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婚約しましょう、王子様!悪役令嬢の私があなたを立派な魔王にして差し上げます!  作者: 春夜くる佳


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魔導塔の図書室2

 私は最後の一冊を本棚から抜き取り、手に抱えていた他の本の上にポンと置いた。本が読める机に移動しようとパウロに声をかけてから去ろうとした時、

「これほど見事なまでに失われた属性を持つ者の特徴を備えている方は初めてみました」とパウロが先に話しかけてきた。


「……失われた属性?」


 気になることを言われて、つい聞き返してしまい、『しまった』と思った時にはもう遅かった。これで私はパウロの前から移動するタイミングを失ってしまった。


「そうです。あ、重たそうですね。あっちならお喋りしていてもいいので、お茶でもしながら一緒に読書はいかがです?」


 パウロは今いる場所とは反対側を指差して言った。私が何かを言うより先に、パウロは私の抱えていた本の殆どを取り上げてしまった。まだパウロが指し示す方向に行くとも言っていないのに、と思いつつも一応お礼を言う。


「ありがとうございます……?」


 パウロは意味深な笑みを浮かべると、図書室から出て廊下を歩き出した。その後ろをテクテクついて行く。図書室内のどこかでおしゃべりをしていても良い場所があるのかと思いきや、パウロは螺旋階段を登りだした。


 状況が飲み込めないまま後ろをついて行くと、私はノコノコと最上階まで付いてきてしまったことに気がついた。扉に近づくと、パウロの胸元につけられたバッジが光る。ここへ私一人では来れないようで、私の胸元のバッジは無反応だ。


「ここは?」

「私の研究室です。どうぞお入り下さい」

(なんですと!? 私解剖されちゃうの? ぴえん)


 興味を持たれないように気を付けていたのに、なぜパウロは原作でも好感度がかなり上がらないとヒロインを入室させないこの研究室に私を呼んだのだ。解せぬ。口元を引くつかせて怯えている私にパウロは呆れた顔をして見せた。


「なんですか、その顔は。取って食いやしませんよ。そこの椅子にお掛けください」


 ご丁寧なことに、パウロは手に持っていた本をテーブルに置くと、わざわざ椅子を引いてくれて私が座るのを待っている。そこまでされたら座るしかない。回れ右をしようとしたのに、察しが良すぎて困る。何をされるのか分からないので、早く話を終わらせよう。


「それで、失われた属性というのはどういう意味ですか?」


 私はソワソワしながらパウロに聞いた。パウロはなぜか椅子に座った私の両肩に後ろから手を置いて、立ったままでいる。逃げられない……。しかもいつになったらお茶を用意してくれるのでしょうかね。騙された感が拭えない。


「先程の図書室には、国王のみ入室が許可されている場所があるんです。そこで王族なら誰でも読める本に書いてあったのですよ。流石に国王と許可された者のみが閲覧可能な本はまだ解析できていないのですがね」パウロは私の耳元で囁くように言った。


「え? なぜそこにあなたが入れるのですか?」


 パウロの距離が近いのも気になるが、そんな場所が存在していたのかということにも驚いた。私が知らないゲームの設定があるようだ。


「魔道具をチョイと弄りましてね。内緒ですよ? まあ、あなたが言ったところで信じてもらえるような話ではありませんので、心配はしていません。理論的には不可能ですから」

「それを可能にしてしまうから、パウロ様は天才なんですよね、分かります」


 しまった、心の声がダダ漏れだ。私はアハハ、と乾いた笑いを漏らした。パウロは私の軽口に喜んだのか、後ろでサラッと私の髪を撫でた。なんでこんなに触れてくるのだろう……?


「あなたが私の思う属性を持っているとしたら、その事実を知るのは国王陛下とあなたの父上ぐらいでしょう。あなたの反応を見ている限り、モレッティ公爵は教えるつもりがないようですが……

私は優しいので、その本を読もうとしているあなたにならこの極秘事項を教えても良いと思っています。それに、あなた自身のことでもありますからね」


 パウロがその本と言って私の後ろから指を差したのは、テーブルに積み上げられた、私が最後に手に取った本のことだ。本のタイトルには、『人類と魔力の属性』とある。この本が一体なんだというのだろう? 混乱した私はパウロに捲し立てた。


「私のお父様が何を知っているというの? お父様はなぜそれを私に隠しているの?」

「さあ? 私にもなぜ本人にこの事を隠しているのかは分かりませんが、予想はつきます。大方あなたがその力を目覚めさせたら、世界のパワーバランスが崩れるとでも思っているのかもしれませんね」


