クレアの魔力検査の日2
最初に呼ばれたのは、この国の第二王子、アダムだ。
「アダム殿下、木属性、魔力値560!」
この国の十歳児の平均魔力値は300だ。アダムは第二王子なだけあって、平均を余裕で上回っている。原作では賢者の次に魔力を持っていた。アダムの木属性は防御も攻撃もできる万能型だ。でも他の属性ほどの防御力や攻撃力はない、どっちつかずの属性でもある。因みに前世のクレアは三歳児並みの50という数字を叩き出している。
「次! クレア・モレッティ公爵令嬢、前へ!」
「はい!」
ここまでは原作通りだ。私はドキドキしながら席から立ち上がる。ここからが本番だ。この二年間、私はパウロからのアーンに耐えつつも、勉強もしっかりこなして魔力を磨いてきた。絶対大丈夫、と手に汗を握る。
私が緊張して顔を青ざめさせているのを見て、パウロが声をかけてきた。
「クレア様、大丈夫です。あなたは私の共同研究者ですよ。自信を持ちなさい」
「う、うん。い、いってくる」
「ええ、あなたの力を見せて下さい」
私はパウロに弱々しく返事を返し、壇上に向かって歩みを進めた。すれ違いざまにアダムが声をかけてくれる。
「いってらっしゃい、クレア。頑張って」
「ありがとう」
私は手を震わせながら、魔力測定器水晶に手を翳した。
「クレア・モレッティ公爵令嬢、光属性、魔力値……200!」
「嘘っ!」
原作のクレアよりはあるけど、200って! 私は周りに大勢の人がいるにも関わらず、悲鳴に近い声で叫んだ。
「ぷっ! 200なんて八歳児の平均並みじゃない? 公爵令嬢ともあろう者が恥ずかしい」
「有り得ない、公爵家なのに? キャハハハハ」
「教育係のお勉強をサボっていたのでしょう」
周囲で他の貴族令嬢が噂する声が聞こえる。私は目からじわっと涙が浮かぶのを感じた。
(泣いちゃだめ、私は公爵令嬢クレアよ! こんなことで泣いてはダメ!)
私は目の力を緩め、大きく開け、涙が溢れないよう、上を向いた。
あんなに勉強だって、魔力操作の訓練だって頑張ったのに。私の考案した魔力訓練だって効果があることが証明されて、一日たりとも欠かしたことはなかった。それなのに、なんで八歳から成長していないのだろう……。
やっぱり私は悪役令嬢の追放ルートから逃れられないのだろうか? これからは腫れ物扱いされて、他の貴族令嬢に馬鹿にされるようになるのだろうか? そして反論すれば典型的な悪役令嬢になり、いつの日か周りに愛されるヒロインを妬むのかもしれない。
私が壇上で茫然としていると、魔力検査の値に異議を唱える声が教会内に響いた。
「それはおかしい」
声を上げたのはパウロだ。
「おかしいとは、どういうことでしょうか、賢者パウロ様?」司祭は訝しげな眼差しでパウロを見つめた。
パウロは一年前、九歳になった時に賢者になった。しかも、認められた魔力増大方法に関する二つある論文の内、一つに私が共同研究者として名前が挙がっている。パウロは原作では一つだけの功績で賢者となっていたが、ここでは大人向けと子ども向けの魔力増大方法を二つ考案したことで賢者となっている。
その賢者が異議を唱えたのだ。司祭が戸惑うのも無理はない。
「クレア様は私が直々に訓練を行なってきました。そんな数字が出るはずがないんですよ。その証拠に、クレア様。あれを見せて下さい」
パウロは私が馬鹿にされているのが気に食わない、というように怒りが混ざった声で私に手を伸ばしてきた。
(あれってなんだっけ? ああ、あれか)
私はパウロか差し出された手を握った。するとパウロがキュッと手を握り返してきて、魔力を流してきた。パウロがやったと思われないよう、パウロがパッと私の手を離す。まだ自分では自由に自分の魔力を扱えないが、パウロに魔力を流されると、疲労感なく治癒の魔法を扱えるまでにはなっていた。
でも、あの魔法がなんだっていうのだろう? と思いつつ言われた通りに私はパウロの魔力を感じる間に、光属性の魔法を詠唱した。
「光よ、癒しを与えたまえ」
私の手から神々しい光が溢れ出す!
眩い光が教会全体を覆って視界が真っ白になる。ふわっと光が消え去ると、キラキラとした粒子が天井から降ってきた。体力が回復する癒しの光が教会にいる全員に行き渡った。微量ではあったものの、それは十分驚く結果だったようだ。
「こ、これは!」
司祭がすっとんきょうな声を上げると、教会にいる貴族達もザワザワと声を交わし合った。どうやら私が思っていた以上に凄いことだったみたいだ。まだ不安は残るが、先ほど私を馬鹿にした発言をした貴族令嬢は見返せたようで安心する。私がほっと胸を撫で下ろしているとパウロが司祭に向かって厳しい目をくれた。
「この力が魔力値200だと言えますか? 確かにまだ弱々しい治癒力ではありますが、これほど高度な治癒魔法が使えるのは魔導塔にいる魔導師の中でも一握りだけです。クレア様の光属性は強力すぎてその魔力測定器では適切に測れないのではないかと考えられます」
「……っ! こ、古代の測定器を持って参ります!」
「ええ、そうした方が良いでしょう」
パウロは涼しい顔で司祭に別の測定器を持ってくるよう促した。
パウロが私を援護してくれた……!
目に涙がまた浮かんでくるのを自覚しつつも、私はパウロを呼ばずにはいられなかった。
「パウロ……!」
「私とほぼ毎日特訓しておいて、200なわけがないでしょう。安心なさい。あなたの努力は私が一番知っています」
出会ったばかりの時に会いたくなかったとか思ってごめんなさい、と心の中で私はパウロに土下座した。
パウロは良くクレアをゲームの中では馬鹿にする発言をしていた。十六歳になってヒロインが魔王討伐メンバーに加わる際にクレアがイチャモンをつける時だって、ものすごくクレアを見下した目で見ていた。その時パウロはクレアに言う。「本当にあなたは見た目だけですね」と。ヒロインの立場でゲームをしていた私は、そうね、悪役令嬢のクレアは顔だけだからね、なんて思っていた。
今思うとあれはもしや、見た目だけパウロの言う、『失われた属性を持つ者の特徴を備えている方』だという意味だったのだろうか。未だに詳しい話を聞かせてもらってはいないけど。
でもよかった、パウロに師事をお願いしていたお陰で、パウロが私を無能でないと証明してくれた。
「パウロ、私は光属性だったのね」
原作のクレアは三歳児並みの魔力しかなかったので、もはや何属性かは分からなかった。ようやく自分の得意属性も分かり、安堵で目から涙がこぼれ落ちそうになった。
涙がこぼれ落ちる前に拭ってしまおうとハンカチを探す。それに気がついたパウロは先に自分の指を私の目元に押し当て、涙を拭った。さらに私に近づき、ハンカチを渡すフリをして声を落として耳元に話しかけてきた。
「厳密には違います。最初に会った時に言ったでしょう。あなたのことは極秘事項だと」
もしも「続きが気になる」「面白かった」などと思って頂けましたら、
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします!




