クレアの魔力検査の日3
そういえばそんな事を言っていたな、と思い出す。ただの光属性なら、出会った時に言っていた『失われた属性の特徴を持つ者』の説明がつかない。光属性にもA型にRH マイナスやプラスがあるように、種類があるのかと考えた私はパウロに尋ねる。
「極秘事項を今になって教えてくれる気になったの?」
「今まで確信がなかったので黙っていたのですよ。ですが、これで確信しました。あなたは聖属性の持ち主です」
「聖属性って……なに?」
原作でもこの世界に来てからも、一度も聞いたことのない単語を聞いて私は頭を傾げた。
「そういえばまだ言っていませんでしたね。あの本を覚えていますよね。あの本の後には続編が後二冊あるのです。一つは王族なら誰でも読める本で、もう一つは国王と国王に閲覧を許可された者だけが読める本です。そこに書いてあったもです。王族が読める方は私の研究室にあるので今度一緒に読みましょう」
パウロは艶めかしい笑みを浮かべ、ハンカチを私に手渡す。
あの本とは、魔導塔でパウロに出会った時に最後に選んだ本のことだ。そこには『人類と魔力の属性』について記載されていた。きっと続編の王族にしか読めない本では聖属性に関する記述があるのだろう。聖属性の詳細も気になるところだが、あのパウロでも知らないことがあるのかという驚きが先立ち、パウロに質問する。
「なんで今まで私の属性に確信を持てなかったの?」
「それは、聖属性が光属性と似た魔法を使うからです。私はあなたが聖属性だろうと一緒にいて予想はしていましたが、今ひとつ確信に至る証拠がありませんでした。測定器ではどのように検知されるのだろうと、実は今日楽しみにしていたのです。まさか検知されないとは思ってもいませんでしたが……」
パウロは何かを考察しているようだ。恍惚とした表情を浮かべているので、知識欲が満たされて喜んでいる様子が窺える。ただ、大勢がいる前でその表情はやめた方が良い。貴族令嬢の黄色い声が騒がしい。私は貴族令嬢の声を打ち消すように抱いた疑問をパウロに投げかけた。
「でも、実際には光属性の魔力値200だと出ているわ」
「恐らく、あなたは光属性を使えるぐらいの魔力も一応は持っているのでしょう。あなたも人間ですからね。光属性は魔力から成るので、あの測定器で測定できます。私と出会う前までは魔力が伸びる感覚があったのでしょう?」
私はコクリとパウロの言葉に頷いた。魔力の絶対値が増える時は体の奥底からじわっと温かい力が生まれる。パウロの言う通り、魔力の伸びが感じられなくなるまでは、しょっちゅうその感覚に陥っていた。パウロと出会ってからは別の心が締め付けられるような、キュンとした感覚を抱く事の方が多くなっていた。
パウロは私の反応に満足した様子を見せ、恍惚とした表情で私の髪を一筋取り、ふわりとキスを落とした。後ろからキャーという貴族令嬢の叫び声が聞こえる。パウロの行為に驚いて硬直した私を気にもせず、パウロは考察を続ける。この時私は後ろから凄まじい闇属性の魔力に教会内にいる人々が震え上がって黙り込んだことに気がついていなかった。
「魔力が伸びなくなった辺りで、聖属性に目覚めた可能性があります。私と特訓を始めてからは魔力ではなく、聖属性が伸びるようになったのでしょう。
だからあなたは魔力が少ないのだと考えられます。今回で分かりましたが、聖属性は魔力ではないのです。だから測定器で検出されなかった。従って、あなたの本当の力はまだ測れていません」
「なぜそう言い切れるの? 周りが言うように、本当はサボっていたのかもしれないとは思わないの?」
「思いませんよ」
パウロは私の髪から手を離し、頭にポンと手を乗せ、宥めるように撫でてくれた。気がつくと黄色い声を上げていた貴族令嬢達の声がおさまっていて、心なしか顔も青ざめている気がする。パウロのお陰で貴族達も反省しているのだろう。私が大人しく撫でられていると、パウロは言葉を続けた。
「あれだけ一緒に特訓していたら、私の経験上、流石に最低でもアダム殿下ぐらいはあるはずです。とはいえ、あなたと特訓していなかったら、私も測定器の表した属性と数値を信じていた事でしょう。私も今この目で見るまでは、聖属性も測定器で測定できるものだと思っていましたし」
「賢者パウロ様、持って参りました。こちらが古代の測定器です」
司祭が別の測定器を持ってきたので、私達は話を中断した。パウロが司祭から測定器を受け取ると、後ろから走ってきたパウロの従者に渡す。
「これは私が預ります。後で貸出に必要な書類を魔導塔から送ります。クレア、また詳細は後日に」
(あれ、今までずっと『クレア様』呼びだったのに、クレアって呼び捨てに……ってことは、好感度MAXを超えた状態!? いや、そんなまさか。堅物のパウロに限ってそんなはずが! そこまで好感度を上げるイベントは出会った時以来こなしていないのに!)
