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婚約しましょう、王子様!悪役令嬢の私があなたを立派な魔王にして差し上げます!  作者: 春夜くる佳


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魔導塔の図書室1

 騎士の訓練場とは王宮を隔てた正反対の方向に建てられた魔導塔。呼び名の通り、煉瓦造りの高い塔が悠然と聳え立っている。


 建物の外観を見て、私は原作を思い出していた。


 この塔は魔道士たちの研究所だ。ここでは新しい魔法の開発や、既存魔法の精度を上げる研究などが行われている。また、戦争や魔物の討伐を行う際も、ここに在籍する魔道士たちが活躍する。


 ここはヒロインが攻略対象に賢者を選択した際に訪れる場所だ。平民なのに強い魔力を持ったヒロインが自己の研鑽に努めるため、ここで賢者から魔道士としての指導を受ける。元々魔力の強いヒロインではあるが、賢者を攻略するにはより精度の高い魔力操作と魔力量が求められる。他の攻略者が対象の場合、ここまでする必要はないので魔導塔で特訓するシナリオはない。


 この世界の『賢者』という職業は魔道士の上位職の者をいう。この世界に存在する属性の特性に応じて、魔道士にも攻撃魔法が得意な者と、回復魔法が得意な者がいる。


 両方使える存在は稀で、殆どの者は特定の属性が強いので、どちらかに特化して修練を積む。しかし、攻略対象の賢者は魔力検査をする十歳を迎える前には既にどちらも取得しており、教会の教育施設に入信した時点でもう賢者と呼ばれていた。いわゆる神童だが、今はまだ賢者ではないことはモレッティ公爵から事前に貰った書類で把握している。


 何にせよ、私は賢者を攻略する必要がないので、どうでも良い。もし出会ったとしても深入りすることはないのだから、気にしないで良いだろう。それに、ヒロインは賢者にここに呼ばれたものの、好感度を上げるイベントに突入させるには、確か何かをしなければならなかった。それってなんだっけ……?


 まあ、いっか! 私はここで学びたいだけだ。今からちゃんと修練を積んで、魔力検査の時に魔力量が少なすぎて恥をかくのを回避したい……!


 教育係から出される課題をこなしていれば普通は弾き出さないだろう魔力量を原作のクレアは晒してしまう。普通に取り組んでいれば身体の成長に応じて当たり前に成長するはずの魔力量が、全くやらなかった所為でクレアは三歳児ぐらいの魔力量しか検査時にはないのだ。


 モレッティ公爵は原作でもクレアを甘やかしていて、魔力量など気にしていなかった。生きていて、元気でさえあれば良いと普段から言っていたようだ。そんなモレッティ公爵につけ込んで、クレアは教育を受けるのをほぼ放棄していた。クレアはオシャレをするなど外観を磨くことにしか興味がない子だった。


 悪役令嬢の周りによくいる取り巻きも同じような貴族令嬢ばかりで、彼女たちの影響もあってクレアは由緒正しいモレッティ公爵家の令嬢であるにも関わらず、優等生からは程遠い子に成長し、次第に腫れ物扱いされるようになってしまう。


 実際、今の私もやっと同い年の最底辺に届くかな? ぐらいの魔力量しかない。つまり平均からも程遠い。転生してから三歳児並みの魔力量を地道な努力でやっとここまで伸ばしたが、真面目な子であれば私の二倍はあるだろう。


 ヒロインとなれば、もう私の何倍あるか分からない。十歳で行われる魔力検査にはあと二年ある。それまでにヒロインを超えるとまでは行かずとも、せめて恥ずかしくないぐらいにはしておきたい。


 しかも最近では全く魔力が伸びなくなって来たのだ。だからこの魔導塔に来たら新しい刺激を得て伸びるのではないかと密かに思っていたので、私が言うより前にモレッティ公爵が提案してくれて助かった。


 私は深呼吸をして、魔導塔の入口に足を踏み入れた。まずはこの塔の一階にある、来訪者対応をする部屋に向かう。モレッティ公爵の書状をメイデンが受付係に渡すと図書室へ行く許可が下りた。


 今後は自由に出入りしても良いと言われ、関係者に渡されるバッジを持たされる。身につけていれば私が入室を許可されているフロアと部屋の扉が勝手に開く魔道具だ。関係者であることが分かるように、見つけやすい位置、胸元にそれをつける。ここにいる人達は皆そうしているらしい。他にも塔の内部を説明される。お目当ては図書室だ。


