クレアの魔力検査の日1
とうとうこの日が来てしまった……。今日の魔力検査でヒロインと攻略対象達がやっと出会うのだ。
でもまだ十歳。ヒロインが十六歳になるまではヒロインが攻略対象と仲を深めるイベントばかりなので、関わりさえしなければなんとかなるだろう。ようは私がヒロインを虐めなければ良いので、簡単だ。そうすれば追放されるのは回避できるはず。
ルシファーが魔王になるのはクレアが十六歳になった時なので、ルシファーが魔王になるのは六年後だ。まだ闇に飲まれる兆候は見られないが、ヒロインと攻略対象の出会いでどう展開が転ぶのかまだ分からない。これもせめてルシファーが魔王になることが早まる事がないように、ルシファーが病まないように私が気をつけていれば良い。しかし油断はできない。
私が隣にいるルシファーをチラッと横目で確認すると、ルシファーが私の目線に気がついて微笑んだ。機嫌が良さそうだな、と思っていると、緊張しているのが伝わっていたのか、ルシファーが手を繋いでくれた。
教会に入ると原作が始まる。そう思うと入りたくないな、と思っていたので、この手は素直にありがたい。私は意気込むように、ルシファーの手をギュッと握り返した。
教会に足を踏み入れると、中には既に多くの貴族が魔力検査の開始を待っていた。中央にひかれた赤いカーペットの上を静々と歩みを進める。
「お二人が仲睦まじいと聞いていたけど、本当だったのね! お手を繋いでいるわ」
「見て、クレア様のドレス。黒一色でありながらもとても華やかだわ。あの佇まいはもはや王妃の風格ね」
「あの黒ダイヤのネックレスも見て! あれほど素晴らしい黒ダイヤは見たことがないわ!」
この日のためにルシファーは私にドレスとアクセサリーを好きに選ぶよう使いを寄越した。せっかくなので、全身をルシファーの色にしようと今日はアクセサリーから靴まで全て真っ黒だ。お葬式に見えないよう、レースがふんだんに使われている。
私が選んだドレスとアクセサリーを数日前のお茶会で報告すると、自分の色だと気がついたルシファーは耳を赤くさせ、目を泳がせながら
「何も全身黒にしなくてもいいのに」と言った。まるでやり過ぎだと言おうか迷っているような、でも嬉しいような、そんな百面相を繰り広げて。
ルシファーを落ち着けるつもりで私が
「大勢の前に立つのは不安だから、ルシファーに包み込まれているような黒色の方が安心する」と言ったら顔を真っ赤にして絶句していた。モニョモニョ小声で何かを言っていて、聞き取れなかったものの、多分喜んでくれてはいたと思う。
「ルシファー、ここで待っててね」
「ああ、行って来ると良い」
上から全員が見下ろせる来賓席には、ルシファーの婚約者だからという理由で国王と王妃も来ていて、モレッティ公爵……私のお父様もそこにいる。
私の姿に気がついたお父様はひらひらと手を振ってくれた。私もへにゃりと笑ってそれに答える。三人から少し離れた席に側室がいる姿も確認できた。
これは原作にはなかった光景だ。原作では国王と側室の姿だけで、王妃の姿はそこになく、お父様も同伴者席に座っていた。ルシファーが真っ当に第一王子として扱われている以上、この国の序列関係からして、側室の子のために本来なら国王や王妃が来る事はない。だから二人がいるのはあくまで私の為なのだ。
これだけでも原作通りのスタートではない事が分かる。少しずつ原作から変わってきていることに安堵しつつも、自分には分からないことが起こりそうな不安を覚えた。
私はルシファーとその従者、そしてメイデンを同伴者席に残して、壇上に近い場所にあるはずの自分に与えられた席を探す。するとアダムが手を振って教えてくれた。
「クレア、こっちこっち! クレアの席は僕の隣だよ」
「ありがとう、アダム」
このニ年間で打ち解けたアダムが親しげに私の名前を呼んだ。私は右にアダム、左にパウロがいる間の席に腰をかけた。パウロの横にもズラリと他の貴族が座っている。この親しげな様子だって、得られるはずのないものだった。私は原作と異なることへの戸惑いを隠すように、パウロにも話しかける。
「あれ、パウロも来てたの?」
「クレア様、私も賢者ではありますが、魔力検査はした事がないので来ていて当然でしょう」
パウロは呆れた顔をしてそう答えた。私は悪戯っ子のような顔をして腕をくの字に曲げ、茶化すようにグイッとパウロの腕に押し当てる。
「賢者と呼ばれるほどなんだから、どうせ火属性と水属性の両方とかじゃない? 検査するまでもなくない?」
私も随分パウロには馴れ馴れしく話しかけるようになった。パウロは未だ敬語だが、楽だからそれで良いらしい。でも私は好きに話したら良いと言われている。私には敬語の方が面倒なので、パウロに敬語を使うのはやめた。
「まあ、恐らくそうでしょうね」
普通の魔術師は、大人になるまでの間に最高難易度の火属性又は闇属性で行う攻撃魔法と水属性又は光属性で行う治癒魔法を成功させて一人前とされる。パウロはそれを八歳の時点で既に成功させていた。そこまで出来る人がなぜ教会の教育施設に入信するのか、ゲームをやっていた頃から気になっていた。これ幸いとばかりに、抱いていた疑問を投げかける。
「それに教育施設なんて来なくても良いぐらいじゃないの? むしろ教える側でしょお?」
「同年代の知り合いを作っておいて損はないのでね」
なるほど、結構普通な理由だった。それとも言わないだけで、他にも理由があるのだろうか。ふむふむ、と頷いていると、後ろから名前を呼ばれる声がした。
「おい、クレア。俺もいるんだからな」
「ダニエル! 最近騎士として認められたんだって? 十歳で騎士の称号を得るなんて、最年少じゃない!? さっすがダニエル!」
「なれて当然だ。俺は騎士の家系だからな」
アダムとパウロの姿を見て嬉しくなっていた私は真後ろにいるダニエルの存在に、呼ばれてやっと気がついた。攻略対象の三人に私が囲まれているのは違和感があるが、検査が終わればヒロインが三人の誰かと勝手に仲良くなるはずだ。その時私はさっさと退場すれば良い。ヒロインは平民だから、今は一番後ろで最後の席に座っている。
ワイワイと攻略対象の三人に互いを自己紹介させたりしてお喋りしていると、司祭の挨拶が始まった。
魔力検査の始まりだ!
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