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HOME - 巨樹が空を覆う世界で -  作者: lovely plants
第2章 脈動

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第6話 唐揚げの味

 昼休み。いつもの階段の踊り場。


 ツムギが手作りの弁当を広げている。卵焼きにミニトマト、鶏の唐揚げ。彩(いろど)りが良くて、丁寧で、ツムギらしい。


「はい、レンくん。唐揚げ多めに作ってきたよ」


「お、サンキュー」


 レンが唐揚げを受け取る。ツムギが嬉しそうに微笑(ほほえ)む。


 ——作ってきた。レンのために。


 考えるな。そういうことを考えるな。ツムギは優しい子なんだから、みんなの分を多めに作ってきただけかもしれない。


「ハンナちゃんも食べる?」


 ほら。


「……ありがとう」


 ひとつもらった。美味しかった。悔しいくらいに。


「ツムギ、料理うまくなったよな。前はもっと焦げてたのに」


「ちょっと!それ中学の時の話でしょ!もう時効(じこう)だよ!」


「いてて、叩くなって」


 じゃれ合う二人。幼馴染とは違う、もっと甘い匂いのする距離感。


 私は唐揚げを咀嚼(そしゃく)しながら、窓の外を見た。


 巨樹。


 あの中に——本当に人がいるのだろうか。


「……ねえ」


 気づいたら、声が出ていた。


「ん?」とレン。「なになに?」とツムギ。


「……巨樹のこと、不思議に思ったことない?」


 沈黙が落ちた。一拍だけ。でもその一拍が、やけに長く感じた。


「不思議って?」


 レンが首を傾げる。


「なんであんなに大きいのかとか……いつからあるのかとか」


「んー、考えたことないかも」とツムギ。「だって昔からあるものでしょ?」


 やっぱりそうだ。みんなそう言う。


「ハンナちゃん、もしかして調べてるの?朝読んでた本って、もしかして——」


「——べつに。ただの暇つぶし」


 遮った。自分でも驚くほど早口だった。


 ツムギが少し目を丸くして、それからふんわりと笑った。


「ハンナちゃんって、そういうの好きだよね。かっこいいと思う」


 かっこいい。そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。


「……そう?」


「うん。私なんて、目の前のことしか考えてないからさ。ハンナちゃんみたいに深く考えられる人、すごいなって」


 ツムギの目はまっすぐだった。お世辞じゃない。本気でそう思っている。


 だから——だからこそ——私は何も言えなくなる。ツムギの真っ直ぐさの前では、私の中のどろどろした感情が、全部醜いものに見える。


「ハンナ」


 レンが、静かに言った。


「無理に調べなくていいんだぞ」


「……無理なんてしてない」


「嘘つけ」


 二回目だ。レンに嘘を見破られるのは。


「お前、昨日からずっとどっか遠くを見てる。巨樹のことが気になるなら気になるでいい。でも——」


 レンが言葉を切った。唐揚げを食べ終えた手で、自分の首の後ろをがしがしと掻く。照れ隠しの癖だ。


「——ひとりで抱え込むなよ」


 心臓に、ひびが入ったような気がした。


 嬉しいのか悲しいのか分からない。レンのこういう言葉が、私を繋ぎ止めている。でも同時に、こうやって優しくされるたびに、ツムギの視線を感じるのだ。


 見た。ほんの一瞬だけ、ツムギの目が揺れたのを。


 すぐに元の笑顔に戻った。でも私は見逃さなかった。ツムギがレンを見る目。レンが私を心配する声を聞いたときの、あのかすかな翳(かげ)り。


 ——ごめん、ツムギ。


 何に対して謝っているのか、自分でも分からなかった。

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