そこで私は原作のパウロの事を思い出した。パウロが攻略対象の時ヒロインに興味を持つのは、ヒロインの魔力の強さだ。もしかしたらパウロはヒロインが聖属性ではないかと思って近づいたのかもしれない。混乱している私を余所に、パウロは私にまた耳打ちした。
「この場でクレアが聖属性持ちだとバレるのはまずいことになりそうなので、引き続き黙っていましょう。私達だけの秘密です」
妖艶な笑みを向けられた私は顔が熱くなるのを感じながらコクコクと頭を懸命に振って、パウロの言葉を肯定した。私が席に戻ると、パウロは流れでそのまま水晶に手を翳した。司祭が慌ててパウロの結果を読み上げる。
「賢者パウロ・ウィズダム伯爵令息、水属性と火属性、魔力値6,000!」
(ゲッ! 原作では一般的な大人が持っている魔力値の2,000だったのに、三倍になってるじゃない! もしかして、私が考案した魔力増大方法もやっていたらこうなったってこと!?)
パウロが私にニヤリと笑いかけてきたので、間違いないだろう。今後の成長が恐ろしい……。
この後にダニエルは火属性を発現させた。原作ではアダムより低い魔力値だったのに、私があれこれ教えた所為か、アダムよりも高い魔力値が検出されていた。私が深く関わると原作と狂いが生じるらしい。最後にヒロインが案の定、物凄い光属性を発現させて魔力検査が終了した。
さあ、ヒロインは誰を攻略対象に選ぶのだろうか? 見届けてから帰ろうと思いつつルシファーの元へ急ぐと、アダムも側室と合流するのが見えた。
アダムが側室と帰ろうとした時、ヒロインがアダムにぶつかっていたのが見えた。なるほど、ヒロインはアダムを攻略対象に選んだようだ。まあ、アダムは今のところ一番私が関わる要素のない人間だ。問題ないだろう。今後はアダムと出来るだけ接しないようにしよう、と固く心の中で誓う。
これでヒロインの攻略対象も、私の属性も分かった。でもなんでクレアが聖属性を持っているのだろう、と頭を捻る。詳細は後日パウロが教えてくれることだろう。何はともあれ、あとはルシファーを病まさせないよう気をつけるだけだ。
そう思い立った瞬間に私は闇属性の魔力がルシファーの周りを漂っていることに気がついた。人が多くてルシファーの気が立っているのだと思った私はルシファーの腕に掴まり気を落ち着かせることにする。するとルシファーの魔力がスンと落ち着いたので、人の多い所に連れ出したことに申し訳なく思いつつ帰りの馬車に乗り込んだ。
後日ルシファーから魔力検査を終えた祝いと称して大量のヘアオイルが届いてパウロの仕草を思い出し、ルシファーにフォローの手紙を書き綴ったのは言う間でもない。パウロには今後も気をつけなければ、と私はため息をこぼした。
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