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