 話を聞き終わって私が早速図書室に向かおうとしたら、メイデンが口を開いた。


「では、また夕方頃に迎えに来ます」

「え? メイデンは一緒じゃないの?」まだ朝だけど、メイデンがいないのに、お昼はどうしたらいいの? と不安に駆られる。


 今からお昼ご飯の心配かと思われたら、『やっぱりクレア様にはまだ魔導塔は早かったようですね』なんて言われてしまう可能性がある。そうしたら一週間の監禁生活が水の泡に! 今は黙っておこう。


「はい、私はクレア様の侍女ではありますが、魔導塔への出入りを許可されていません」

「えっ! なんでダメなの? じゃあ、私はここで一人で過ごすってこと?」

「左様でございます。部外者の出入りは禁じられておりますので。では、有意義な時間をお過ごし下さい」


 メイデンはそれだけ言うと、さっさと出口に向かって行ってしまった。ねえ、お昼ご飯はどうしたら良いの……。聞きそびれてしまった。


 魔導塔は魔法を研究する機関だ。たとえクレアの侍女だろうと部外者として扱われるということか。ヒロインは平民だから侍女を連れていなかったので気がつかなかったが、ここに平民が特訓に来れるということだけでも凄いことなのだ。それだけヒロインが優秀だということを改めて思い知らされた。可愛くて、性格も良くて優秀なヒロインに悪役令嬢が勝てるのは爵位だけなのだから、冷遇されて当然だ。早く魔力を伸ばさねば、このままでは私も原作のクレアと同じ道を辿ってしまう。


 お昼ご飯は後で考えよう。それより一刻も早く知識を吸収しなければ、と図書室があるフロアへ続く螺旋階段を上った。


「最高ね……ここは知識の宝庫だわ……」


 天井高くまで家の書庫にはない本が所狭しと本棚に並べられている。貸し出しも許可されていることだし、ヒロインが読んでいた本は片っ端から読ませていただこう。そうすれば私も今よりかは魔法への理解度が深まって魔力量も容易に伸ばせるかもしれない。


(確かゲームでは右から三番目と、中央の本棚にあるやつと……あとはこれとこれだったかな?)


 ゲームでは選ぶ本によって知力が上がり、相対的に魔力も増える仕組みだった。最低でも十冊は選ばなければならない。私はヒロインが読んでいたと思われる本を探して図書室を彷徨い歩いた。


 それに、選ぶ順番もポイントで、所定の順で選ぶと……何が起こるんだったっけ?


(最後に選ぶ本が重要だった気がする。確か図書室の一番奥の一番端にある本だったかな)


「そうそう、これだわ」


 私は求めていた最後の一冊に手を伸ばした。


「ほう、その本を手に取る者は私以外にいないと思っていましたが……知識欲が旺盛のようですね。感心しました」

「ひゃっ! 誰!?」


 声がした方を見ると、そこには灰色のローブを着た男の子が立っていた。水色の髪に緑色の瞳と眼鏡……うわっ、出会ってしまった……不覚だった。


 いや、待てよ? 私が本を選んだ順番の所為でこうなったのだ! あれはここで賢者と好感度アップイベントを発生させるための手順だ。魔力量を増加させることばかりに気が逸れて、賢者を出現させる方法でもあったことを忘れていた! まさか私がやっても、ここで賢者と出会えるだなんて……考えなしだった。


「あなたが噂のモレッティ公爵令嬢ですか?」


 しっかりとモレッティ公爵から通達が渡っているようだ。この魔導塔にいる子どもは私と賢者ぐらいなので、すぐ私がモレッティ公爵令嬢だと分かったのだろう。でも私はあなたに会いたくなかった……。ビクビクしながら賢者の言葉に頷く。


「は、はい……あ、あなたは?」


 名前を知ってはいるけれど、何も知らないはずのクレアが知っていたらおかしいのであえて尋ねる。ダニエルの時のような間違いはしない! 私は失敗から学べる子なのだ。


「私はパウロ・ウィズダムと言います。伯爵家の出身ではありますが、ここではパウロとお呼び下さい、モレッティ公爵令嬢」

「ありがとうございます、パウロ様。どうか私の事もクレアとお呼び下さい。見た所、年齢も近いようですし……」

「そうですね、ではクレア様と呼ばせていただきます」


 パウロの目は笑っているが、目の底が笑っていない。パウロの事だ。彼は今私を注意深く観察している。怖い……この人、研究や実験と考察が大好きな野郎なんだよ。絶対私を見て何か考えている。


(どうしよう、何事も起こらないと良いけど……)


 パウロが私を観察していることに気がついていると、バレてはいけない。変に興味を持たれると面倒な事が起こりそうな気がする。私はパウロと同じようにニッコリと微笑んで無邪気な子どもを装った。

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