 クレアの力に何かあるとしたら、母側に何かがあるのだと私は勘付いた。なぜなら、モレッティ公爵家に関する情報はあらゆる所でその功績や領地への貢献について目にすることができるのだが、母方の情報は全く出てこないからだ。私はクレアの母がクレアが幼い頃に病気で亡くなっているということしか知らない。原作でも、さらっと病死した、とあるだけで、何も語られていなかった。


「私が世界のパワーバランスを崩すほどの力を持っているとお父様や国王陛下が知っているなら、それを知っている国王陛下がその失われた属性とやらを私より先に使えばいいじゃないですか」

「知っていてもその素質がなければ目覚めさせる力がありません。私を含め、素質のない者が知ったところで意味がないのですよ」


 首を捻ってパウロの方を見ると、パウロは眉を顰め、残念だというように、わざとらしく頭を左右にゆっくり振っている。かと思えば、いきなり屈んで、私の耳元で囁いた。


「でもあなたは違う。それに、あなたは知っておいた方が良い」


 背筋がゾクッとした私は耳元で話しかけるパウロの方へ勢い良く向いた。目を見つめると、眼鏡の奥に見える緑色の瞳の色が一瞬深みを帯びたように感じる。整った顔立ちが近づき、ツンとパウロの鼻が私の鼻に当たる。


 こ、これは、まさかパウロのヒロインに対する好感度が上がった時のスチル!? え、なんで、どうして、私ヒロインじゃないんですけど……私が何をしたというのだ。


「でも、すぐに教えてもらえたら、勉強にならないと思います。ヒントだけ貰えませんか?」


 ただでパウロから情報をもらうことほど怖いものはない。ヒロインは平民でお金がないので、パウロに実験や研究での労働力という意味で体を差し出していた。ラブラブな状態になると、そりゃあ……労働力だけじゃなく、ゴホン。でも私はあとから何か要求されても困るので、先に断っておく。


 私の身体は差し出せませんよ〜と言う代わりに、顔を背け、椅子から腰を少しだけズラし、パウロから離れようとした。しかし私の抵抗も虚しく、パウロは私の肩から手を離し、後ろから私の両腕を包み込むように抱きついて来た。驚いた私は体がビクッと跳ね上がる。


 実験体のモルモットになった気分だ。パウロはそんな私にも構わず抱きつきながら器用に私の髪の毛をくるくると指に巻きつけて遊んでいる。


「それは良い心がけですね。いくつかヒントになりそうな本を教えてあげましょう。でも、まだ難しいでしょうから、まずはあなたが今日選んだ本を全て読破してからですね」


 パウロが今度は私の髪に顔を埋めて来た。パウロさんはさっきから何をしているのでしょう。理解が追いつきません。


 今のところ、パウロが言うことは一つも理解できないが、まずは言われた通り本を読んでみることにしてみよう。そうしている間にきっと自分の力についても分かってくるだろう。


 それよりもパウロがやたらと触れてくるのが気になる。私は先ほどから冷や汗が止まらないのを誤魔化すように言葉を紡いだ。


「たくさん読みたい本がありすぎて、どれから先に読もうか悩んでいたんです。どれから読むと良いとかはありますか?」


 私がそう聞くと、パウロは指から巻きつけていた髪をほどき、今度は私の頬を指で優しく撫で出した。


「最後に取った本は、後回しにすると良いでしょう。それ以外は気になる順で問題ありませんよ」


 髪に埋めていた顔を上げ、パウロは優しい声で私の耳元に囁いた。横目で見るとパウロからは妖艶な色気が漂っている。もう耐えられない。私はとうとう思い切って尋ねることにした。そうでないと、私の心臓がもう保たない。


「あの……先ほどから何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「あなたのような力を持つ者に対する適切な取り扱いがこうだと本に書いてあったので、試しているところです」

「……は?」

「あなたには『愛を示す』と良いことが起こるらしいですよ」


 やっぱりパウロの言っている意味が分からない。天才はいつだって言葉足らずだ。


 パウロは私にニコリと微笑み、目尻を落としてとろけそうな表情をしている。パウロがこの顔をする時は何かがある。この表情は、知的好奇心が満たされて恍惚としている時のパウロだ。これが十八歳ぐらいのパウロだったら色香にあてられて、私の意識が飛んでいたことだろう。

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